コラム
金属産業の取り組みにみるSDG報告のヒント 資源循環新時代~ものづくりはどう生き抜く?
資源問題やリサイクルを環境問題で語る時代は過去となり、世の中は資源循環を経済や社会のベースに据えようと動き出しています。日本の企業はどう立ち回ればよいのでしょうか?最終回となる今回は、ものづくり企業がSDGsとの関わりを見出すヒントを、製造業を支える金属産業の取り組みを参考にしながらご紹介します。
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SDGs貢献の異なるアプローチ
SDG報告の現状についてご紹介した前回記事で、金属産業は他産業に比べてSDG報告が進んでいないという調査結果に触れました。しかし、第2回のコラムで一部紹介したように、資源利用は環境、経済、社会の諸問題と深く関わっています。ですから、金属産業は幅広いSDGsに対して様々な方法で貢献できる可能性を秘めています。金属産業はSDGsとのつながりをどのように捉えているのでしょうか?
まずは業界団体がSDGsとの関連性をどう示しているか見てみましょう。世界鉄鋼協会(World Steel Association)は、会員企業に対して持続可能性の7つの原則を示しており、それぞれに関連するSDGsが結び付けられています。環境保全も原則の1つとして挙げられており、資源循環と関連深いSDG12(生産・消費)などが紐づけられています。全体としては、ステークホルダーとの関わり方が重視されている印象を受けます。一方で国際銅協会(International Copper Association)は、銅が社会のどのような場で使われているかを例示して、そこで提供されている便益や価値をゴールと結び付けています。電気伝導性や高耐久性、抗菌性など材料の性質に言及しているのが特徴的で「(他の素材ではなく)このような性質をもつ銅だからこそ、これらの分野で貢献ができる」というアピールがされています。会員企業の組織としての振る舞い方を意識している世界鉄鋼協会と、製品を通した社会貢献を意識している国際銅協会。両者が示すSDGs貢献の異なるアプローチは、なかなか興味深くSDG報告の参考になるのではないでしょうか。
世界鉄鋼協会が示すSDGsへの貢献
出典:SUSTAINABLE STEEL Policy and indicators 2016
国際銅協会が示すSDGsへの貢献
出典:The Copper Industry: Our Contribution to Sustainable Development
金属産業の企業報告から読み解くSDG報告のヒント
自社の工場やオフィスの中で起きていることだけに注目していては、事業活動がSDGsに与える影響を正しく評価しているとは言えません。SDG報告に向けて、どのような考え方で視野を広げていけばよいのでしょうか?金属産業にもSDG報告を実施している企業は数多くあり、17のゴールに対する様々な貢献の形を見ることができます。そこから読み取れる、ものづくり企業全般にとって役立ちそうなヒントを3つ挙げてみました。
- サプライチェーンの上流に目を向ける
自社が金属材料などの素材を原料調達しているのであれば、調達先の企業が資源産出国の地域社会と深く関わっています。例えばある国内非鉄メーカーはSDGsを自社のマテリアリティと紐づけていますが、その中にはアジア拠点における人権保護(児童労働禁止など)や贈収賄の防止、そして様々な環境影響の低減が含まれています。また、⽶国に本社を置く鉱⼭会社は、採掘地のコミュニティの支援活動に特化したSDGsの結び付けをおこなっています。支援活動としては、現地の経済発展やインフラ整備、教育、技術者養成、現地住民とのパートナーシップ基金の運用などが示されています。
CSR調達を推進している企業も多いかと思いますが、調達先、さらにはその先の取り組みに関心を持ち、自ら支援に参画することでSDGsに取り組むチャンスを広げることができます。 - サプライチェーンの下流に目を向ける
BtoBでは自社の製品・サービスの利用者も事業者となるため、社会に及ぼす影響が見えにくいかもしれません。しかし国際銅協会の例からもわかるように、むしろサプライチェーンの上流に位置している方が、より幅広い分野への貢献に寄与しているのです。ある国内鉄鋼メーカーは、自社の価値創造プロセスとしてアウトプットとアウトカムを分けて示しています。直接的なアウトプットはもちろん板材や建材といった鉄鋼製品ですが、それらが使用されている自動車やインフラが創り出す安全・安心や国土強靭化といった社会的価値をアウトカムとしてSDGsへの貢献に位置づけています。 - 誰かと一緒に取り組む
SDGsへの貢献として当てはまりそうな事業活動を列挙するだけでは、独り善がりな印象を与えかねません。会社の外に働きかけることで生まれるSDGsへの貢献については、相手または第三者からその有効性が認められていた方が良いでしょう。そのためには取引先や地域社会、行政、第三者機関など、様々なステークホルダーとコミュニケーションを取り、SDG報告に組み込んでいかなければなりません。例えばマダガスカルのある鉱山会社は、SDG15(陸上資源)への貢献を強くアピールしていますが、その根拠としてBBOP(注)に参加して生態系の回復に取り組んでいることを挙げています。また、会社の外の人とコミュニケーションをとるためには自社の取り組みの成果を具体化することになるため、KPIの選定にも役立つと考えられます。
注:BBOP:Business and Biodiversity Offsets Program。生物多様性オフセットの国際基準作成を目指すイニシアティブで、企業、政府、NGOなどが参加。
SDG報告を行っている企業はまだ少数派で、そのクオリティもばらつきがあります。SDG報告の内容が評価されて投資の判断材料となる段階にはまだ至っていませんが、国際合意であるSDGsの達成に向けて協力するという意思表示の重要性は確実に高まっています。前回解説した「良いSDG報告」をすぐに実現できなくてもよいので、今のうちに検討を進めておきましょう。
おわりに
ものづくりには資源が欠かせない一方で、資源の利用が環境だけでなく経済、社会において様々な問題を引き起こす時代になっています。問題解決に向けた社会の動きに乗り損なうと、資源を利用する機会を失いかねません。また、資源を利用することに対して責任を持ち、その影響の大きさを評価するとともに、持続可能な形で利用するための長期戦略を示すことがESGの時代にもとめられています。本連載が、このような時代について知り、考え、そして生き抜くためのきっかけとなれば幸いです。
参考情報
- 世界鉄鋼協会の取り組み:"SUSTAINABLE STEEL Policy and indicators 2016"
- 国際銅協会の取り組み:"The Copper Industry: Our Contribution to Sustainable Development"
執筆者プロフィール
畑山 博樹(はたやま ひろき)氏
国立研究開発法人産業技術総合研究所
安全科学研究部門 主任研究員
東京大学大学院工学系研究科でマテリアル工学を専攻後、現職。マテリアルフロー分析、資源リスク評価、ライフサイクルアセスメントなど、持続可能な資源利用に関する研究をおこなっている。日本LCA学会、日本鉄鋼協会所属。
発表論文等:Google Scholar, researchmap
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