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第3回:【奈良県生駒市】地域の「資源循環」「住民のコミュニケーション増幅」の拠点をつくる!ICT利活用事例「地域消滅時代」に立ち向かう自治体行政のICT利活用

zu7.jpg地域を豊かに持続していく、従来型のシステムに代わる新たな社会システムとはどのようなものか?アミタグループでは、上記の提案として、地域価値および持続性を高める支援を行っています。第3回は、奈良県生駒市における実践事例をご紹介します。

※本コラムの一覧はこちら
※本記事は「都市清掃」7月号(2020年7月中旬発行予定)に掲載予定です。一部、加筆・修正しています。

写真:拠点ステーションの外観

自治体事例:奈良県生駒市の持続可能な地域づくり

前回、ご紹介した南三陸町での実証実験の成果を踏まえ、同ステーションをさらに機能改良した上で実施したのが、奈良県生駒市での実証実験です。本実証は、同市の「日常の『ごみ出し』を活用した地域コミュ二ティ向上モデル事業」におけるもので、2019年12月下旬から翌2020年2月末の間、NECソリューションイノベータ株式会社と共同で実施しました。

生駒市は奈良県北西部に位置する人口約12万人の都市であり、主に大阪経済圏のベッドタウンとして発達してきました。内閣府の「SDGs未来都市」(※1)に選定されると共に、自治意識の高い住民による主体的な価値創造・まちづくりを目指す「自治体3.0」(※2) を標榜するなど、地域づくりに向けたコミュニティ活動が活発な地域です。しかし、今後については国内の多くの自治体と同様、人口減少・少子高齢化等による社会保障費の増大、地域コミュニティにおける人間関係の希薄化等のリスクを抱えています。

そこで本実証実験においても、すべての住民にとっての日常的行為である"ごみ出し"を切り口としたコミュニティ強化拠点としての「ステーション」を設置し、地域内の資源化循環および、住民主体の持続可能なまちづくりを推進することをねらいとしました。

※1 SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)は、2015 年国連持続可能な開発サミットで採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に向けた具体的な国際目標。「SDGs未来都市」は、地方創生分野における日本の「SDGsモデル」の構築に向け、優れた取り組みを提案する自治体として内閣府が認定するもの。
※2 市民と行政が協働でまちづくり・公共サービスの提供を推進する同市の考え方。

本実証でのステーションは、常設の「拠点ステーション」と、週2回稼働の「地区ステーション」の2種を各1カ所ずつ設置しました。

zu8.jpg南三陸町の事例同様、対象地域の住民の方々にはごみを分別したうえでステーションに持ち込んでもらいます。ごみやリユース品の持ち込みに参画した住民の方には、パソコンやスマートフォン等の専用アプリを通して「感謝ポイント」が付与されます。同ポイントはリユース品との交換や、住民間での贈り合いの他、地元商店やボランティア団体への寄付等に利用できる仕組みです。

写真:「感謝ポイント」付与の様子

zu9.png最大の特徴は「感謝ポイント」アプリとLINEアプリとの連携です。住民の方はステーションのオリジナルキャラクター「みーたん」のアカウントを「友達登録」し、LINEアプリの各種機能を通して、ステーションに関するリアルタイムの情報受信やごみ分別に関する質問等を行うことができます。

写真:オリジナルキャラクター「みーたん」とLINEアプリ画面(クリックで拡大)

zu10.jpgアプリの主機能は下記の通りです。

  • リユース品の持ち込み、引き取り情報の受信(右記、写真参照)
  • 「感謝ポイント」の取得、交換
  • 住民間の「感謝ポイント」の贈り合い
  • 寄付ポイントの利用状況の確認
  • ステーションの混雑状況の確認
  • 資源持参状況の確認 (対象地区住民を数チームに分け、所属チームごとのごみの持ち込み量やCO2排出削減への貢献度等を発信。)
  • ごみ分別に関する質問 (一般的な質問に対しては自動返信機能により定型回答、そうでない場合は担当者から個別回答を実施。写真を添付した質問も可能。)

写真:リユース情報発信画面(クリックで拡大)

スマートフォンアプリの活用可能性

本実証実験の「感謝ポイント」アプリに関する住民の方々の選択性を示す反応の1つとして、登録時のシステムの利用割合が挙げられます。本実証では南三陸町と同様の登録者用ICカードに加え、新たな取り組みとしてスマートフォン専用アプリを導入しました。この2つの方法で参加登録の受け付けを行ったところ、スマートフォン専用アプリによる登録者数はICカードによる登録者の約2倍にもなったのです(図1参照)。これは、スマートフォンの利便性によるものだと考えられます(ただし、移動式の「地区ステーション」ではICカードによる参加登録のみ受け付けました)。なおアプリ利用者の55%(※3)は60歳以上であり、スタッフによる指導や資料等のフォローがあれば、シニア世代も問題なく利用できることが明らかになりました。これらより、従来の自治体広報誌等の印刷物・掲示物に対し、即時発信にも適したLINEアカウントによる情報発信の活用可能性が見出されました。

zu11.jpg

図1 実証参加者の登録方法割合

また、参加住民の方々の「外出頻度」を実証実験への参加前後で確認し比較したところ、アンケート有効回答(52名)のうち25%(※3)については、外出頻度の増加が見受けられました。情報発信との関係性は明確にはなっていませんが、1つの要因になっていたことが推測されます。
※3 拠点ステーションにおける登録者情報およびアンケート回答を基に算出。

IoTごみ箱と収集データの活用可能性

さらに本実証実験では、センサーを備えた「IoTゴミ箱」を回収品目ごとに設置し、どのようなごみがいつ・どれだけ持ち込まれたかを自動的に記録するシステムを導入しました。蓄積・分析されたデータは、ナッジの考え方を取り入れた情報発信の参考となるだけではなく、新たな活用可能性が浮上しました。それは「製造メーカーを中心とした産業界との連携」です。
近年は「持続可能なサプライチェーン」に注目が集まっています。具体的にいえば、企業各社に対しては、プラスチックをめぐる国際事情の変化により国内処理が求められることとなった廃プラスチックをはじめ、廃棄物の再資源化やサステナブル調達等への対応が求められています。そのため、ユーザーに直接リーチできる機会や、製造品の回収拠点としての可能性を追求した本実証は、サーキュラー・エコノミーの実現に取り組む企業から注目を集めています。企業からの視察の受け入れも実施されています。持続可能なサプライチェーンの実現に向けて、地域と企業の連携により、新たな産業創出の可能性が生まれています。
以上のように、奈良県生駒市の住民の皆様、自治体・企業の関係者の皆様と連携のもと、取り組みが進められています。

おわりに

ICT機能を活用した弊社事例の取り組みでは、一般廃棄物の分別回収を切り口に、その資源化にとどまらず、地域が抱える様々な課題解決にアプローチすることが可能です。特に期待される効果は次の2点です。

  1. 企業と地域住民(又は地域内での活動団体)がつながることで、産業廃棄物・一般廃棄物という既存の枠組みを越え、産業界における持続可能なサプライチェーンの創出が可能となる。その結果、廃棄物処理をめぐる財政負担の軽減と同時に、最終的には焼却炉や埋立地を必要とせず、全てのものが循環し、資源として利活用される社会の構築を目指していくことができる。
  2. すべての住民が日常的に行う"ごみ出し"という生活行動を通じ、コミュニティ機能の強化や再構築に不可欠な住民同士の「共通の目的」と「協働の舞台」が生まれる。加えて、従来型の「生産と消費」のみの生活行動に「分解(再資源化)」という、持続可能な「生態系社会の物質循環要素」が組み込まれる。さらには「持続可能な循環型社会の構築」という目標が住民の中に「共通の目標」として動機づけられることで、地域コミュニティ力の醸成が期待される。

現在、地球規模で進行する環境・社会問題に対して、社会の持続性の向上ならびに循環型社会実現の要請が高まっています。この実現のためには「排出されたごみをどう資源化するか」という従来の廃棄物処理の延長の考え方に代えて「資源を循環させるために生産と消費はどうあるべきか」という視点が不可欠です。弊社ではこのような視点から、循環型の新たな経済、すなわち「サーキュラーエコノミー」の実現に向けた様々な提案を、各自治体および企業に行っています。「ごみ=不要なもの」という概念自体が存在しない、自立分散で持続可能な地域の実現が、弊社の目指すゴールの1つです。
上記の実現に向け、弊社では資源循環とコミュニティ強化を達成する新たな社会的プラットフォームづくりの構想を進めています。NECソリューションイノベータ株式会社をはじめ、様々な業種の企業との連携をさらに促進しつつ、ICTを活用した本実証実験の結果を踏まえ、地域資源の最適な循環を統合的に実現する事業の開発と実践に取り組んでいく方針です。

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