コラム
食品廃棄物における「一般廃棄物処理手数料条項撤廃」の要望とは?BUNさんの「元・行政担当者が語る 廃棄物管理のイロハ」
元・行政担当者、BUNさんによる廃棄物管理解説コラム。本年は解説だけでなく、アミタ社員が、廃棄物管理に関する素朴な疑問をBUNさんにお尋ねしていきます。今回は、「食品廃棄物の一般廃棄物処理手数料の条項撤廃」についてです。
本コラムの一覧はこちら
Photo by Dan Gold on Unsplash
Q. 食品廃棄物のリサイクルに取り組んでいる方々が「一般廃棄物処理手数料条項撤廃」を要望していることを業界紙で知りました。どういうことなのでしょうか?
アミタ石田:早速ですがBUNさん、解説いただけますか?
BUN:この話題を理解するためには、いくつかの予備知識が必要になります。まず「手数料条項」に入る前に、一般的な「リサイクル事業」というものを確認しましょう。私の最も得意とする小話になるのですが、次の折れ線グラフを見てください。
▼各業種の収益イメージ
|
以上から「リサイクル業の収入は、インプットでの処理料金とアウトプットでの製品の売却代である」ということがわかりますね。
アミタ石田:これは食品廃棄物のリサイクルでも同じですよね。インプットで処理料金を徴収し、アウトプットでは、飼料や肥料としてリサイクル製品を売却して収入にしています。
BUN:これが全くの自由競争であれば、いかに効率よく、商売上手にやるか、という自由主義経済の原則通りになるのかもしれませんが、実は、廃棄物処理の世界ではそれが成立しないこともしばしばあるのです。例えば、リサイクル製品よりもバージン原料を使ったものの方が安く、しかも品質の良い物になってしまっているなど。
アミタ石田:そうなるとリサイクルは進みませんね。
BUN:そこで世の中の制度として補助金を出したり、強制的に使用を義務付けたりしてリサイクルを促進する施策をとっていることもあります。
食品廃棄物は一般廃棄物か産業廃棄物か
BUN:石田さんは「食品廃棄物」って一般廃棄物か産業廃棄物かわかりますか?産業廃棄物の分類で言うと「動植物性残渣」ですが。
アミタ石田:これはBUNさんの「土日で入門」という本でも勉強しました(笑)「動植物性残渣」は、排出事業者によって一般廃棄物になる場合と、産業廃棄物になる場合があるんですよね。食料品製造業から排出される動植物性残渣は、産業廃棄物で、飲食店などの外食産業や流通業から排出される動植物性残渣は一般廃棄物ですよね。
BUN:その通りです。現在、産業廃棄物の動植物性残渣のリサイクル率は95%を超えているのですが、一方、外食産業から排出される食品廃棄物のリサイクル率は40%にも達していません。一般廃棄物である食品廃棄物のリサイクル率向上は、喫緊の課題な訳です。何故このようなことが起こるのか?外食産業や食品流通業、販売業から排出される食品廃棄物は一般廃棄物ですから、原則的には市町村で処理することになり、市町村はそれを受け入れるために手数料を徴収する。その手数料が安くて民間で行うには採算が取れないんです。
アミタ石田:なるほど、採算が合わないと民間企業は参入できませんね。どうしてそんなに一般廃棄物の処理料金が安いのですか?
BUN:そもそも一般廃棄物というのは家庭から排出される「ごみ」「し尿」を中心として考えられてきた経緯があり、受け皿となる焼却炉や最終処分場には多額の税金が投入されているのです。そのため、処理料金が安くても、処理が可能な訳です。
アミタ石田:そうですか。今は確か、一律に「一般廃棄物の処理料金は○○円」と多くの自治体で決められているんですよね。
BUN:その通りです。多くの自治体では、焼却する場合も埋め立てられる場合も、そしてリサイクルされる場合も、一般廃棄物は同じ処理料金となるんです。でも「リサイクル」という行為は、食品廃棄物に限らず、多くの場合、単に埋め立てる、焼却するよりも金が掛かってしまう場合が多いんですね。加えて「食べ残し」などは一般廃棄物として市町村と競争して商売をしていかなければならないのですから、民間のリサイクル会社は大変です。
撤廃が要望されている「手数料条項」とは?
アミタ石田:どうして、一般廃棄物の処理料金は一律となっているのでしょうか?
BUN:では、いよいよ今回、話題になっている廃棄物処理法の条文を見てみましょう。
12 第一項の許可を受けた者(以下「一般廃棄物収集運搬業者」という。)及び第六項の許可を受けた者(以下「一般廃棄物処分業者」という。)は、一般廃棄物の収集及び運搬並びに処分につき、当該市町村が地方自治法 第二百二十八条第一項の規定により条例で定める収集及び運搬並びに処分に関する手数料の額に相当する額を超える料金を受けてはならない。 |
アミタ石田:「手数料の額に相当する額を超える料金を受けてはならない。」と規定していますね。
BUN:これを業界では「手数料上限規定」と呼称しています。そもそも、この規定が出来たのは、同じ町内に住みながら、民間の許可業者が収集に行く家庭と、町直営で収集に行く家庭で処理料金が異なるのは公平ではない、ということからなのです。
アミタ石田:なるほど、もっともなことだと思います。
BUN:しかし、リサイクルの推進という観点からはどうでしょうか?先ほどリサイクル業はどういう収入で成立しているか確認しましたね。
アミタ石田:インプットの処理料金とアウトプットの商品の売却代ですよね。そうかぁ。リサイクル業と言えども他者の廃棄物を処理していることには間違いない。だから、リサイクルを行うためには一般廃棄物処理業の許可を取らなければならない。そして、民間のリサイクル会社が、一般廃棄物を処理する時は、この規定により条例で定める手数料以上の料金は取れないってことになる訳ですね。
BUN:その通りです。
アミタ石田:なるほど、今後はどうなるんでしょうか?リサイクル率をあげるために、今後、市町村が条例を撤回するということも考えられるんでしょうか?
BUN:それはそうもいかないのです。市町村はじめ公共団体は、公平を期すためにお金を取るときは必ず条例で規定しなければならないと地方自治法で規定しているんです。
これが第7条第12項に登場している「地方自治法 第二百二十八条第一項の規定」なんですね。
このことは、平成10年までは廃棄物処理法第10条第6項で規定していたのですが、地方分権の関係もあり、現在は前述の通り地方自治法で規定されるようになりました。
6 市町村は、当該市町村が行う一般廃棄物の収集、運搬及び処分に関し、条例で定めるところにより、手数料を徴収することができる。(以下、略) |
第二百二十八条 分担金、使用料、加入金及び手数料に関する事項については、条例でこれを定めなければならない。この場合において、手数料について全国的に統一して定めることが特に必要と認められるものとして政令で定める事務(以下本項において「標準事務」という。)について手数料を徴収する場合においては、当該標準事務に係る事務のうち政令で定めるものにつき、政令で定める金額の手数料を徴収することを標準として条例を定めなければならない。 |
アミタ石田:なるほど。それで食品リサイクルに携わる方は、前述の廃棄物処理法第7条第12項の変更を要望しているのですね。今回、話題となっている「手数料の条項撤廃」について背景がわかりました。
BUN:食品リサイクル法のループ認定制度などもあるのですが、やはり大手企業でなければなかなか取り組めません。そこで、中小零細企業も多い飲食業、販売業から出てくる食品残渣を対象としているリサイクラーの方々から、このような要望が出ることはもっともなことだと思います。
今後について
アミタ石田:何か良い方法はないのでしょうか?
BUN:法律そのものを変えるという正攻法もあるとは思いますが、私は個々の市町村が策定している「一般廃棄物処理計画」や手数料条例の規定の仕方に、よりうまくやれる方法もあるのではないかと考えています。
アミタ石田:具体的には、どういうことですか?
BUN:何十年も前の一般廃棄物処理計画や一般廃棄物手数料条例は「ごみ」と「し尿」の処理料金といった大雑把なものでした。これを例えば「クリーンセンターに搬入される生ごみの処理料金は○○円」のように規定します。
その上で一般廃棄物処理計画には民間のリサイクル施設に搬入される食品残渣も位置付けて、それに伴う処理業の許可もしておきます。そうなれば条例で規定している手数料はあくまでもクリーンセンターに搬入される一般廃棄物について規定しているのであり、それ以外は条例で定めているものではありません。よって、手数料上限規定には抵触しないので自由に料金設定が可能になる、と。
アミタ石田:つまり、クリーンセンターに搬入されるようないわゆる家庭ごみの処理料金は一律とした上で、外食産業や食品流通業、販売業から排出される食品廃棄物などのいわゆる事業系一般廃棄物の処理料金は、リサイクル企業による自由な競争に委ねるということでしょうか。
BUN:はい。ただし、一般廃棄物に関しては市町村の自治事務であり、個々の市町村ごとに状況は異なります。やはり、地元の市町村と十分に協議して取り組むべき事業なのだと思います。
アミタ石田:なるほど。一般廃棄物には産業廃棄物には無い、難しい課題も抱えているんですね。
今日は勉強になりました。次回もよろしくお願いいたします。
講師プロフィール(執筆時点)
長岡 文明 (ながおか ふみあき)
アミタ株式会社 特別顧問
山形県にて廃棄物処理法、廃棄物行政、処理業者への指導に長年携わり、行政内での研修講師も務める。2009年3月末で山形県を早期退職し、廃棄物処理法の啓蒙活動を行う。廃棄物行政の世界ではBUNさんの愛称で親しまれ、著書多数。元・文化環境部循環型社会推進課課長補佐(廃棄物対策担当)。
聞き手プロフィール(執筆時点)
石田 みずき(いしだ みずき)
アミタ株式会社
サステナビリティ・デザイングループ マーケティングチーム
滋賀県立大学環境科学部を卒業後、アミタに入社。メールマガジンの発信、ウェブサイトの運営など、お役立ち情報の発信を担当。おしえて!アミタさんへの情熱は人一倍熱い。
おすすめ情報
お役立ち資料・セミナーアーカイブ一覧
- なぜESG経営への移行が求められているの?
- サーキュラーエコノミーの成功事例が知りたい
- 脱炭素移行における戦略策定時のポイントは?
- アミタのサービスを詳しく知りたい
アミタでは、上記のようなお悩みを解決するダウンロード
資料やセミナー動画をご用意しております。
是非、ご覧ください。