コラム
フォレストック認定制度の活用方法~排出量取引とカーボン・オフセットの違いフォレストック認定制度の特徴とメリット
前回のコラムでは、フォレストック認定制度と他の森林認証制度との違いやクレジットの販売方法をご紹介するとともに、認定取得するまでの流れと取得のためのコスト等についてご紹介しました。
今回のコラムでは、クレジット購入企業向けに、排出量取引とカーボン・オフセットの違いやフォレストック認定制度におけるクレジットの特徴、ESG投資の観点から企業が環境問題に取り組む重要性等についてご紹介します。
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排出量取引とカーボン・オフセットの違い
排出量取引とカーボン・オフセットを比較したときに両者は混同されがちですが、取り組む根拠や条件は違います。排出量取引は国家間や国の法制度などで定められた規制のもとで行われるものです。第1回目の記事でも触れましたが、1997年に採択された「京都議定書」では先進国全体で先進国の温室効果ガスの排出量を1990年比で5%削減(日本は6%)させることを目標として掲げました。これは例えば、温室効果ガスを多量に排出した企業は課せられた削減義務を履行するために、温室効果ガスを排出枠内に抑えた企業が生み出すクレジットを買い取る仕組みです。
これに対し、カーボン・オフセットは自らが排出した温室効果ガスに対して、クレジット購入などを通じて自主的に責任を果たそうという取り組みです。排出量取引とは違い、カーボン・オフセットには履行義務はなく、また、排出枠の設定がありませんし、誰もが実施可能なことです。
また、クレジットについても排出量取引ではクレジット自体の転売が可能なのに対して、カーボン・オフセットではクレジットは登録簿上で無効化手続きを行うため転売することはできません。
表1 排出量取引とカーボン・オフセットの違い
排出量取引 | カーボン・オフセット | |
履行義務 | あり | なし |
排出枠の設定 | あり | なし |
対象者 | 排出枠を割り当てられた企業 | 誰でも実施可能 |
クレジットの売買 | 可能 | 不可 |
フォレストック認定制度におけるCO2吸収量クレジットの特徴
フォレストック認定制度におけるクレジットはカーボン・オフセットの対象ですので、クレジットを購入しても温室効果ガスを多量に排出した企業に課せられた削減義務を履行することには繋がりません。
企業はクレジット取得後、フォレストック販売代理店間で売買する場合を除き、第三者に転売することはできません。企業はクレジットを自主的なカーボン・オフセットに利用するためには、少なくともオフセットしたいCO2排出量に対応するCO2吸収量クレジットを「無効化(注1)」することが必要となります。
具体的には、登録簿上の名義人である企業は、自己の名義となっているCO2吸収量クレジットの無効化の申請を当協会に行い、当協会の登録簿に無効化の記載を行うことで完了します。
(注1)無効化とは、CO2吸収量クレジットを①第三者に譲渡販売できなくし、②登録簿上の名義移転、変更をできなくすることをいいます。また、一度無効化したCO2吸収量クレジットはさらに無効化することはできません。(フォレストック認定制度規定集より)
国内のJ-クレジットとの比較
次に国内におけるJ-クレジット制度とフォレストック認定制度の違いを説明します。両制度とも市場流通型クレジットである点、カーボン・オフセットとしての利用、クレジットの無効化等、多くの面で同じ要素を持ち合わせています。主な違いはクレジットの創出方法と販売方法です。
表2 J-クレジットとフォレストック認定制度の違い
J-クレジット | フォレストック認定制度 | |
クレジット創出方法 | 多様な削減及び吸収系の方法論 | 認定森林が創出するCO2吸収量のみ |
クレジットの販売方法 | 相対取引(注2) | 「販売委託型」「自己販売型」等 |
(注2)直接 売り方と買い方が当事者間で取引を行うこと
J-クレジットでは、例えば企業がボイラー機器を省エネ型に入れ替える等、クレジットの創出方法は様々で個別プロジェクトごとに認証され、クレジットが利用されています。フォレストック認定はクレジットの創出方法が限定されているため、購入する企業がコーズマーケティングアプローチ(注3)を通じた企業活動と一体化した社会貢献活動の導入を実施しやすいといえます。
(注3)特定の商品、サービスの購入が寄付などを通じて環境保護や社会貢献に結びつくことを消費者に訴求することで、商品、サービスの販売促進、製品ブランドや企業の業績拡大、価値向上、イメージアップ等を狙う手法
(図はクリックすると拡大します)
ESG投資から見た企業の環境問題取組への重要性
投資をするために企業の価値を測る材料として、これまではキャッシュフローや利益率などの定量的な財務情報が主に使われてきました。それに加え、非財務情報であるESG要素を考慮する投資を「ESG投資」といいます。これらの影響で、環境分野での取り組みは今後様々な投資家から評価されることとなり、フォレストック認定制度におけるクレジット購入も評価の1つとなりそうです。
例えば、現在もフォレストック認定制度のクジレットを購入している上場企業では、カーボン・ディスクロージャー・プロジェクト(CDP)が主催する国内企業時価総額上位500社を対象とした調査で、情報公開度の国内企業最高評価を獲得されるなどの実績を残されています。
次回は購入したCO2吸収量クレジット対する会計と税務の取扱いについてご紹介していく予定です。
参考情報
執筆者プロフィール
井上 慶祐(いのうえ けいすけ)氏
一般社団法人 フォレストック協会
ヴァイスプレジデント 税理士
フォレストック協会の普及活動を中心に、企業向けの提案や相談業務、森林組合への支援業務に従事。また、トラスティーズコンサルティングLLPのメンバーとして非上場企業や不動産オーナー等の資産家の相続、事業承継対策に特化し、金融、不動産までカバーした組織再編や株価対策、相続申告等、全国各地の資産税案件に従事している。
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