コラム
分別だけでは難しいものへの挑戦|設計時から廃棄を考える 企業・地域を変える!?「ゼロ・ウェイスト」の可能性
ごみはすべての人に関わりがある事柄といって過言ではありません。そして今までは、個人、自治体、企業にとって、できるだけコストと労力を割きたくない事象でもありました。しかし今、この「ごみ」が、世界の資源枯渇・生態系破壊などの環境問題への意識の高まりと共に、可能性ある資源として注目されています。また、コミュニティ内すべての構成員が関わる共通課題として、まちづくりへの参画を促すきっかけとしても注目されています。
本コラムでは、日本で初めて「ゼロ・ウェイスト宣言」を行い、徹底資源化を実施している徳島県上勝町での実績がある特定非営利活動法人ゼロ・ウェイストアカデミーの理事長 坂野 晶様に「ゼロ・ウェイスト」の可能性と、具体的な進め方について連載していただきます。今回は「分別だけでは難しいもの」についてです!
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上勝町でもまだ資源化できていない残りの19%はどうなっているか?
前回のコラムでは、資源をごみにしないための重要なステップとしての「分別」のあれこれをご紹介しました。もうこれ以上は使えないものを、燃やしたり埋め立てたりしてしまうのではなく、もう一度資源に還し(リサイクルし)、活かし続けるために大切なのが分別です。しかし、その分別だけではどうしようもないもの、資源として救うことが出来ないものもまだたくさんあるのです。今回はそんな「分別だけでは難しいもの」についてご紹介します。
徳島県上勝町は日本で初めて「ゼロ・ウェイスト宣言」を行い、ごみを出来る限り燃やさない・埋め立てないことを目指してきました。2019年3月現在のごみの分別数は13品目45分別。一般廃棄物の81%がリサイクルされています(日本のリサイクル率平均は約20%)。
しかしそんな上勝町でも、残りの19%は「燃やさなければならない」「埋め立てなければならない」ごみとして、焼却・埋め立て処分となっています。具体的にどのようなものがあるのでしょうか。表にしてみました。
燃やさなければならないもの | |
項目 | なぜ「燃やなければならない」のか |
塩化ビニル製品 | リサイクル業者不在 |
ゴム製品 | リサイクル業者不在 |
革製品 | リサイクル業者不在 |
タバコの吸い殻 | リサイクル業者不在 (プラスチック製フィルターと紙・葉類の分離が困難、1つ1つが少量であり汚れているため回収が困難、リサイクル後の素材使用先の開拓が困難 等) |
食品保存剤・乾燥剤 (シリカゲル等) |
リサイクル業者不在 |
紙おむつ・生理用品 (使用済) |
リサイクル施設設立投資・業者誘致が困難(紙パルプとして建材使用、堆肥化等に取り組んでいる業者はあるが、初期投資及び一定量の安定供給が必要となるため上勝町単体においては困難) |
ペットシート・ネコ砂等 | 衛生上再資源化が困難、素材分離が困難 |
埋め立てなければならないもの | |
項目 | なぜ「埋め立てなければならない」のか |
貝殻 | 再利用先なし |
カイロ | 素材として再資源化が困難(使用後に鉄分は酸化し金属として使用不可となる) |
複合素材のもの (例:日本人形、水槽など) |
素材分離が困難(そのため単一素材としての再資源化が不可) |
表:筆者(坂野 晶氏)作成
これら品目は「なぜ焼却・埋め立てなければならないのか」それぞれの理由を表内に記載したとおり、そもそもリサイクルする想定で作られていない素材・製品であり、リサイクル技術があったとしても高額の設備投資が必要で一般化が困難であったり、消費者の使用後に回収した時点で劣化が著しく再資源化が難しい場合が大半であったりするため、どれだけ分別回収を頑張ったとしても、その後資源に戻すことができないものです。
商品設計時点から廃棄されないものづくりを
こうした「難しいもの」たちは、そもそも製品設計の段階から変えていく必要があります。資源を採って、作って、使って、捨てる、という一方通行では地球は維持できないと、もはや誰もが気づいています。資源に確実に戻して再利用できる前提の製品のみが市場で流通するという状況は今すぐ実現していく必要があるのです。
例えば「難しいもの」の筆頭格である「紙おむつ」。紙というのは名ばかりで、その素材の多くにポリプロピレンやポリエチレンといった、通常私たちが「プラスチック」と呼ぶものと同じ石油由来の素材が含まれます。さらに、漏れを防ぐための吸水性ポリマーやパルプなどを層にして作られているものなので、素材ごとの分別はもちろん不可能です。そして汚物を吸収する目的の商品のため、衛生的な観点からも使用後の再利用は設計段階から想定されていません。
しかし、今日本全国だけでも生産される紙おむつの量は年々増加しています。子ども用で年間約160億枚、大人用で年間約80億枚、女性用生理処理用品で年間約750億ピース(すべて2017年)です。今後、高齢化が進む日本社会においては、さらに大人用製品の生産増加が予測されます。大人用は子ども用よりも製品自体はもちろん、使用後の重量が大きく、ごみとして存在感を増すため、保管、処理、運搬それぞれの面で課題が出てくるでしょう。
そんな中、海外で近年注目されているのが「土に還せる」おむつです。ポリプロピレンなどの石油由来の素材を使用せず、生分解可能な植物由来の素材を使用しているため、堆肥化装置などを使って土に還すことが出来ます(堆肥化にコンポスターなどの機材を使うのが一般的ですが、そのまま土に埋めてもきちんと分解されるもの、ということです)。例えば、オーストラリア生まれのgDiapers(ジーダイパーズ)は、洗濯して何度も使える「おむつカバー」(カラフルなデザインで可愛い!)と、その中に敷く「ライナー」を中心製品としており、ライナーについてはセルロースや木材パルプなどの素材で出来た「生分解可能な」使い捨て製品です。ライナーは使い捨てですが、濡れただけの使用済みライナーは家庭用コンポストでも堆肥化が可能で、固形汚物のついたものはそのままトイレに流すことができます(現在は北アメリカに限る)。さらに、家庭での使用だけでなく、保育園などでの使用の際には、大量の処理の必要性及び感染などのリスクも鑑み、高温で比較的短期間で堆肥化を進めるコンポストなどの使用と連携して導入を進める動きがあります。こうした高温殺菌処理の堆肥化のしくみと合わせると、大人用紙おむつの代替素材としても今後期待できるかもしれません。
法による規制も今後強まる見通し|代替品の台頭や社会制度での対応が進む可能性
紙おむつは単にリサイクルが難しく焼却ごみが増えて大変だという以上に、さらに大きな問題と認識されているケースもあります。気候変動の影響による海面上昇などで深刻な影響を受ける太平洋の島国の一つであるバヌアツでは、使い捨てプラスチックを多量に含む製品として、使い捨てのおむつの使用を禁止する方針を今年2月に発表しました。2019年12月の施行を目指しています。
代替品として、昔ながらの何度も洗って使える「布おむつ」が再び台頭する可能性もあります。洗濯する手間が大変、漏れが心配など、紙おむつに慣れた現代の生活者からは「現実的でない」といった声も聞こえてきそうですが、筆者も最近布おむつ子育てを実践した経験があり「おむつなし育児」と呼ばれるトイレトレーニングなどの手法と合わせたりしながら上手く取り入れることが出来れば、子どもとの早期のコミュニケーションツールとしても有効で楽しく導入できました。最近では布おむつのレンタルやクリーニングサービスもあるため、洗う手間は削減しながら布おむつに切り替えることも出来るようになってきています。徳島県上勝町でも、選択肢の一つとして、使い捨てではない布おむつを若い世代にも親しんで導入してもらおうと、1歳未満の子どもがいる世帯に無料で「布おむつスターターセット」を贈る制度を2017年度から開始しました。ものを贈るだけでなく、使い方にも親しんでもらおうと、布おむつサポーターを派遣し、使い方などを教えるしくみも整えています。この施策によって抜本的にごみが減るというわけではありませんが、少しずつ「燃やさなければならない」「埋め立てなければならない」ごみを、意識レベルからも減らしていこうという静かな一歩です。
難題に挑む企業にも注目
ここまで紹介したような代替素材や製品の開発、リユース可能な製品への切り替えといった動きがあると同時に、果敢にもこれら「難しいもの」たちのリサイクルにチャレンジする企業もあります。福岡県に拠点を構えるトータルケア・システム株式会社は、2000年頃から使い捨て紙おむつのリサイクルに取り組んできた、この分野の先駆者です。使用済み紙おむつを回収し、水溶化処理の技術によって再生パルプとプラスチックと汚泥の3種類に分離し、それぞれ、上質パルプは防火版等の建材用の紙パルプに、低質パルプや汚泥は土壌改良剤に、プラスチックは燃料に活用しています。すでに使用済み紙おむつ回収のために病院や福祉施設、そして自治体と連携し、2016年時点で工場の稼働率は約80%、1日あたり約20トンの紙おむつを処理しています。この動きには紙おむつを生産するメーカーも協力・参画しているとともに、国も2018年に閣議決定した第四次循環型社会形成促進基本計画にて、大人用紙おむつの利用が増えることをふまえて使用済み紙おむつのリサイクルを促進していく旨が明記され、今後さらにしくみとして広がっていくことが期待されます。(画像はトータルケア・システム株式会社の再生パルプ)
図:トータルケア・システム株式会社提供(クリックすると拡大します)
すでにごみとして出してしまったものを何とかする、こうしたイノベーターによる技術革新も素晴らしい一方、やはり同じ技術革新は、生産段階で使用後のことを考えて行われることが第一です。ますますごみ処理の現場と製品設計の現場を繋ぐこと、そして「燃やさなければならない」「埋め立てなければならない」という言葉がなくなるような考え方に基づいたイノベーションが求められています。
次回は、分別・リサイクル以外の手法でのゼロ・ウェイストの取り組みをまとめてご紹介します!
執筆者プロフィール
坂野 晶(さかの あきら)氏
特定非営利活動法人ゼロ・ウェイストアカデミー
理事長
大学で環境政策を専攻後、国際物流企業での営業職を経て現職。日本初の「ゼロ・ウェイスト」宣言を行った徳島県上勝町を拠点に、同町のゼロ・ウェイストタウン計画策定や実装、ゼロ・ウェイスト認証制度の設立、企業との連携事業など政策立案や事業開発を行うとともに、国内外で年間100件以上の研修や講演を行いゼロ・ウェイストの普及に貢献する。2019年1月には世界経済フォーラムの年次総会(ダボス会議)の共同議長に日本人で唯一選ばれた。
ゼロ・ウェイストアカデミー:http://zwa.jp/
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