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コラム

資源リスクの顕在化~供給障害の原因は何なのか? 初心者向け資源循環新時代~ものづくりはどう生き抜く?

Photo_by_J Leclercq_on_Unsplash.jpg資源問題やリサイクルを環境問題で語る時代は過去となり、世の中は資源循環を経済や社会のベースに据えようと動き出しています。日本の企業はどう立ち回ればよいのでしょうか?前回は、世界各国で資源リスクがどのようなリスク要因を考慮して評価されているかを解説しました。今回は、過去に実際に発生した供給障害の原因について分析した研究を紹介します。その上で、資源リスクを正しく認識する方法を考えてみましょう。

Photo by Nicolas J Leclercq on Unsplash

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資源リスクは独断と偏見で決まる?

前回お話ししたように、クリティカリティ評価では「リスク要因として何を考慮するか」「どの要因がより重要視されるか」が評価実施者によって独自に設定されます。これによって評価実施者の資源安定供給に対する考え方を反映することができますが、裏を返せばそれらを客観的に決めるための情報が不足していることを意味しています。もし資源リスクの大きさの変化を現実世界で観測することができるならば、それがどの要因の変化と連動しているかを分析することができます。しかしリスクが「将来起こる可能性」という意味合いを含む以上、内在するリスクが大きくなっていても今現在の状況は表面的には変化しません。

リスク要因を客観的に判断するためのアプローチとしては、条件設定を変えつつ何度も実験して因果関係を探るという方法が一般論として考えられます。しかし残念ながら、世界全体を巻き込んで資源リスクの"実験"を行うわけにはいきません。一方で、過去を振り返れば、リスクが顕在化して供給に支障が生じた出来事は何度も起きています。それらがどのような原因で起きたのかを調べることで、資源リスクの要因を客観的に判断するヒントが得られるかもしれません。

過去に発生した供給障害の原因の分析

そこで、過去に世界で発生した供給障害事例の原因を分析した研究を紹介したいと思います。供給障害事例は、石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)のニュース記事などから448件の情報を得て分析対象としました。この中には、銅(102件)、ニッケル(82件)をはじめとして22種類の金属の事例が含まれています。また、約半数は2010年以降に発生した事例となっています。なお、分析の詳細は参考情報に示した筆者論文で発表しています。

448件の原因の内訳をみてみると、地滑りや大雨などの自然災害、坑内の崩落などの事故により操業が停止するケースが多くみられます。同じく鉱山でのトラブルとして、ストライキも供給障害の主な原因の1つです。また、資源価格が下落すると採算がとれなくなるため鉱山は休山(もしくは閉山)してしまいます。こうなると、需要が回復して価格が再び上昇してもすぐに生産を再開できるとは限りません。資源を輸入する日本は価格の上昇をリスクと捉えがちですが、資源を生産する鉱山会社の立場でみるとリスクの捉え方も真逆になるのです。このほか、資源ナショナリズムの台頭もあり、鉱石の輸出制限などの規制が原因となった供給障害が近年増加しています。

供給障害の原因の内訳(筆者論文を基に作成)

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また、供給障害が生じた国によって原因の傾向は異なっています。例えば中国では輸出規制や環境汚染による操業停止が大きな割合を占めている一方で、オ―ストラリアやカナダでは資源価格下落の影響を受けた事例が多くなっています。

供給障害の主な原因の国による違い(筆者論文を基に作成)

中国 オーストラリア カナダ チリ
1 自然災害 資源価格下落 ストライキ ストライキ
2 鉱業関連規制 自然災害 資源価格下落 自然災害
3 環境汚染 事故 事故 事故
資源リスクを正しく認識するために

これまでに発生した多くの供給障害事例からリスク要因の傾向を把握できれば、クリティカリティ評価に客観性を持たせることができます。例えば従来の評価で考えられていなかった自然災害や事故のリスクを取り入れることで、評価の精度が向上するかもしれません。また、国によって原因の傾向が違うことがわかれば、資源の輸入先に応じたリスク軽減策をとることも可能になります。

一方で、評価実施者の考え方を反映した評価もまた重要です。上で紹介した研究では供給障害事例のニュース記事の文面から情報を得ていますが、このやり方で抽出されるのは直接的な原因のみです。例えば、ある国で自然災害が原因で操業が停止し、さらに「その国に生産が集中している」という事情が重なって世界的な供給障害が発生したとしても、間接的な原因である後半部分の事情は記事に書かれていないからです。このような間接的な原因は、前回ご紹介したように既存のクリティカリティ評価で広くカバーされています。従って、主観性と客観性をうまく融合させた評価が、資源リスクを正しく認識して適切に対処するために望ましいと言えるでしょう。

このように、ものづくり産業は資源を安定して確保するために様々なリスクに気を配らなければいけません。さらに近年は、資源を使うことによって負うべき社会的責任や環境責任を明らかにすることが求められるようになっています。次回は、金属業界とSDGsの関係性を中心にこれら情報開示の在り方を見ていきたいと思います。

参考情報

供給障害事例の分析の詳細は、以下の論文で発表しています。(論文はこちら
H. Hatayama and K. Tahara (2018). "Adopting an objective approach to criticality assessment: Learning from the past", Resources Policy, 55, 96-102.
この成果は、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託業務の結果得られたものです。

執筆者プロフィール

mr.hatayama.png畑山 博樹(はたやま ひろき)氏
国立研究開発法人産業技術総合研究所
安全科学研究部門 主任研究員

東京大学大学院工学系研究科でマテリアル工学を専攻後、現職。マテリアルフロー分析、資源リスク評価、ライフサイクルアセスメントなど、持続可能な資源利用に関する研究をおこなっている。日本LCA学会、日本鉄鋼協会所属。
発表論文等:Google Scholar, researchmap

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