コラム
産業廃棄物処理委託契約書を徹底解説!
~法律、通知の規定から実運用まで~後編佐藤泉先生の「廃棄物処理法・環境法はこう読む!」
「産業廃棄物処理委託契約書を締結する場合、どのような点に気を付けたらよいのか。」
日頃から、契約書に関するお悩みをよくお聞きしますが、法定記載事項、覚書、変更や追加があった際の対応方法など、疑問をいだきやすいポイントがいくつかあります。今回は、産業廃棄物処理委託契約書の作成について、前中後編の3回に分け、実運用も含めて解説します。後編では、記載項目ごとの注意ポイントについて解説します。
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※本記事は2019年に執筆されたものを加筆・修正しています。
8.処理料金
処理料金の記載の仕方は、基本的に自由です。たとえば、廃棄物の種類ごとにキロ当たり単価、立米当たり単価、1車当たり単価でも構いません。また1カ月当たり○○円、1回の回収あたり○○円という固定価格でも構いません。収集運搬と処分を同一の処理業者に委託する場合には、処理料金を合算して表示しても構いませんが、分けて記載しておけば同一の契約書で「収集運搬だけ」「処分だけ」それぞれを委託する場合分けて使うことができます。
処理料金は、廃棄物の種類及び量と同様「契約締結時の予定」として考えることが可能だと思います。なぜなら、処理委託契約は、基本契約であり、個別の委託については、排出の都度当事者間で合意することがありうるからです。
また、業務用什器など、複数の素材が混合した廃棄物、その他多種多様な廃棄物が発生する可能性がある場合もあるため「別途見積による」という記載も有効であると考えます。その場合には、料金について双方の誤解がないように、見積書等を双方で保管し、契約書と一緒に管理することが重要です。
委託契約書に別紙として処理料金一覧表を添付すること、また処理料金が変更された場合、処理料金一覧表を差し替えて、追加保管することも可能だと思います。
プラ新法の施行以降、プラスチックの適正処理、再資源化が重要となっています。汚れたプラスチック、硬質・軟質プラ、ペットボトル、発泡スチロールなど、素材や排出状態によって、処理料金を細かく設定する場合も生じるでしょう。リサイクル市場の需要と供給変動により、随時単価改正が起きる可能性もあり、柔軟な価格設定、交渉が発生することが予想されます。そのたびに覚書を締結する必要はなく、当事者間でメール等により金額の確認が行われていればよいと思います。
また、処理業者が受託した廃棄物を受領したところ、異物が混入していた、予定されていた品質と異なっていた等の理由で処理料金の変更を申し入れる場合も、契約書の変更をする必要はありません。当事者間で、適正な処理料金を協議し、決定することができます。
処理委託の対象物に、金属くず等有償売却できるものが含まれている場合、処理料金をゼロ円又はマイナス価格(実質的に有価)として記載することが可能か、相談を受けることがあります。処理料金は当事者双方で合意すればよいので、ゼロ円でもマイナス価格でも問題ないと思います。実質的に有価な場合、廃棄物処理委託契約を締結しないことも可能かもしれません。しかし、排出事業者と処理業者が、たとえ有価物であっても処理委託契約とマニフェストを運用したいという考えることは適法であり、廃棄物処理法の趣旨にも合致しています。
【追加・変更時の対応とポイント】 処理料金は、種類及び数量と同様に予定のものとなります。幅のある記載が可能です。 変更に備え、別紙として「見積書」や「処理料金一覧」などを添付することも可能です。 |
9事業の範囲
受託者が産業廃棄物収集運搬業者又は産業廃棄物処分業者の許可を受けている場合には、その事業の範囲を記載する必要があります。産業廃棄物処理委託契約には、許可証が添付されているので「許可証記載のとおり」と記載しても構いません。
10.積替え保管を行う場合には所在地等の情報
収集運搬の途中で積替え保管を行う場合には、保管場所の所在地、保管できる産業廃棄物の種類及び保管上限を記載する必要があります。複数の積替え保管場所を使用する可能性がある場合には、複数の場所を記載することも可能です。個別の委託において、直行か、積替え保管ありか、また複数の積替え保管場所がある場合にはどの積替え保管場所を利用するか、排出時にマニフェストにおいて明確化することができます。
また、保管場書の所在地等の情報について、契約書には許可証が添付されているので、許可証記載のとおりと記載することが可能です。
【追加・変更時の対応とポイント】 複数の積み替え保管場所がある場合は、複数記載することが可能です。個別の委託において、直行か積替え保管ありか、どの積替え保管場所を利用するかは、排出時にマニフェストにおいて明確化することができます。 |
11.安定型産業廃棄物について、積替え保管を行う場合、混合の可否
排出者が安定型産業廃棄物を排出する場合、積替え保管場所で管理型の処分場に埋め立てられる廃棄物と混合されてしまうと、混入により排出事業者に委託基準違反が生じてしまいます。したがって、排出者に、あらかじめ混合の可否について承諾を得ることにして、混合を認めた場合には管理型処分場に委託することを求めるものです。
排出者が安定型産業廃棄物を排出しない場合、又は運搬中に積替え保管を認めない場合には、当該記載は必要ありません。
【追加・変更時の対応とポイント】 |
12.適正処理のために必要な情報(性状、荷姿、石綿含有、水銀使用製品等)
排出者は、以下の情報を処理委託契約書に記載する必要があります。
イ | 当該産業廃棄物の性状及び荷姿に関する事項 |
ロ | 通常の保管状況の下での腐敗、揮発等当該産業廃棄物の性状の変化に関する事項 |
ハ | 他の廃棄物との混合等により生ずる支障に関する事項 |
ニ | 当該産業廃棄物が次に掲げる産業廃棄物であって、日本産業規格C〇九五〇号に規定する含有マークが付されたものである場合には、当該含有マークの表示に関する事項(廃パソコン、廃ユニット型エアコン、廃テレビ、廃電子レンジ、廃衣類乾燥機、廃冷蔵庫、廃洗濯機) |
ホ | 委託する産業廃棄物に石綿含有産業廃棄物、水銀使用製品産業廃棄物又は水銀含有ばいじん等が含まれる場合は、その旨 |
ヘ | その他当該産業廃棄物を取り扱う際に注意すべき事項 |
これらの情報は、排出者が処理業者に伝えるべき情報ですが、現実にどの廃棄物についてどの程度伝えればよいか、判断が困難です。そこで、環境省は、廃棄物情報の提供に関するガイドライン‐WDSガイドライン‐(Waste Data Sheet ガイドライン) を公表し、この活用を推奨しています。このガイドラインは、外観から含有物質や有害特性が判りにくい汚泥、廃油、廃酸、廃アルカリの4 品目を主な適用対象と想定しています。
また、平成24年5月、産業廃棄物処理施設から中和処理をした工場廃液を河川放流したところ、浄水場においてホルムアルデヒドが生成され、大規模な水道取水障害が発生しましたが、このような事案の再発防止のため「廃棄物の化学物質名や組成、取水障害等の前駆物質である場合はその旨」「避けるべき処理方法等」について注意喚起するよう、ガイドラインが改正されています。なお、排出事業者と処理業者は、双方向でコミュニケーションを行い、事故防止をすることが重要であるとされています。
上記、ニ、ホ、ヘについては、該当する場合に記載義務がありますが、該当しない場合には省略することが可能です。また、契約締結段階で、将来排出する廃棄物を確定することは難しいため、個別の排出時に別途通知するという記載も可能です。情報に変更があった場合には、排出事業者からファックス、メール等で連絡すれば足り、契約書の変更や覚書の締結は必要ありません。
13.委託契約の有効期間中に、廃棄物の適正処理に必要な情報に変更があった場合の伝達方法
情報伝達の方法は、特に形式が決まっていません。一般的には、ファックス、メール、郵便その他の方法と記載しておけばよいと思います。
14.受託業務終了時の受託者への報告に関する事項
産業廃棄物の運搬・処分終了については、マニフェストによって報告が行われています。したがって、一般的にはマニフェストによると記載することで足ります。
しかし、広域認定や専ら物など、マニフェストの運用が必要ない場合には、別途報告に関する事項を記載することが必要です。広域認定等は、環境省が処理フロー全体を確認して、運用が行われているため、処理業者は排出者に逐次報告する義務はありません。排出者から問い合わせがあった場合に報告するという書き方でも問題ないと思います。
15.委託契約を解除した場合の処理されない廃棄物の取り扱いに関する事項
委託契約が解除された場合、処理されない廃棄物が放置されるリスクがあります。そこで、排出事業者の責任を明確化するため、未処理物の取り扱いに関する事項を、契約書に記載することになりました。しかし、その内容をどうするかは、当事者間で決めるため自由です。
委託契約を解除する理由は、排出者が処理料金を支払わないケース、処理業者が許可を取り消されたケース、他の処理業者に切り替えるケースなど千差万別です。いずれにしろ、現実に支払い能力がない当事者が責任を負担することにした場合、適正処理を進めることができません。
解除原因が複数ありうること、事前にそれらのケースへの対応策を決めておくことは困難です。そこで簡単に、当事者間で協議のうえ適正処理を行う、というような記載で、目的は達成できると思います。現在、処理業者の行政処分などの場合には、処理困難通知(法第14条第13項)、マニフェストの処理報告遅延等の場合の排出事業者の措置義務(施行規則第8条の29)等が規定されており、排出事業者が未処理物を放置することはできない体制となっています。
なお、排出事業者が既存の処理業者への新規委託をやめて、新たな処理業者と契約を締結する場合でも、排出事業者は既存の処理業者との処理委託契約書を解除する義務はありません。契約の有効期間のところで記載した通り、排出事業者は、複数の処理業者と基本契約を締結することは適法です。既存の処理業者が許可取消しや廃業をした場合にも、排出事業者は既存の処理業者との処理委託契約を解除する義務はありません。どちらも、排出事業者は単に新規の処理委託をしないというだけの対応が可能です。しかし、契約関係の解消をはっきりさせるために、契約解除通知を出すことや、契約終了の覚書を作成することは意味があると思います。
16.処理業者の許可証写しを添付
排出事業者は、契約締結時に、処理業者から許可証のコピーを、郵送またはPDFで受領して、契約書に添付しています。処理業者が許可証をWEB等で公開している場合は、これをダウンロードして添付することも可能です。許可を更新した場合、または許可証記載の許可内容が変更された場合、排出事業者は処理業者から新しい許可証の写しを受領して添付します。
許可証の添付は、排出事業者が、処理業者が有効な許可を取得しているかどうかを確認する上で重要です。しかし、複数の自治体での収集運搬を委託する場合などは、添付する許可証の枚数が非常に多くなる場合があり、その有効期間を管理することが困難な場合があります。
許可証の有効期間が超過していても、更新申請をしている場合、その期間許可は有効に継続しているため、許可証だけでは処理業者の許可の有効性は確認できません。さらに、許可が取り消された場合にも、処理業者が処理困難通知を送付しない限り、排出事業者には処理業者の許可が有効か確認できません。許可の有効性を確認する方法としては、環境省がWebで公開している「産業廃棄物処理業・処理施設許可取消処分情報」等を活用することも可能です。
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執筆者プロフィール
佐藤 泉(さとう いずみ)氏
佐藤泉法律事務所 弁護士
環境関連法を主な専門とする。特に、企業の廃棄物処理法、土壌汚染対策法、大気汚染防止法、水質汚濁防止法等に関連したコンプライアンス体制の構築、紛争の予防及び解決、契約書作成の支援等を実施。著書は「廃棄物処理法重点整理」(TAC出版)など
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