コラム
世界の都市で始まる、水を「買わない」ムーブメント 原田先生の廃プラ問題最前線!企業におけるリスクとチャンス
本コラムでは、今話題の"廃プラスチック問題"について、大阪商業大学公共学科准教授の原田禎夫氏に分かりやすく解説いただきます!第5回である今回は、世界の都市で始まる、水を「買わない」ムーブメントについてです。いつでもどこでも気軽に手に入るペットボトル飲料利用から、マイボトル利用へ。環境に配慮した世界のビジネスモデルについてお届けいたします。
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Photo by tanvi sharma on Unsplash
日本の「安全と水はタダ」が世界の当たり前に!?
日本では長らく安全と水はタダ、と言われてきました。もしかしたら、それもすでに世界の当たり前になっているのかもしれません。
今年、2019年8月20日からサンフランシスコ国際空港で、ペットボトル入り飲料水の販売が禁止されたことが、日本でも大きく報じられました。対象となるのは売店などの小売事業者だけではありません。レストラン、空港ラウンジ、そして自動販売機で扱われる、浄化水、ミネラルウォーター、炭酸水等の全ての「水製品」が対象となっています。そのため現在は、リサイクル可能なアルミ缶、コップ、BPI認証を取得した堆肥化可能な容器のみが提供可能となっています。ちなみに清涼飲料水は当面の間、ペットボトルでの販売が継続されるそうです。
今回の規制の背景には、空港を運営するサンフランシスコ市が2016年に掲げた「2021年までに埋立ごみゼロ」という目標が挙げられます。これまで同空港では、毎日1万本のペットボトル水が販売・提供されていたそうです。代替策として、空港内に無料のウォーターサーバーを多数設置し、マイボトルでの水補給を勧めています。
(写真:アメリカの空港に設置されている無料給水機。水を入れると、どれだけのペットボトルを削減できたのかがカウンターに表示される。)
世界の大都市で新しいビジネスモデル|無料のウォーターサーバーなど
さて、無料のウォーターサーバーなどの給水スポットは、今、世界の大都市で新しいビジネスモデルも生み出しつつあります。
▼給水スポットアプリが登場
たとえば、米ニューヨークやロサンゼルスを中心に広まっている「tap」というアプリがあります。「水のグーグルマップ」とも言われるこのアプリを使えば、位置情報をもとに、近くの給水スポットが表示されます。公園や公共施設の給水機はもちろん、たくさんのカフェやレストランも表示されます。人々は、マイボトルに気軽に、そして無料で給水できるというわけです。(写真:tapのスクリーンショット。NY市内には無料で水を補給できる店舗が多数登録されている。)
tapをリリースしたのは、若手企業家として知られるSamuel Ian Rosen(34)。サービスのローンチにあたり世界中の3万4000店舗以上のカフェやレストランと提携したといわれています。その中にはシェイク・シャックやウマミバーガーなどの有名ハンバーガーチェーンもあります。
英ロンドンでは「Refill」という同じようなアプリが展開されており、やはり同様に人々は気軽にマイボトルに給水することができます。こうしたアプリを使ったサービスは、欧米やアジアの大都市を中心にどんどん広がっています。
こうしたアプリはマイボトル利用者にとっての新しいプラットフォームともいえるでしょう。
日本でも古くから環境NPOなどが企業や自治体にマイボトル利用者向けへの同様のサービスの提案を重ねてきました。以前であれば、たとえば新幹線や特急列車の車内にも冷水機が設置されていたのをご記憶の方も多いのではないでしょうか。しかし、つい最近まで、むしろ衛生上の理由(その実情は維持管理費の節減ですが)で、公共の水飲み場や冷水機はどんどん撤去されてきたのが実態です。
しかし、現在のこうした「tap」や「Refill」などのアプリの普及と給水スポットの増加を考えると、需要はあると考えられます。また「給水スポットの利用者がどこにどれだけいるのか」「どのくらいの頻度で利用しているのか」という以前は誰もわからなかったデータが「見える化」できるようになったという効果もあるのかもしれません。
▼飲料用タブレットの販売
水にタブレット(錠剤)を入れて、味や香りをつける、といった商品も登場しています。オーストリア生まれの「waterdrop」は、持ち歩けていつでも好みのフレーバーつきの水が作れるだけではなく、砂糖を使っていないことから清涼飲料水で問題になる砂糖の過剰摂取も防ぐことができるということで、近年の健康志向にもマッチし、欧州などで好調に売り上げを伸ばしています。
▼お湯や炭酸水の無料提供
中国や台湾では、水が補給できるだけではなく、暖かいお茶や赤ちゃん用のミルクをどこでも作れるようにお湯が出る給水機も公共施設を中心に多数整備されています(そして茶葉対応のマイボトルも簡単に手に入ります)。(写真:台湾の給水機。冷水だけではなく、熱湯とぬるめの湯の3温度対応。)
フランスでは、水だけではなく炭酸水も無料で補給できる給水機が整備されています。給水機一つとってもお国柄も現れて面白いものです。
また、マイボトルを利用する人が増えることは、企業の再編すら呼び起こしています。ペプシコーラで知られる米飲料メーカーのペプシコ社が、炭酸水メーカーとしてお馴染みのイスラエルに本社を置くソーダストリーム社を32億ドルで買収しました。両社は以前から提携を進めてきましたが、今回の買収劇は、脱プラスチック社会に向けてマイボトルの必要性についての社会的認知が急速に高まる中で、家庭でも簡単に炭酸飲料を作って、そして持ち歩く、という新しい市場の創出を予感させるものでもあります。
世界の動向に乗り遅れないために日本でもできることを
BYOB (Bring Your Own Bottle)が世界的なキーワードになるなかで、残念ながら出遅れてきた日本でしたが、ようやく日本初(そして日本発)の給水アプリ「mymizu」が今年、2019年9月20日に公開されました。現在はiOS版のベータ版(公開のテスト版)が公開され、正式公開に向けた最終テストが行われています。
ベータ版の公開時点ですでに8,000を超える給水スポットが登録されており、その中には、公共施設だけでなく、飲食店はもちろんアウトドアショップなどもどんどん登録されています。これからどんな取り組みがスタートするのか、注目したいと思います。(写真:mymizuのスクリーンショット。日本国内の無料給水スポットが急速に登録されている。)
ペットボトルを使わないために水筒を持ち歩いても、中身を飲み切ってしまえば結局またコンビニや自動販売機などで買うしかありません。日本には世界一ともいわれる数の自動販売機が文字通り「どこにでも」あります。言い換えると「いつの間にか私たちは「水筒」を持たずともどこでも飲み物を手に入れられる社会を築いてきた」といえるでしょう。しかし、そのことが同時に「自国でリサイクルできないほどの大量のペットボトルを作り出し、そして環境中に流出しまう状況」を作ってしまったともいえるでしょう。(写真:東京都が設置した日本初の屋外設置のマイボトル用給水機)
今年はラグビーワールドカップが行われ、また来年はいよいよオリンピック・パラリンピックがやってきます。また2025年には大阪万博も開催されます。他の先進国では、すでに当たり前のものになっているマイボトルを持って、たくさんの旅行客が日本を訪れます。日本でも、公共政策だけではなく。マイボトルを軸に新しいビジネスが生まれることを楽しみにしたいですね。
執筆者プロフィール
原田 禎夫(はらだ さだお)氏
大阪商業大学 公共学科 准教授
NPO 法人プロジェクト保津川 代表理事
1975年京都府生まれ。現在、大阪商業大学公共学部准教授。近年深刻な問題となっている海や川のプラスチック汚染について、内陸部からのごみの発生抑制の観点から取り組むNPO法人プロジェクト保津川代表理事。
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