コラム
企業が知っておくべき廃プラスチック問題の実情と世界的な動きとは? 原田先生の廃プラ問題最前線!企業におけるリスクとチャンス
本コラムでは、今話題の"廃プラスチック問題"について、大阪商業大学公共学科准教授の原田禎夫氏に分かりやすく解説いただきます!国内外の情勢や企業に与えるリスク、取り組み事例等をお伝えします。第1回である今回は、知られざる日本のプラスチックリサイクルの実情や、産業構造の転換に向けた世界的な動きをご紹介します。
環境制約・リスクをチャンスに変える戦略立案にお役立てください!
Photo by Louis Hansel on Unsplash
なぜ今、プラスチックごみが問題に?
スターバックスやマクドナルドが使い捨てのプラスチックストローの使用を取りやめる、といったニュースをきっかけに、世界中でプラスチックごみへの関心が急速に高まっています。
プラスチックごみが社会の大きな関心を集めるようになった背景には、これまで指摘されていたような石油資源の浪費や焼却処理によるCO2の排出といった問題に加えて、大量のプラスチックごみが海を漂い「プラスチック汚染」ともいえるほどに海の環境に深刻な影響をおよぼし、人体への影響すら懸念される事態となっていることが挙げられます。さらに、世界中のプラスチックごみの処理をほぼ一手に引き受けていた中国が、2017年12月、輸入停止に踏み切ったことで、日本をはじめとした多くの先進国で大量のプラスチックごみが行き場を失ったことが問題への関心を一気に高めました。
プラごみリサイクル率のマジック!日本のリサイクル率は実は高くない?
プラスチックごみのリサイクルでは世界の優等生であると信じられてきた日本ですが、ここには大きな数字のマジックがあったことも指摘されています。たとえば、日本における容器包装類のプラスチックごみの資源有効利用率、すなわちリサイクル率は84%とされ、世界トップクラスと言われてきました。しかしその内訳を見ると、焼却時に発生した熱を回収し、発電や熱供給などをおこなうサーマル・リサイクルが57%を占めています(図1)。このサーマル・リサイクルという言葉は日本でしか通用しない「和製英語」で、正しくは熱回収(Energy Recovery)といいますが、CO2の増加要因となることからパリ協定ではリサイクルとは位置付けられていません。国ごとに定義が異なることから、プラスチックをはじめ、ごみのリサイクルの現状を国際的に比較することは難しいのですが、たとえば、OECD(経済協力開発機構)加盟各国の都市ごみ(Municipal Waste)の処理手法を比べてみても、日本は突出して焼却処理が多いことがわかります(図2)。
図1 国内のプラスチック生産量と処理・処分量
出典:「2016年プラスチック製品の生産・廃棄・再資源化・処理処分の状況表」
(一般社団法人プラスチック循環利用協会)を元に執筆者作成
図2 OECD加盟国の都市ごみ処理手法の比較
出典:「Environment at a Glance 2015 OECD INDICATORS」を元に執筆者作成
さらに今年、カナダで開催されたG7サミットで提唱された「海洋プラスチック憲章」に日本とアメリカが署名しなかったことが世界的に大きなニュースとなりました。環境省は、2019年に日本で開催されるG20をにらみ「プラスチック資源循環戦略(案)」をまとめ、レジ袋の有料化や使い捨てプラスチックの排出量を25%削減するといった目標を示すと共に、現在パブリックコメントを募集しています。しかし、プラスチックごみの削減量の数値目標は掲げられているものの、いつを基準に?という肝心の基準年についてはまだ定まっていません。
また2018年10月末にインドネシアで開かれた海洋環境保全に関する国際会議「New Plastics Economy Global Commitment」では、世界290社・団体がプラスチックごみを減らす共同宣言を発表しましたが、ここにも日本企業の名前は1つもありませんでした。脱使い捨てプラスチックをめぐる動きは業種を問わず外資系企業の動きが素早く、残念ながら日本企業の取り組みは大きく遅れているのが現状です。
とはいえ、使い捨てプラスチックの国民1人あたり使用量がアメリカに次いで世界で2番目に多いとされる日本が、これから急速な対策を求められることは間違いありません。
なぜ日本は乗り遅れたのか?急速に対応が求められる日本企業
これほどまでに日本が脱プラスチックの世界的な流れに乗り遅れてしまった理由のひとつは、投資家や消費者がプラスチックごみ問題をあまり意識しなかったことが挙げられます。特に海洋プラスチックごみ問題については、(実態は必ずしもそうとは限らないにもかかわらず)中国や韓国から大量のごみが流れ着いているという「被害者意識」にもとづいた報道が過度になされたこともあり、日本の企業においても他の社会課題と比べて優先課題とはならなかった面もあるでしょう。しかし、環境問題などへの対応を重視する「ESG投資」のひろがりに加え、消費者の意識も大きく変わりつつある中、企業にとって海洋プラスチック汚染への対応をはじめとした環境対応は、もはやブランド戦略にとどまらない大きな課題になっています。
もちろん海洋プラスチックごみの問題は、1つの企業や1国だけの取り組みで解決できる問題ではありません。前述の通り2019年6月には大阪でG20が開催され、議長国の日本は世界をリードする取り組みが求められています。その中で、企業活動や消費者の選択も大きく変わっていくことは間違いありません。
ニュー・プラスチック・エコノミー―世界的な産業構造の転換とどう向き合う?
このような流れを受けて、近年は日本でも、レジ袋やストローの使用を取りやめる企業や、自主的なプラスチックごみ削減に向けた宣言を発表する自治体が出てきています。
プラスチックごみ削減に向けた取り組みを表明している企業例
企業名 | 時期 | 内容 |
味の素グループ | 2018年11月 | 従来から取り組んでいるプラスチック使用量の削減(紙素材への置き換え)等に加え、3Rの取組みの一貫として、2030年までにプラスチックごみの廃棄量をゼロにする目標を設定 |
すかいらーくグループ | 2018年8月 | プラスチック製ストローの使用取りやめを表明 |
全国清涼飲料連合会 | 2018年11月 | ペットボトルの回収をさらに強化するとともに、回収分は100%リサイクルを目指すことを表明 |
日本プラスチック工業連盟 | 2018年4月 | 「プラスチック海洋ごみ問題の解決に向けた宣言活動」を発表。宣言に署名した加盟企業・団体は自主的な取り組みを公表する。2018年12月現在、49社・団体が署名。 |
上記の他にも、自動車会社や航空会社など、今までは海のプラスチックごみ問題とは無縁と思われていた業界にも取り組みは広がっています。
一方、自治体の取り組みも進みつつあります。以前から日本においてはレジ袋の有料化などの取り組みはごみ減量政策の一環として、自治体が先行して取り組みを進めてきましたが、自治体版SDGsなどの取り組みも広がる中で下記のような取り組みが続々と発表されています。
プラスチックごみ削減に向けた取り組みを表明している自治体例
自治体名 | 宣言名 | 時期 | 内容 |
神奈川県 | 「かながわプラごみゼロ宣言」 | 2018年9月 | 市町村・企業・県民にプラスチック製ストローやレジ袋の利用廃止・回収等を呼びかけ、2030年までにプラスチックごみゼロを目指す |
鎌倉市 (神奈川県) |
「かまくらプラごみゼロ宣言」 | 2018年10月 | プラスチックごみゼロ宣言をしている県と連携し、レジ袋やプラスチック製ストローの利用廃止等を推進 |
亀岡市 (京都府) |
「かめおかプラスチックごみゼロ宣言」 | 2018年12月 | 国内初のプラスチック製レジ袋使用禁止の条例化(2020年度)や2030年度までのプラスチックごみの100%リサイクルの実現を目指す |
▼出典
- 神奈川県「『かながわプラごみゼロ宣言』―クジラからのメッセージ―」
- 鎌倉市「かまくらプラごみゼロ宣言」
- 亀岡市「かめおかプラスチックごみゼロ宣言」
今、世界は「ニュー・プラスチック・エコノミー」とも呼ばれる循環型の産業構造への大転換点にさしかかっているという指摘もあります。次回は、廃プラスチック問題に関して求められるCSRや投資市場の変化など、企業の社会面・企業面のリスクと対策についてお伝えしたいと思います。
執筆者プロフィール
原田 禎夫(はらだ さだお)氏
大阪商業大学 公共学科 准教授
NPO 法人プロジェクト保津川代表理事
1975年京都府生まれ。現在、大阪商業大学公共学部准教授。近年深刻な問題となっている海や川のプラスチック汚染について、内陸部からのごみの発生抑制の観点から取り組むNPO法人プロジェクト保津川代表理事。
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