コラム
第1回「モグラ叩きがもう無理な理由」足立直樹のサステナブル経営の勧め
パリ協定、RE100、TCFD、SDGs、ESG、海洋プラスチック...海外発のトピックスや課題が次々に登場していく中、環境部やCSR部をはじめとしたサステナビリティ推進担当はどのように取り組みを考えていくべきか。
本コラムでは、数多くの先進企業へコンサルティングを提供されている株式会社レスポンスアビリティ代表取締役の足立直樹氏に「サステナブル経営」実現に向けたポイントを解説いただきます。
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求められる経営の変革
皆様、はじめまして。この度ご縁があって、サステナブル経営について連載をさせていただくことになりました。どうぞよろしくお願いいたします。
私はもともと生態学の研究者をしていましたが、20年近く前に企業向けの環境コンサルティングに転向しました。地球環境を保全するのに企業がもっとも影響力を持っていると考えたからです。以来、研究者時代の専門性を活かして、生物多様性や自然資本に深く関係するサプライチェーンについての指導することが多かったのですが、この5~6年ぐらいは経営そのものへのアドバイスにシフトしています。
それにはいくつか理由があります。最大のものは「本当の意味で環境に配慮し、事業もサステナブルにするためには、経営から変えなくては無理だから」です。以前は「なるべく経営を巻込んだ方がベター」と言っていたのですが、今は「経営を巻込まなくては無理」と断言できます。
世界中で激化する気候災害からも分かるように、地球環境はもはや待ったなしです。また、人手不足が続き、働く人が疲弊する日本社会や日本企業も、とてもこのままうまく行くとは思えません。つまり、持続不可能なのです。
モグラ叩きがもう無理な理由━高度化する業務の対応範囲
一方で、あなたご自身のお仕事はいかがでしょうか?多くの企業がコスト削減で環境部やCSR部の人数や予算を削減していますが、対応しなくてはいけない問題はさらに広範囲になり、そして高度化していないでしょうか? 例えば、サプライチェーン管理にTCFD対応、どう考えても、これまでの環境管理やCSR活動の範囲を超えています。
そもそも、少し前まではCSR部を置いている企業の方が少なかったでしょう。廃棄物の管理をきちんとしていればよかったのが「環境管理だ」「ISOだ」と言われるようになり、CSRやCSVと言った3文字略語が飛び交うようになり、最近ではSDGsに取り組むのが当たり前になっています。経営層からはESGは大丈夫か? TCFDも対応しろと、いろいろな指示が降って来ることでしょう。
本当に次から次へといろいろな課題が出てきます。その度に、にわか勉強をして、専門外の事柄でも必死でついていく。そんな、モグラ叩きのようなやり方では、もはやどうあがいても対応不可能です。
なぜなら、あなたもお気づきのように、課題はますます高度になり、専門化していくからです。海外サプライヤーにおける人権問題をどう管理するのか? 10年先、20年先に気候変動はどう進み、そのことによる自社への経済的な影響をどう見積もるのか? 専門家の力を借りずに対応することはとてもできません。
今、世界はさらに高度な対応を求めている
「モグラ叩きがもう無理な理由」は他にもあります。2つ目の理由は「これまでは法律を守っていればよかったのに、それだけではすまなくなって来たこと」です。例えば、サプライチェーン上の環境や人権の問題。法律的には、それはサプライヤーの責任です。しかし、もちろん今やそのようなエクスキューズは許されません。「それはサプライヤーの責任ですから、うちは関係ありません」などと言ってしまったら、最後、ブランド価値は失墜し、売上は激減するでしょう。
3つ目の理由としては「CSRやサステナビリティの課題がビジネスを続けるための前提条件になっており、それをどう考え、どう対応するかが経営の中心的な課題となってきていること」が挙げられます。例えば、バンク・オブ・アメリカ(Bank of America Corporation)は、2019年4月4日に、低炭素の持続可能なビジネスへの転換のため、2030年までに3,000億米ドル(約33.5兆円)を新たに動員すると発表しています。持続可能性がビジネスを続けるための前提になりつつあるのです。
ですから、環境やCSRの課題は経営と切り離して、CSR部がその都度うまく対応すればいい、なんてことはもう不可能になってきています。担当者だけで、モグラ叩きを続ける時代は終わりました。「サプライチェーン管理や統合報告、TCFD対応なんてかなわんなぁ」と思ったとしても、それはあなたの責任ではありません。今までのやり方では無理な時代になったのです。
今後に向けて
ではどうしたらいいかですが、私がお薦めするのは「サステナビリティを経営の中核に据えること」です。具体的に言えば、こうした課題に全社的にシステマティックに対応し、取り組みをコストではなく投資にする、そして出来ることなら課題になる前に先回りして準備して、競争優位とすることを目指すのです。それが私の考える「サステナブル経営」であり、そうすれば、こうした取り組みが事業に直接活かせるようになります。
その第一歩として重要なのは、あなただけでなく、経営層にそのことを理解してもらうことです。でもどうやって? それについては、次回詳しくお話ししたいと思います 。
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執筆者プロフィール(執筆時点)
足立 直樹 (あだち なおき)氏
株式会社レスポンスアビリティ代表取締役
サステナブル・ビジネス・プロデューサー
博士(理学)。国立環境研究所、マレーシア森林研究所を経て、現職。一般社団法人企業と生物多様性イニシアティブ(JBIB)理事・事務局長等を兼務。
社会を持続可能にすることに資する事業を通じたブランディング構築、企業による生物多様性の保全、自然資本を活用した地方創生等を専門とする。著作に『生物多様性経営 持続可能な資源戦略』(日本経済新聞出版社)他多数。
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