コラム
「ごみ」からはじめる、まちづくりとビジネス改革 企業・地域を変える!?「ゼロ・ウェイスト」の可能性
ごみはすべての人に関わりがある事柄といって過言ではありません。そして今までは、個人、自治体、企業にとって、できるだけコストと労力を割きたくない事象でもありました。しかし今、この「ごみ」が、世界の資源枯渇・生態系破壊などの環境問題への意識の高まりと共に、可能性ある資源として注目されています。また、コミュニティ内すべての構成員が関わる共通課題として、まちづくりへの参画を促すきっかけとしても注目されています。
本コラムでは、日本で初めて「ゼロ・ウェイスト宣言」を行い、徹底資源化を実施している徳島県上勝町での実績がある特定非営利活動法人ゼロ・ウェイストアカデミーの理事長 坂野 晶様に「ゼロ・ウェイスト」の可能性と、具体的な進め方について連載していただきます。最終回は「ごみを切り口に取り組める地域づくりやビジネス」についてです!
(写真はゼロ・ウェイスト認証のロゴマークです。)
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ここまで9回に渡り、ゼロ・ウェイストに取り組む様々なアプローチとプロセスをご紹介してきました。今回、最終回となる10回目では、ゼロ・ウェイストの取り組みをどう活用できるか、その可能性を改めてご紹介したいと思います。
「ごみ」は、地域活性化やまちづくりの「きっかけ」
ごみに無関係な地域はありません。どの地域でも、課題感のあるなしに関わらず、ごみは必ず何かしら、取り組む必要のある分野です。行政としては必ずごみ処理のための予算が必要で、回収や処理のための設備や人員、様々なリソース確保に苦戦している地域も少なくありません。さらに、ごみ処理施設は一般的には「迷惑施設」と考えられており、誰も自分の家の近くにごみ処理場は欲しくない、と思っています。だからこそ、行政としてはごみ処理施設をつくる地域の住民へのある種の「迷惑料」としてのサービス提供等を考慮する必要があり、さらにお金をかける必要がある・・という負のスパイラルが生まれているとも言えます。
では、そんな「ごみ」が迷惑なものではなくなったらどうでしょうか。「ごみ」は実は「きっかけ」です。どこにでもあるものだからこそ、その価値を転換することさえできれば、実は最強のリソースになる?!今回は、そんな価値転換によるごみの活用方法を考えていきましょう。
日本で初めて、自治体として「ゼロ・ウェイスト(ごみや無駄ゼロ)宣言」を行った徳島県上勝町はまさに「ごみ」を切り口に地域活性化の一つの形を成功させた事例と言えます。最初から、それを目指して取り組みを始めたわけではないけれど「やるならとことん理想を追求しよう」という先見の明を持った視座で取り組みを考え、巻き込めるものは何でも誰でも巻き込みながら、美しい自然と暮らしを未来の子どもたちに残す、という絶対的なビジョンを掲げて取り組まれてきた政策には、間違いなく説得力があります。
ごみステーションは迷惑施設でなく、地域のヒトモノ情報が集まる場になった
上勝町の取り組みは「日本で初めて」という真新しさからではなく、その中身の効果が注目されています。例えば、町内唯一のごみステーション。住民がみなこの1カ所にごみを持ち込み、分別をしています。45種類という分別数の多さばかりに目が行きがちですが、この場所の本当の価値は、町内のリソースが集まる「場の効果」にあります。ごみは誰でも出しますから、町内でごみステーションが「最も住民が多く訪れる場所」になります。人とともに情報や物が集まり「迷惑施設」のはずのごみステーションは、地域のヒトモノ情報が集まる「コミュニティ強化」や「地域内コミュニケーション」の場に化けるのです。実際に上勝町内で全戸を対象に行った住民アンケートでは(2016年実施、回答率55%)、ごみステーションが自分にとってなくてはならないと6割以上が回答し、さらに4割近くが「ごみステーションは人と交流する機会」、さらに3割近くが「ごみステーションは外出の機会」と回答しました。
上勝町では実際に、そうした場の効果を活用し、NPO法人ゼロ・ウェイストアカデミーが不用品を地域内において無料で循環させる「くるくるショップ(リユースショップ)」をごみステーション内に設置、さらに着物や鯉のぼりなどの古布をリメイクする「くるくる工房」をごみステーションに隣接して運営、また、環境教育の場として多くの子どもたち、さらに視察者や研修者を受け入れてきました。このように、ごみという誰しもが関わる拠点を活用し、コミュニティ強化の活動に昇華させていくモデルは、アミタ株式会社が南三陸町でも実証実験を行い、その効果が証明されています。(写真は上勝町の「くるくる工房」)
企業も「ごみ」に注目するとイノベーションのチャンスになりうる
地域だけでなく、企業もこうした「ごみの価値転換」からビジネスチャンスをつかむことができます。近年ヨーロッパを中心に提唱されている「サーキュラー・エコノミー」がまさにそのモデルと言えるでしょう。
サーキュラー・エコノミーは、究極的に新たな資源を投入せずとも、一度投入した資源だけで生産から使用、そして再生産までの流れを完全に「閉じたループ」化していくという経済モデルです。2015年にアクセンチュアが発表したサーキュラー・エコノミーへの転換の経済効果は、2030年までにサーキュラー・エコノミーへの転換を成功させた場合4.5兆ドル。既存の「一方通行経済」つまり、資源を採取し、生産し、消費し、廃棄するという経済モデルで無駄にしている様々な資源を、完全に有効活用するというだけでなく、確実に循環させていくことで資源の有効活用による経済合理性はもとより、新たな市場価値を生むことが出来るという可能性です。実際にヨーロッパでは、サーキュラー・エコノミーを経済成長戦略と位置づけ、様々な政策立案が始まっており、先行してサーキュラー・エコノミーの導入に成功した企業には経済優位性をもたらすことが明らかです。
「循環」をきっかけに、商品提供から価値提供に切り替えた事例
オランダに本拠を置く大手電気機器関連機器メーカーのフィリップスは、電球ではなく「灯り」を売るモデルでまさにサーキュラー・エコノミーを体現し、売り上げを伸ばしています。通常の電球の販売であれば、販売後の製品は生産・販売企業の手を離れてしまいますが、例えば建物の照明を期間とワット数に応じて定額提供する、つまり電球自体はリースにし、切れたら回収して交換するというモデルであれば、切れた電球は自社で回収し、リサイクルして再度生産に使用することが出来ます。また、修理やアップグレードなど様々な付加価値サービスの提供も可能となり、顧客の囲い込みにも繋がるといえます。顧客側にとっても、自社で切れた電球の処理をせずに済み、修理や製品交換の費用も定額の中に含まれているため、様々なコスト削減に繋がり、双方にメリットがあるビジネスモデルとなるのです。こうした既存の「売り切り」モデルではない考え方をはじめ、様々なクリエイティブでイノベーティブな視点から「循環型」のビジネスモデルを創出していく動きは、世界的に今後ますます加速していくでしょう。
こうした流れを、日本ではどのように取り入れ、ビジネスイノベーションに繋げていけるか?ぜひ既存のビジネス慣習にとらわれずに取り組んでいきたいものです。
「ゼロ・ウェイスト」は日本では馴染みのない言葉だったかもしれませんが、グローバルではスタンダード以上に、さらに進化し、経済界では「サーキュラー・エコノミー」そして地域や政策立案においても持続可能な地域づくり、社会形成に大きく貢献するキーワードとして更に進化を遂げています。日本においてもSDGs (Sustainable Development Goals、持続可能な開発目標)などこれから世界的課題に対してどう取り組んでいくべきか、企業も行政も誰しもが、問われる時代となりました。何から考えようか?どこから切り込もうか?と、もしも少し悩んだときには、一つの入り口としてゼロ・ウェイストをぜひ思い出してください。
執筆者プロフィール
坂野 晶(さかの あきら)氏
特定非営利活動法人ゼロ・ウェイストアカデミー
理事長
大学で環境政策を専攻後、国際物流企業での営業職を経て現職。日本初の「ゼロ・ウェイスト」宣言を行った徳島県上勝町を拠点に、同町のゼロ・ウェイストタウン計画策定や実装、ゼロ・ウェイスト認証制度の設立、企業との連携事業など政策立案や事業開発を行うとともに、国内外で年間100件以上の研修や講演を行いゼロ・ウェイストの普及に貢献する。2019年1月には世界経済フォーラムの年次総会(ダボス会議)の共同議長に日本人で唯一選ばれた。
ゼロ・ウェイストアカデミー:http://zwa.jp/
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