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第2回:【宮城県南三陸町】地域の「資源循環」「住民のコミュニケーション増幅」の拠点をつくる!ICT利活用事例「地域消滅時代」に立ち向かう自治体行政のICT利活用

zu4.jpg地域を豊かに持続していく、従来型のシステムに代わる新たな社会システムとはどのようなものか?アミタグループでは、上記の提案として「ごみ出し」を活用しながら、地域価値および持続性を高める支援を行っています。第2回は、宮城県南三陸町における実践事例をご紹介します。

※本コラムの一覧はこちら
※本記事は「都市清掃」7月号(2020年7月中旬発行予定)に掲載予定です。一部、加筆・修正しています。

自治体事例:宮城県南三陸町の持続可能な地域づくり

東日本大震災により大きな被害を受けた宮城県南三陸町にて、弊社はボランティア活動を契機に復興活動に関わり、震災翌年から持続可能な地域づくりに向けた事業計画を展開しています。同町は人口約1万3千人、リアス地形の志津川湾を囲むように位置し、森・里・海・街が一体となった豊かな自然環境を擁しています。津波の被害で庁舎関係をはじめ、町の中心市街地のすべてが流失しましたが、震災後の復興過程で同町は「森 里 海 ひと いのちめぐるまち 南三陸」という理念を掲げ「南三陸町バイオマス産業都市構想」を策定しました。同構想の策定・実践にあたり、弊社は官民連携(PPP:Public Private Partnership)の事業として、住民の方々や自治体関係者らと共にまちづくりの構想策定と実現を進めてきました。
上記構想の中核として開設されているのが、バイオガス施設「南三陸BIO(ビオ)」です。本施設は、地域内から回収した生ごみ等からバイオガスと液体肥料を生成しています。かつては行政サービスで「処理」がなされてきた地域の廃棄物系バイオマス(生ごみ、余剰汚泥等)を、地域資源として資源化・有効活用することがねらいです。バイオガスは施設内の発電エネルギーとなり、液体肥料は地域の農作物栽培に活用されます。また、本施設稼働のためには、地域住民の方々による「ごみの分別」が不可欠です。そして、この分別作業や液肥活用を通して、住民の方々の交流が生まれており、地域コミュニティの強化につながっています。「南三陸BIO」は単なるインフラ機能ではなく、自然が循環し、人と人とが繫がる持続可能な地域づくりの中軸と言えます。

ICT×ナッジ活用によって、ごみの分別品質が向上

上記の通り、同町では「南三陸BIO」の稼働以降、全町内(約4,500世帯と各種の事業施設)で生ごみの分別回収が行われています。2016年以降は、生ごみの異物混入状況等を地区ごとに計測し、異物混入が少ない地区を優秀地区として発表するなど、回収状況を住民の方々へフィードバックする取り組みを行ってきました。そして、本取り組みのさらなる深化を目指すICT導入実験として、2018年8月末から約3カ月間、NECソリューションイノベータ株式会社や宮城県南三陸町内の企業との共同で「ICTを活用した生ごみ分別の参加状況可視化実験」を実施しました。

本実験ではICTを活用し、地区ごとの住民の方々の分別への参加状況を可視化すると共に、その情報をデータベースとして、地区ごとの異物混入率や生ごみ回収量を計測・分析しました(図1参照)。

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図1 「ICTを活用した生ごみ分別の参加状況可視化実験」(クリックで拡大)

ICT導入の主な効果は2つあります。1つは回収状況の集計・分析作業が効率化されたこと、もう1つは、集計データに基づき、住民の方々の分別認知度・モチベーション向上を促す効果的な働きかけ、いわゆる「ナッジ」を可能にしたことです。
「ナッジ」(英語 nudge:ひじで軽く突く)とは、行動科学の知見に基づく工夫や仕組みによって、人々がより望ましい行動を自発的に選択するよう促す誘導の手法を指します。
ナッジ」の実証では、一部の回収拠点に感謝状および回収状況を示すレポートを掲示しました(図2参照)。

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図2 「ICTを活用した生ごみ分別の参加状況可視化実験」(クリックで拡大)

感謝状および回収状況を示したレポートなど「感謝のフィードバック」は、分別行動にどのような効果をもたらすのか。「感謝状掲示群」(ランダムに抽出した42カ所)と、同フィードバックを示さない「感謝状非掲示群」(219カ所)の2群に分けて比較し、その効果を検証しました。その結果、生ごみ量・分別品質のいずれにおいても、非掲示群より掲示群の住民による平均変化量が有意に大きいことが確認されました(図3参照)。すなわち、住民の方々への「感謝のフィードバック」が分別回収の参加意欲向上に有効であることが明らかとなったのです。

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図3 感謝のフィードバックによる住民の参加意識の変化(クリックで拡大)

zu3.jpgこのように、ICT導入により蓄積・可視化されたデータを活かして、分別ルールの認知度把握や、ルールが徹底できていない地区への個別のフォロー、住民の方々のモチベーション向上に向けた施策等を行い、分別・回収量の向上を図ることが可能であると実証されました。
本実証実験は、取り組みの新規性・社会的意義や行動科学の適切性等が評価され、環境省が主催する令和元年度「『ベストナッジ賞』コンテスト」においてベストナッジ賞を受賞しています。

写真:小泉環境大臣からの「ベストナッジ賞」授与の様子

「感謝ポイント」によるコミュニティ形成・資源循環の促進

上記の「ICTを活用した生ごみ分別の参加状況可視化実験」と並行して、同町ではもう1つの実証実験が行われました。南三陸町が目指す「ごみ焼却・埋立ゼロの町づくり」の次なる一歩となる「包括的資源循環の高度化実証実験」です。
2018年10月より約2カ月間、NECソリューションイノベータ株式会社および南三陸町の地元企業4社との共同で実施した本実証では、資源循環の拠点「MEGURU STATION」(めぐるステーション、以下ステーション)」を町内に設置しました。zu4.jpg参加者の方を事前に募集し、ステーションへ回収対象となる資源ごみの分別と持ち込みを実施いただきました。そして、実証期間後に、持ち込まれた資源ごみの計量・分析および参加者へのアンケートを行い、資源ごみの分別・回収の状況とステーションの利便性・有用性等を検証しました。

写真:「MEGURU STATION」の外観

このステーションの第1の機能は「地域内の資源循環の拠点」です。本実証実験に参加を表明してくれた住民の方々に資源ごみを持ち込み、分別してもらうことで、町内におけるすべての一般ごみの資源循環率の向上を目指すものです。
第2の機能は「住民間の関係性構築の拠点」です。まず、ごみの持ち込みに参画した住民の方々へ、インセンティブとして、ICTを活用した「感謝ポイント」が加算されるICカードを発行しました(写真参照)。zu5.png同ポイントは資源ごみの持ち込みに加え、ステーションで行われる各種イベントに参加することでも付与されます。そして、住民同士で交換し合うことも可能です。互いに身近な人の親切な行動に対して、感謝の気持ちを「感謝ポイント」を通して伝えあうことができるというシステムです。さらに、併設施設のカフェメニューや地元で生産された農産物との交換等に使用できるようにし、地域内の資源循環・地域経済の活性化に繋がるシステムとするべく設計しました。
本実証実験は当初、事前募集をした対象地区内の100名前後を想定していましたが、開始以降も希望があれば、居住地区に関わらず参加を受け付けました。結果、最終の参加者数は当初想定の約4倍となる400名にのぼりました。また事後アンケート調査にてステーション開設の継続希望を尋ねたところ、実証実験終了後も「継続してほしい」との回答が、100%を占めました。

写真:感謝ポイント付与に用いたアプリ「Thanks APP」

ICTを活用した「感謝ポイント」のシステムはステーション全体における1機能として設計されたものであったため、個別に効果を検証することは難しいですが、主要機能の1つとして、住民の方々の参画度に一定寄与していたと推測されます。実際、上記のアンケートにて「感謝ポイント制度」についての感想を尋ねたところ「とても良い」または「良い」と回答した層が9割弱を占めました(図4参照)。

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図4 「感謝ポイント制度」に関する参加住民の方々へのアンケート結果(クリックで拡大)

このように、宮城県南三陸町の住民の皆様をはじめ、行政、企業の皆様との連携によって、持続可能な街づくりが進んでいます。次回は、本事例での実証実験の成果を踏まえ、同ステーションをさらに機能改良した上で実施した、奈良県生駒市での実証実験についてご紹介いたします。(第3回へ続く)

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