コラム
第2回「上手な経営層の巻き込み方」足立直樹のサステナブル経営の勧め
パリ協定、RE100、TCFD、SDGs、ESG、海洋プラスチック... 海外発のトピックスや課題が次々に登場していく中、環境部やCSR部をはじめとしたサステナビリティ推進担当はどのように取り組みを考えていくべきか。
本コラムでは、数多くの先進企業へコンサルティングを提供されている株式会社レスポンスアビリティ代表取締役の足立直樹氏に「サステナブル経営」実現に向けたポイントを解説いただきます。第2回の今回は「経営を巻き込む方法」についてです。
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経営こそサステナビリティの理解を
こんにちは、レスポンスアビリティの足立です。前回は、本当の意味で環境に配慮した、そしてサステナブルな事業にするためには、経営を巻込まなくては無理だと申し上げました。
TCFDへの対応や再生可能エネルギーへのシフトを考えればすぐに分かりますが、環境やCSRを本業と切り離して、それだけうまく対応することはもはや不可能です。環境や社会への配慮、つまりサステナビリティは、今や事業の前提条件です。当然、経営者がサステナビリティをしっかりと理解し、自ら先頭に立ってリードしなくてはうまく行く訳がありません。
そしてどうせ取り組まなくてはいけないのなら、それを事業にしっかり活かして、むしろ自分たちの競争優位とする。これが、私が考える「サステナブル経営」です。こうした観点から私は経営者の方々へ、今考えるべきこと、これから打つべき手をアドバイスしています。
経営層の方がすでにそういう意識をもっていらっしゃれば話は早いのですが、CSRやサステナビリティの担当者の方からは「どうしたらうちの経営層を巻き込めるか?」というご相談をよくいただきます。そこで今回は、そのコツをお話ししたいと思います。
経営を巻き込むコツは、効果的なインプット
多少の例外はあるにしても、一般的に言えば日本の経営層の方々は、サステナビリティについて「疎い」ように思います。もちろん「SDGs」とか「ESG」、少し前だったら「CSV」という言葉はさすがにご存じです。けれど、その重要性や自分たちのビジネスに与える影響をしっかりと認識し、本気で取り組んでいる方は、残念ながら多くはないようです。だからこそ担当者から「どうしたらうちの経営層を...」という質問が出るわけです。
理由はいくつかありますが、やはり一番は情報量が少ないことでしょう。 インターネット全盛のこのご時世にと思われるかもしれませんが、日本のマスメディアはサステナビリティについてあまり大きく取り上げませんし、報道された場合にも、方向性がずれていることが少なくありません。
だからこそ再生可能エネルギーへのシフトがこれだけ遅れたとも言えますし、プラスチック廃棄物への対応もなんだかおかしい、極め付けは、ウナギが本当に絶滅しそうな状態だというのに「土用の丑には夏バテ予防に...」なんて能天気なニュースを流しているのです。
海外、特に欧州のニュースに幅広く目を光らせている経営者の方であれば、こんな日本の偏った報道に流されることなく、たとえば今や「気候非常事態(climate emergency)」だという危機感を持っていらっしゃることでしょう。
ただ、忙しい経営層の方が、ご自分でそうしたニュースを毎日カバーするのは大変かもしれません。どうしても日常的に目や耳にする国内メディアの情報に影響を受けがちです。だからこそ、そうした海外の情報や視点をタイムリーに伝えることが、担当者にとっては重要な役割になります。
ピア・ラーニングの活用を
「そうは言っても、自分たちからトップに直接情報を上げられる機会は限られるし、上げたところでどこまで関心を持ってもらえるか...。」 そういう声もよくお聞きします。CSR委員会などの機会は最大限に活用すべきですが、社外の方をうまく使うのも手です。ステークホルダーダイアログやメディアからのインタビューなどで、意識的にサステナビリティに関する話題を取り上げてもらうようにするのです。もちろん、専門家による役員向けのレクチャーもいいでしょう。
そして最も効果が大きいのは、ピア・ラーニングです。ピア、つまり他社の経営層の方からサステナビリティについて話を聞いたり、議論するような機会があれば、自分ももっと本気で考えなくてはと思われるはずです。
そのために最も良いのは、経営者同士がサステナビリティについて議論する場に参加してもらうことです。先進的な考えを持つ国際的なトップ企業が集まる会議に参加してもらえれば最高ですが、それは敷居が高いようなら、まずは国内の先進企業が集まる会議でも構いません。
私が理事と事務局長を務めている企業と生物多様性イニシアティブの場合には、数ヶ月に一度、会員企業の経営層にお集まりいただき、国内外の最新動向について勉強したり、情報交換をしていただいています。ご参加いただいている方はもともと熱心な方が多いのですが、他とは違う情報源を持つことなります。 |
よりオープンなところで議論をしながら自社のアピールということであれば、国際会議やイベントに参加していただくのが効果的です。サステナビリティに特化した国際会議も多くあります。そうしたところに登壇するとなれば、経営層の方も張り切るに違いありません。
アメリカでは既に10年以上の歴史を持ちますが、3年前からは日本でも毎春開催されています。基調講演で自社のサステナビリティの取り組みについて講演するという手もありますし、最近こうした会議で多い、パネル方式のセッションもあります。プレゼンテーションではなく、特定の課題について各人の経験をもとに議論をするというタイプのセッションです。 |
「いきなり専門家や他社の方々との議論は大変なので、まずは勉強をしていただいてから」ということであれば、やはり社内研修をお薦めします。経営会議の前後に役員向け勉強会を開催することはよくあると思いますが、そこでサステナビリティに関わるテーマを取り上げるのです。
「お話を聞く」だけで終わらせないためには?
しかし、一回限りの勉強会では「お話を聞く」だけで終わってしまうことも多いので、私がお薦めするのは、ワークショップなども組み込んだ、しっかり時間をかけて行なう研修です。取締役の方々ですとまとめて時間を取るのは難しいかもしれませんので、新任役員や次期役員向けにすると良いでしょう。少し前までは「環境」をテーマに役員研修を行う会社はあまりなかったと思いますが、最近はESGやSDGs、サステナビリティというテーマであれば「会社の将来を考える」ことの一環として研修もやりやすくなっています。
また、本当の上層部であれば、1対1のコーチング的なプログラムにした方が現実的です。トップにいきなりコーチングを進めるわけには行かないでしょうから、その必要性を感じていただけるようにお膳立てをすることがポイントになります。
最後に
いずれにしろ、あなたの会社の経営層に動いてもらおうと思ったら、その方々が動きたくなる、あるいは動かざるを得なくなる環境を、あなたが整えることが重要なのです。それを意図的に行うことが、経営層を巻込むコツなのです。
※サステナブル経営についてもっと幅広く知りたい方は、私どもが発行する無料メールマガジン「サステナブル経営通信」もぜひお読みください。
http://www.responseability.jp/mailmagazine
執筆者プロフィール(執筆時点)
足立 直樹 (あだち なおき)氏
株式会社レスポンスアビリティ代表取締役
サステナブル・ビジネス・プロデューサー
博士(理学)。国立環境研究所、マレーシア森林研究所を経て、現職。一般社団法人企業と生物多様性イニシアティブ(JBIB)理事・事務局長等を兼務。
社会を持続可能にすることに資する事業を通じたブランディング構築、企業による生物多様性の保全、自然資本を活用した地方創生等を専門とする。著作に『生物多様性経営 持続可能な資源戦略』(日本経済新聞出版社)他多数。
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