コラム
緊急解説!新型コロナウイルス感染症に係る廃棄物処理法令改正の内容とは?BUNさんの「元・行政担当者が語る 廃棄物管理のイロハ」
現在、新型コロナウイルス感染症の感染拡大によって、廃棄物処理が滞るといった事態が懸念されています。こうした緊急事態に備えるため、2020年(令和2年)5月1日、廃棄物処理法の省令が改正され、即日施行されました。また、同日には、環境省より施行通知※が出されています。
今回は、2020年5月1日の改正概要について、BUNさんにお尋ねしました。
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※廃棄物の処理及び清掃に関する法律施行規則の一部を改正する省令の施行及び 新型コロナウイルス感染症に係る廃棄物の円滑な処理等について(通知)
目次 |
廃棄物処理法令改正、大別すればポイントは2つ
アミタ石田:BUNさん、早速ですが、今回の改正の要点を教えてください。
BUN:はい、ざっくり言ってしまえば、改正点は次の2点だけです。
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アミタ石田:あれ?施行通知はA4で16ページありましたよね?2点だけ何ですか?
BUN:私が見る限りでは前述の2点に尽きるのですが、その運用が単純ではないことから、施行通知がこれほどまでに多くなったものと感じています。
保管量上限規定を一時的に緩和する
BUN:では、まず、比較的説明しやすい「保管量上限規定を一時的に緩和する」から取り上げましょう。従来通りの処分に関する保管量の上限はわかりますか?
アミタ石田:「施設の一日当たりの処理能力×14日分」ですよね。例えば「ある処理施設の一日当たりの処理能力が100tだったら、その処理施設に保管していい産業廃棄物の量は100t×14日=1400tまで」というルールですよね。今回は、このルールを引き上げたということですか?
BUN:はい。具体的な日数は条文よりも通知文の方がわかりやすいと思います。対象となる廃棄物も限定されています。下記は、通知文をまとめたものです。
▼令和2年5月1日通知より、一部抜粋
特例の対象となるのは、次の(1)から(6)までに掲げる種類の産業廃棄物であり、処理施設の1日分の処理能力にそれぞれに定める日数を乗じて得た量だけ、処分又は再生のための保管が認められる。 |
▼令和2年5月1日通知より、一部抜粋
No. | 対象となる廃棄物 | 日数 |
(1) |
汚泥 |
35日 |
(2) |
安定型産業廃棄物 |
35日 |
(3) | 鉱さい | 35日 |
(4) | ばいじん | 35日 |
(5) | 建設業に係る産業廃棄物 (工作物の新築、改築若しくは除去に伴って生じた木くず、コンクリートの破片(石綿含有産業廃棄物を除く。)であって、分別されたものに限る。) |
49日 |
(6) | 建設業に係る産業廃棄物 (工作物の新築、改築若しくは除去に伴って生じたアスファルト・コンクリートの破片であって、分別されたものに限る。) |
91日 |
アミタ石田:例えば、鉱さいの場合は「施設の一日当たりの処理能力×14日分」が「施設の一日当たりの処理能力×35日分」になるということですね。
BUN:その通りです。これまでの倍以上の廃棄物の保管が認められることになります。ただし、この保管量拡大制度は事業者、いわゆる排出事業者と優良認定業者だけに認められる措置です。そして、排出事業者は、自らがその産業廃棄物の処分又は再生を行う者に限るとあるので、自社処理をしている方だけに限定されます。また新型コロナウイルス感染症関連と認められる状況等も規定していますから、注意してください。
▼令和2年5月1日通知より一部改変
処分又は再生を行う処理施設において、事業者(自らがその産業廃棄物の処分又は再生を行う者に限る。)又は優良産廃処理業者(処分又は再生を行う場合に限る。以下三において同じ。)が、 「3 対象となる産業廃棄物と保管上限」に示す産業廃棄物の処分又は再生のために保管する場合であって、その保管が新型インフルエンザ等※注による当該処理施設の運転の停止その他の新型インフルエンザ等に起因するやむを得ない理由により行う保管であるときは、 その保管容量の上限を拡大するものである。 ※注...新型インフルエンザ等対策特別措置法(平成 24 年法律第 31 号)第2条第1号に規定する新型インフルエ ンザ等をいい、同法附則第1条の2第1項の規定により新型インフルエンザ等とみなされる新型コロナウイルス感染症を含む。 |
BUN:具体例でいうと...そうですね。例えば、建設系廃棄物の排出事業者は法律第21条の3で「元請」と規定していますから、元請業者が自分で責任持って保管しているときと、信頼性が高いと認定されている優良認定業者にだけ認められる措置と言うことなんですね。
アミタ石田:なるほど、日数を見ると大幅な緩和ですが、対象は限定されているのですね。
BUN:はい、なぜこのような改正を行ったかですが、新型コロナウイルス感染症が今までの状況と大きく違うのは、感染力が大きく、一旦感染者が出てしまうと「濃厚接触者」とされる方々が、何日間か事実上隔離されてしまうことです。実際に、ある自治体の一般廃棄物収集運搬基地では、小規模ながらこうした事態が発生したようです。もし、これが産業廃棄物処理施設で発生してしまうと、当然、その処理施設の稼働は停止してしまう。さらに、その処理施設が停まれば、その処理施設に搬入予定していた産業廃棄物の流通も停まってしまう。
アミタ石田:流通全体がストップしてしまうわけですね。
BUN:そこで保管量上限を拡大するという改正ということですね。なお、今回の改正省令の対象となる優良産廃処理業者は、廃棄物の保管上限を増やすために届け出が必要になります。
許可不要制度の追加について
BUN:次に許可不要制度についてです。こちらも感染症の影響を想定しています。簡単にいうと、以下のようにまとめられます。
新型コロナウイルス感染症のまん延等により、処理会社が廃棄物処理を行えなくなることや、市町村が事務を行えず、廃棄物処理業の許可を出せないという事態が想定されるため、環境大臣と自治体首長による「事実上の指定制度」を導入。 ※一般廃棄物であれば「大臣又は市町村長」、産業廃棄物であれば「大臣又は都道府県知事」が指定する。 |
アミタ石田:こちらについては驚きました。廃棄物処理法では他者の廃棄物を扱うときは「処理業の許可」が必要と規定していますし...。
BUN:はい、一般廃棄物であれば第7条、産業廃棄物であれば第14条に規定している「処理業許可」ですね。しかし、この許可条文には「ただし書」が付いていて、その一つに「省令で規定する者」があります。
アミタ石田:あっ、省令で規定している者は許可不要、という規定ですね。確か、一般廃棄物の場合は市町村の委託業者とか、産業廃棄物であればフェニックス事業とかが規定されている制度ですね。
BUN:今回は、その省令規定にこのたび「環境大臣又は首長が指定する者」という事項が追加されました。
アミタ石田:それで、一般廃棄物であれば「大臣又は市町村長」、産業廃棄物は「大臣又は都道府県知事」が指定する者は廃棄物処理業許可がなくても廃棄物を扱えるってことですね。
BUN:はい。代表して一般廃棄物収集運搬業についての改正条項を確認してみましょう。
▼新省令第2条第14号
災害その他やむを得ない事由により緊急に生活環境の保全上の支障の除去又は発生の防止のための措置を講ずるために、環境大臣又は市町村長が特に必要があると認める場合において、当該事由を勘案して環境大臣又は市町村長が定める期間に一般廃棄物を適正に処理する能力がある者として環境大臣又は市町村長が指定する者(一般廃棄物処理基準又は法第6条の2第3項に規定する特別管理一般廃棄物処理基準(処理の緊急性に鑑み基準をそのまま適用することが適当でないと環境大臣が認めた場合においては、適用することが適当でないものとして環境大臣が指定する基準を除く。第2条の3第10号において同じ。)に従い、環境大臣又は市町村長が指定した一般廃棄物の収集又は運搬を業として行う場合に限る。) |
アミタ石田:なるほど。でも、そもそも適正処理をしっかりと行うために、許可制度があるんですよね。許可不要になるとその辺りが心配です。
BUN:そうですね。また、原則的には一般廃棄物は市町村の許可・権限。産業廃棄物は都道府県の許可・権限という決まりがあるので。(一般廃棄物は市町村の自治事務、産業廃棄物は都道府県の法定受託事務という違いはありますが。)「この頭越しに国が許可しちゃうってことは越権行為じゃないか」という点も気になるところです。
アミタ石田: 確かにそうです。
BUN:そのため、施行通知では次の一文があるんです。
▼令和2年5月1日通知より、一部抜粋
指定は、環境大臣又は市町村長が行えることとされている。一般廃棄物の円滑な処理に問題が生じた場合には、原則としてまずその地域の市町村長がその対処方法を検討すべきであるから、市町村長が指定を行うことが適当である。しかしながら、一般廃棄物の処理業務の停滞が複数の市町村において同時に発生し、廃棄物処理について広域にわたる処理体制を構築する必要があり、環境大臣が一括して指定する方が効率的な場合や、災害その他の事由に起因して市町村における行政機能が大幅に低下している場合などには、環境大臣が指定を行うことができる。その場合、市町村における事務に混乱を来さないようにするため、原則として環境省から市町村に対して事前に通知を行う。 |
...既に当該市町村において産業廃棄物の処理に係る許可を有している場合、他の市町村における一般廃棄物処理に係る許可を有し、又は委託がなされている場合などには、これらの条件を満たしている可能性が高いと考えられることから、指定に当たってはそれらの者を優先することが原則として望ましい。 |
この省令による指定は例外的な措置であるため、長期にわたる指定は原則として行うべきではない。ただし、必要があれば期間の延長を行うことは可能である。(中略)指定の必要がなくなった場合には、期間の途中であっても速やかに指定を解除すべきである。 |
アミタ石田:なるほど、すでに他の自治体の許可を有している業者を優先して指定するなどが考えられるのですね。
最後に
アミタ石田:大分、内容が理解できました。今回は本当に例外的な対応ということになりますね。
BUN:そうですねぇ。法令というのは、大抵は全国民を対象とするルールだから、どうしても例外が出てくる。でも、その例外が大きくなりすぎると、何のために制度を作っているのかがわからなくなってしまうおそれがあります。今回の通知では、いわゆる特例を設定するわけですが、細かく条件が指定されています。だから、ページ数も多いものになっていると思います。読み込むのは大変ですが、「特例は極力小さくしておき、この緊急事態が収まれば原則に戻していきたい。」そんな思いが伝わる通知だと私は感じました。
アミタ石田:勉強になります。ありがとうございました。
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講師プロフィール(執筆時点)
長岡 文明 (ながおか ふみあき)
アミタ株式会社 特別顧問
山形県にて廃棄物処理法、廃棄物行政、処理業者への指導に長年携わり、行政内での研修講師も務める。2009年3月末で山形県を早期退職し、廃棄物処理法の啓蒙活動を行う。廃棄物行政の世界ではBUNさんの愛称で親しまれ、著書多数。元・文化環境部循環型社会推進課課長補佐(廃棄物対策担当)。
聞き手プロフィール(執筆時点)
石田 みずき(いしだ みずき)
アミタ株式会社
サステナビリティ・デザイングループ マーケティングチーム
滋賀県立大学環境科学部を卒業後、アミタに入社。メールマガジンの発信、ウェブサイトの運営など、お役立ち情報の発信を担当。おしえて!アミタさんへの情熱は人一倍熱い。
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