「日本初!ASC養殖場認証取得」の経済・環境・社会における効果 | 企業のサステナビリティ経営・自治体の町づくりに役立つ情報が満載

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「日本初!ASC養殖場認証取得」の経済・環境・社会における効果環境と経済は両立する 南三陸バイオマス産業都市構想

asc_kaki_product_190417.jpg南三陸町は人口約1万3千人、海里山が一体となった豊かな自然環境を有する町です。同町は東日本大震災後の復興の過程で「エコタウンへの挑戦」を掲げ「南三陸町バイオマス産業都市構想」を策定。2014年3月に国の認定を受けました。その後、南三陸町では構想の実現に向けて、様々な取り組みが進んでいます。この南三陸町の取り組みは、単なる震災復興だけではなく、多くの地方自治体にとって参考になり得ます。

そこで本コラムでは、南三陸町総合計画の将来像である「森 里 海 ひと いのちめぐるまち 南三陸」の実現のために人材育成などを行っている一般社団法人サスティナビリティセンターの代表理事太齋氏に、南三陸バイオマス産業都市構想の経済・社会・環境影響について、参考事例などを交えて連載していただきます。第1回は、ASC養殖場認証取得の経緯・概要についてご紹介します。(写真はASC養殖場認証を取得した牡蠣の製品。)

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生産金額1.5倍、経費と1日の労働時間が4割減|日本初ASC養殖場認証取得の効果

東日本大震災から早8年がたちました。被害の甚大さは目を覆わんばかりでしたが、その中で奇跡的ともいえるいくつかの出来事が起こった町があります。これから数回にわたり、私が住む南三陸町で起きた「奇跡」の話を皆さんにお伝えしたいと思います。

先月、東京半蔵門のホテルで開かれた第24回全国青年・女性漁業者交流大会で、JFみやぎ志津川支所戸倉出張所カキ部会が、最高賞の農林水産大臣賞に輝きました。各地域の代表が水産業活性化に向けた様々な取り組みを行っている中で、戸倉のカキ部会が選ばれたポイントは何だったのか。それは、持続可能で高品質なマガキ養殖の実現と、それが生み出した効果でした。

そのときの発表資料によれば、1経営体あたりの生産量は震災前の1,790kgから約2倍の3,545kgへ。生産金額も338万円から500.9万円と1.5倍になっています。経費は230万円かかっていたものが133万円へと4割削減。その上、1日の労働時間も10時間から6時間へと、震災前の6割まで削減されました。戸倉のカキ部会は、企業の経営者が聞いたら耳を疑うような経営改革を、まさに実現したわけです。その上、日本初となったASC養殖場認証も取得し、今や日本の持続可能な水産業のお手本のような存在となりました。なぜこのような改革が実現できたのでしょうか。

190416_image01.jpg本題に入る前に、少し南三陸町のご紹介をしておきましょう。三陸リアス海岸の南端付近に位置する南三陸町は、東に大きく湾口を開けた志津川湾を囲むように町域が配されています。分水嶺で町境が区切られることから、行政単位と流域単位がほぼ重なるという特徴をもち、山と海と人の営みが、とてもコンパクトにまとまっている印象を受けます。志津川湾では、その静穏な海域を利用した養殖業が盛んで、カキ・ホヤ・ホタテ・ワカメ・ギンザケの養殖が、町の産業を支えていました。町の南側に位置する戸倉地区でも、その例に漏れず、震災が起こる前の海には、カキを吊したブイがところ狭しと浮かんでいました。そう、本当にところ狭しと、漁業者ですら漁船の往来に苦労するくらいに。(図はクリックすると拡大します。)

悪循環だった震災前|密植→育成不良品質悪化単価下落さらなる密植

190416_image02.jpg当時の志津川湾はいわゆるオーバーユース(使いすぎ)の状況でした。生態学の世界では環境容量という言葉があります。ある空間に生育することのできる生物の量には限界がありますよ、という当たり前のことを言っているのですが、例えば家庭菜園をやったことがある方は、適当に間引きをしないと植物がひょろひょろにしか育たなかったという経験をされた方もいるかと思います。(図はクリックすると拡大します。)

カキ養殖もこれと同じで、密度が高すぎると一匹一匹に十分な栄養が行き渡らず、成長が悪くなってしまいます。当時の志津川湾では、昔は1年で収穫できていたカキが、3年たたないと収穫できず、しかも品質が悪い=価格が安い、という状態が続いていたのでした。私は仕事柄、漁業者の皆さんの前で講演することがあり「1年でとれる状態に戻した方が、経費もかからないし、品質もよくなる。そっちの方が絶対お得ですよ。」と何度かお伝えしたことがあります。その際の漁業者の反応は「それは漁師もわがってんだ。ンだげど、隣がやってんのに、俺だげやめらんねー。」というものでした。私も苦笑するほかなかったのを覚えています。

こうして県内でも評価の低い、実入りの悪いカキを長時間カキ剥きして出荷することが続けられました。単価が低いので、量を確保するためにさらに養殖施設を投入する、それでなおさら実入りが悪くなる、という負のループに陥っていたのでした。

すべてを流した東日本大震災

190416_image03.jpgそうこうしているうちに、8年前のあの日がやってきます。最大到達高20mを超える津波は、養殖施設や船、カキ処理場から自宅に至るまですべてを流し去り、たくさんの貴い命も奪われました。漁業者はまさにマイナスからのリスタートを余儀なくされたのです。(図はクリックすると拡大します。)

私は当時、町の職員の立場として水産業の復興の側面支援を行うことになったのですが、今回の災害に関しては、国も相当な覚悟を持って様々な支援策を打ち出してきました。最初は漁業者のがれき処理に日当を支払うことから始まり、従前の激甚災害制度による復旧メニュー(養殖施設の原型復旧に対し、その9割を補助するというもの)に加えて、漁船やカキ処理場の復旧も低廉な負担で可能となりました。そしてこれまでにないメニューとして、漁業者が3人以上で協業化を図った場合、3年間は赤字の9割まで補填する「がんばる漁業復興支援事業」という制度も用意されました。最初は途方に暮れていた漁業者も、だんだんやる気を取り戻し、将来設計を描けるようになっていったのでした。実はここでの復旧メニューの選択が、その後の戸倉地区の取り組みに大きな影響を与えていきます。

原型復旧を前提とした補助金を選ばず、新しい養殖を目指した戸倉地区

従前の制度は"原型復旧"を基本としています。それはつまり、きれいさっぱりリセットされた漁場に、また過密養殖を作り出すことになってしまいます。戸倉地区が幸運だったのは、地域のつながりが強く、助け合いの精神から、とりあえず全員で共業体を作ろうとなったこと、そこでカキ部会長に選ばれた後藤清広さんが、柔らかな物腰だけれども強いリーダーシップを発揮し、次代に誇れる漁場を作ることにこだわったこと、さらにそれを実現すべく漁協職員の阿部富士夫さんが実務上の仕組み作りを担う体制があったことです。

清広さんが打ち出したのは、養殖施設をこれまでの1/3の規模で復旧するというものでした。喧々諤々の議論の末、組合員も最後は同意し、養殖施設の間隔を厳格にまもりながらの施設復旧がはじまりました。戸倉地区のこの決断は、本当にすごいことです。施設を1/3にするのは、収入が減るのではという懸念がどうしても生ずると思うのです。この決断により、環境・経済・社会の課題の同時解決につながる、世界に誇れる戸倉のカキ養殖が始まりました。次回は、養殖施設を1/3に減らしたことによる、環境・経済・社会面の効果をもう少し詳しく見ていきましょう。

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執筆者プロフィール

mr.dazai_s.jpg太齋 彰浩(だざい あきひろ)氏
一般社団法人サスティナビリティセンター

代表理事

民間研究所での研究生活を経た後、地域密着型の教育活動を志し、志津川町(現・南三陸町)へ移住。東日本大震災で後は、行政職員として水産業の復興に取り組むとともに「地域循環の仕組み」づくりに注力。平成30年4月、有志により(一社)サスティナビリティセンターを設立。現在は、世界に誇れるまちづくりを自分事として目指す人々の支援を行うとともに、持続可能なまちづくりを担うリーダーを養成するためのプログラム開発を行う。

一般社団法人サスティナビリティセンター Webサイト

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