コラム
構想実現に向け、自ら考え、調べ、実行するまちへ環境と経済は両立する 南三陸バイオマス産業都市構想
南三陸町は人口約1万3千人、海里山が一体となった豊かな自然環境を有する町です。同町は東日本大震災後の復興の過程で「エコタウンへの挑戦」を掲げ「南三陸町バイオマス産業都市構想」を策定。2014年3月に国の認定を受けました。その後、南三陸町では構想の実現に向けて、様々な取り組みが進んでいます。この南三陸町の取り組みは、単なる震災復興だけではなく、多くの地方自治体にとって参考になり得ます。
そこで本コラムでは、南三陸町にて南三陸町総合計画の将来像である「森里海ひと いのちめぐるまち 南三陸」の実現のために人材育成などを行っている一般社団法人サスティナビリティセンターの代表理事太齋様に、南三陸バイオマス産業都市構想の経済・社会・環境影響について、参考事例などを交えて連載していただきます。(写真はいのちめぐるまちを学ぶツアーに来訪した早稲田実業学校初等部の親子研修の様子)
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「いのちめぐるまち」の実現のために誕生した組織
前回は、南三陸町バイオマス産業都市構想を補完し推進するための地域おこし協力隊の活用事例をご紹介しました。最終回である今回は「いのちめぐるまち」の実現を支援することを目的に設立された、当サスティナビリティセンターの成り立ちと活動についてご紹介させていただきます。
地元若手事業者の参画で回り出した循環型のまちづくりについては、主として南三陸町総合戦略推進会議の場で継続的に議論がなされました。これは、人口減少社会への対応を考える町の公式な会議です。行政が主催する会議は、ともすれば意見があまりでなかったり、あるいは行政に対する要望合戦となってしまったりと、前向きな議論にならないことが多いものです。ですが、自らいのちめぐるまちづくりに取り組んでいる方を中心に委員が選出されたこの会議は、ファシリテーターによる進行支援も機能し、これまでの常識を覆すほどの熱気ある活発な議論が交わされました。
森里海の事業者がそれぞれの課題を共有し、共に町のビジョンを作り上げるような場面は、震災前後を見回してもなかなか見当たりませんでしたので、委員として参加した事業者間の共通認識が深まり、その後の「いのちめぐるまち」づくりへと進むための土壌が醸成された、とても重要な会議となりました。
その議題のひとつにあがったのが「地域独自のシンクタンク機能を整備し、地域資源研究を行うとともに官民連携のプラットフォームとする」というものでした。「いのちめぐるまち」の発想が生まれる起点となった、休止中の自然環境活用センター復活と公設民営化による機動的な運用で、この機能を実現するという方向で議論が進み、町の総合戦略に盛り込まれることとなりました。その後の具体的な議論の場は、南三陸町地域資源プラットフォーム設立準備委員会に移され、認証取得がただちに販売価格の向上にはつながらないという、後藤清広さんからの問題提起もあり、地域商社機能の必要性もあわせて検討されました。
途中、急な町の方向転換があり、自然環境活用センターは公設公営で復活されることになったものの、地域シンクタンク機能や森里海の事業者が情報交換できる場づくり、あるいは地域商社としての機能を民間主導で進めることの必要性は変わらないことから、それらの機能を担うために、一般社団法人としてサスティナビリティセンターが誕生することとなったのです。
地域密着型のシンクタンクとして「理解」にとどまらない「活動」も合わせて
現在、当センターは「いのちめぐるまち推進協議会」の事務局として、森里海の事業者や住民が情報交換をする場を、年に数回開催しています。議題はASC認証カキのブランド化の話や有害鳥獣対策の話、ごみゼロの町実現のための実証実験の話など、その時々のトピックを中心に会員の持ち込みによる話題提供もあります。(写真は大学生インターンに向けてASCの現場を説明する様子)
また、いのちめぐるまちの実現に共感して頂いた東北大学の研究者らとの連携を深め、南三陸をフィールドとして行われた様々な調査結果を住民と共有する勉強会「サスティナビリティ学講座」を毎年開催しています。これらの活動により、我々自身が様々な角度から地域をより深く「理解」する機会を作り続けるとともに、南三陸の森里海に関わる方々の連携やレベルアップの場を提供しています。
地域の姿を正しく「理解」することは、さまざまな施策立案のベースとなるとともに、新たな資源の発掘や活用法の創出にもつながります。地域密着型のシンクタンクとして重視しているところです。もちろん具体的な課題解決のためには「理解」にとどまらない「活動」が求められます。
特に地域の弱みである1次産品の価値向上については、戸倉の若手カキ生産者とともに1年もの殻付きカキのブランディングに取り組んでいます。また、地域の事業者が抱える問題をプロジェクト化し、大学生インターンを募集して4週間で課題解決に挑むインターン事業では、(株)ESCCAとともに地域コーディネーターとして、のべ21社のプロジェクトを組成し、36名の大学生を受け入れて来ました。この夏も3社で5名が課題解決に挑んでいます。この事業は一見、大学生のための成長機会を提供しているように見えますが、その実は地域の中小企業の経営者が、大学生をとおして自社の経営課題と向き合う機会となり、地域の魅力ある仕事づくりにつながっていると感じています。もちろんインターンに来てくれた大学生の多くは、その後何度も町を訪れてくれるなど、交流も広がっています。
南三陸のいのちめぐるまちづくりを学ぶツアーや研修も好評で「南三陸フィールドワーク」と題して3泊4日で町内を巡る早稲田実業学校初等部の親子研修は、今年で4年目を迎えました。親子とも同じ目線で、森里海での体験をとおして循環をキーワードとしたまちづくりを学ぶことで、家族の共通言語として「いのちめぐる」ことの意味を体感して頂いています。(FSC®に関する早稲田実業学校初等部の親子研修の様子)
今年、新たな取り組みとして準備しているのは、(仮称)ラムサール基金として、事業者の商品やサービスの売上から一定額を寄付して頂き、それを地域の環境保全や人材育成に充てる仕組みの構築です。こういった仕組みで域内経済循環を活性化することで、環境・社会・経済に関する地域自治意識を高め「いのちめぐるまち」実現をサポートしていきます。
これまで6回にわたり、南三陸のいのちめぐるまちづくりについてご紹介して参りました。森里海がコンパクトにまとまった南三陸での取り組みは、いわばちょうど良い規模感の社会実験の場でもあり、地域が豊かに存続することを目指すはもちろんのこと、他の地域づくりの参考としても貢献できたらうれしく思います。それが震災復興で多大なご支援を受けたご恩返しにもつながると思っております。少しでも興味を持って下さる方がいらしたら、是非一緒に「いのちめぐる社会」に向けて協働して行きましょう。
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執筆者プロフィール
太齋 彰浩(だざい あきひろ)氏
一般社団法人サスティナビリティセンター
代表理事
民間研究所での研究生活を経た後、地域密着型の教育活動を志し、志津川町(現・南三陸町)へ移住。東日本大震災で後は、行政職員として水産業の復興に取り組むとともに「地域循環の仕組み」づくりに注力。平成30年4月、有志により(一社)サスティナビリティセンターを設立。現在は、世界に誇れるまちづくりを自分事として目指す人々の支援を行うとともに、持続可能なまちづくりを担うリーダーを養成するためのプログラム開発を行う。
一般社団法人サスティナビリティセンター Webサイト
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