コラム
紙とのお付き合い|ゼロ・ウェイストに取り組むステップ#2 企業・地域を変える!?「ゼロ・ウェイスト」の可能性
ごみはすべての人に関わりがある事柄といって過言ではありません。そして今までは、個人、自治体、企業にとって、できるだけコストと労力を割きたくない事象でもありました。しかし今、この「ごみ」が、世界の資源枯渇・生態系破壊などの環境問題への意識の高まりと共に、可能性ある資源として注目されています。また、コミュニティ内すべての構成員が関わる共通課題として、まちづくりへの参画を促すきっかけとしても注目されています。
本コラムでは、日本で初めて「ゼロ・ウェイスト宣言」を行い、徹底資源化を実施している徳島県上勝町での実績がある特定非営利活動法人ゼロ・ウェイストアカデミーの理事長 坂野 晶様に「ゼロ・ウェイスト」の可能性と、具体的な進め方について連載していただきます。前2回のコラムでは、生ごみの【発生抑制】と【資源活用】のアプローチについてご紹介しました。今回は、生ごみの次に取り組むべき対象としての「紙」についてお伝えします。(写真は上勝町の紙資源分別回収場所 ©Masataka Namazu)
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日本は実は「紙資源循環大国」?!
日本で年間使用される紙量は約2,600万トン。そのうち約8割が回収され、回収されたもののうち約8割が再生古紙として利用されています。全体の紙使用量に占める古紙利用率は6割以上。古紙利用率はアメリカで約4割弱、ヨーロッパで約5割であり、比べると日本の古紙利用水準が高いことがわかります。この数字を見ると「日本は紙資源循環大国?」と思われるかもしれません。しかし、それでいいじゃないか!で終われない紙資源事情があるのです。まずは、全国の紙資源のリサイクル事情をもう少し詳しく見ていきましょう。
全国の自治体において分別収集され、リサイクルされた一般廃棄物のうち、約27%を占めるのが紙資源(紙類、紙パック、紙製容器包装)です。これは重量比で金属類(約12%)や瓶(約11%)、ペットボトル(約4%)などを大幅に上回る割合であり、全国的に紙資源のリサイクルが非常に進んでいることを示しています。さらに、自治体が直接回収を行ったもの以外に、地域内の住民団体等による集団回収によって回収されリサイクルされた資源については、なんとその約93%が紙類なのです。つまり、紙資源の分別収集及びリサイクルは、日本において暮らしの中に根付いた、ごみ分別の主たる取り組みとなっていると言えます。
一方で、それでもなお紙類の分別回収及びリサイクルが完璧ではないという実態があります。京都市の事業系一般廃棄物の「燃やすごみ」の組成調査結果において、紙ごみが占める割合は3割。なんと生ごみの約4割強に次いで、2番目に割合が多いのです。一方で、きちんと分別し「紙資源」として回収されたもの自体は、事業系一般廃棄物の全体量の4割以上にもなります。つまり、総量としてそもそもごみに占める「紙」は非常に多く、5割近くにまでなるのです。
「燃える」でなく「燃やさざるをえない」ごみ
細かな分別回収で有名な徳島県上勝町の事例でも、一般廃棄物(事業系と家庭を合わせて)に占める分別回収された紙資源の割合は3割。さらに、2013年度の「焼却せざるをえない」ごみの組成調査の際には、3割強も紙資源が混入しているという結果となり、紙資源の分別を強化しようとポイントキャンペーンの設立に繋がりました(詳細はこちらのコラムを参照)。全国的に焼却ごみに混入している紙資源の割合を示すデータはありませんが、こうした事例を見ていくだけでも、その混入割合が比較的多いと想像できます。
紙資源が焼却ごみに混入しやすい背景には、日本ではそもそもごみを「燃えるごみ」「燃えないごみ」と表現してきたことが一因となっているのではないかと考えられます。紙は「燃える」ものですから、昔からの焚き付けと同じ感覚で焼却ごみに混ぜる人が多かったようです。しかし、燃やそうとすれば大半の物は燃えます。それでは資源循環は進みませんので「燃える」という表現自体に少し違和感があります。ぜひ考え方自体を「燃やさざるをえない」に変えていきたいものです。
身の回りにある様々な「紙」|リサイクル禁忌品になりやすい複合素材
さて、紙と一口に言っても様々な種類があります。日々身の回りにある紙の種類を見回しただけでも想像できるかと思いますが、ここではリサイクルのための分別の視点から、紙の種類を見直してみましょう。一般的に家庭から出る紙資源の分別は、新聞紙、段ボール、雑誌、紙パック、雑がみの5種類程度だと公益財団法人古紙再生促進センターでは提示しています。分別種類の多い上勝町では、紙資源は9種類に分別しています。①新聞紙・折り込みチラシ、②段ボール、③雑誌・雑がみ、④紙パック、⑤アルミ付き紙パック、⑥紙カップ、⑦硬い紙芯(ラップなどの芯。やわらかい、トイレットペーパーなどの芯は雑がみへ)、⑧シュレッダーされた紙、⑨その他の紙(感熱紙や写真、汚れた紙など)。それぞれリサイクルされますが、必要な工程やリサイクルして活用できる用途が異なります。(写真は上勝町の紙資源分別回収場所 クリックすると拡大します。 ©Masataka Namazu)
例えば、あまり一般的ではない「アルミ付き紙パック」という分類。お酒や豆乳、少量のジュースなどの紙パックによくありますが、内側に銀色のアルミのコーティングがあるタイプです。正式名称はLL(Long Life)紙パック。多くの自治体で、内側も白い紙パックのリサイクルは行っていても、このアルミ付き紙パックはリサイクルできず焼却ごみに分類されています。紙パックと呼ばれますが、こうしたアルミが内側に付いているものでなくとも、浸水防止のためにプラスチック素材(ポリエチレン)のコーティングがされており、全ての素材が紙というわけではありません。(図参照)海岸で拾われたごみに混ざっていた「紙パックだったもの」を見ると、それが良くわかります。紙パックというよりも、プラスチックパックになってしまっています。(写真参照 出典 大阪商業大学 原田禎夫准教授)
こうした「複合素材」で出来た製品は、リサイクルにひと手間かかります。素材ごとに分けることが出来てはじめて、リサイクルが可能になるためです。実際に紙パックのリサイクル工程では、パルパーと呼ばれる巨大な洗濯機のような機械に粉砕した紙パックを投入し、紙部分(パルプ)とポリエチレンなどを分離し、その後パルプ以外の異物を除いていくといった流れが一般的です。
図 出典:アルミ付飲料用紙容器リサイクルプロジェクト(NPO法人 集めて使うリサイクル協会)
資源循環の実現には、リサイクル技術の進歩も不可欠
上勝町での「アルミ付き紙パック」の分別回収は2012年から始まりました。実はそれまではずっと「焼却せざるをえない」ものだったのです。そもそもアルミ付きの紙パック自体、生産量が通常の紙パックと比べてあまり多くありません。2011年度のアルミ付紙パック生産量(国内)で72,100トン。そのうち回収されたのが13,900トン。実際に再生紙として資源化された量がわずか9,800トンです。リサイクル率はたったの13%。ちなみに通常の紙パックは、生産量195,600トン、回収量99,900トン、再生紙等への資源化量96,400トン。こちらはリサイクル率49%(2016年度)。そもそも量が少ない上に、リサイクルに手間がかかるものは、なかなかリサイクルされません。さらに上勝町からの回収となると、人口も少ないですから、少量すぎて相手にされない!という状況だったのです。
そこを救った救世主が、(株)日誠産業。全国に先駆けて1985年にラミネート古紙専用の再生パルププラントを設立し、アルミ付も含めて、紙パックのリサイクルに取り組んできた徳島県の企業です。現在、全国の紙パック(アルミ付含む)リサイクル量のシェア約2割!その他、上勝町でリサイクル困難とされてきた、シール台紙(上勝町の地域活性化の産業として有名な「葉っぱビジネス」で使うパックに貼るラベルシールの台紙が中心)のリサイクルも日誠産業によって可能になりました。こうしたアルミ付紙パックやシール台紙などは、長年製紙業界でリサイクル禁忌品とされてきたものでした。しかし、アルミ部分を取り除く技術を培うこと、あるいは、再資源化した後の製品用途として製紙だけでなく建材メーカーがセメントとのつなぎで利用するパルプ素材などに開拓することで、リサイクルできる資源範囲を広げてきたのです。こうした原材料の幅を広げたり古紙の新規用途の開拓を行うことは、古紙業界をサステナブルにしていくためにも重要なアプローチと言えます。先述した紙資源の未回収・未資源化の割合を見ても、まだ取り組まれていなかったり、一般的ではなかったりする紙の回収・資源化分野はもしかするとまだ取り組み開拓の余地があるかもしれません。
社会に出ている紙は「都市森林」| 今後より期待される紙資源の循環活用
全く別の切り口ですが「ペーパーレス」という取り組みがオフィスにおける業務改善のスローガンの一つに掲げられて久しくなりました。元来はコストカットや環境負荷の削減から、紙の使用量を減らそうと取り組まれてきましたが、最近では資料共有の効率化とそれに伴ってリモートワークなどを可能にする「働き方の多様化」推進に欠かせない取り組みとしてもさらに推進されていきそうです。
貴重な森林資源を使って紙を作り続けるという、資源消費が減るのは望ましいことです。ここまでで伝えたかったのは、紙は非常にリサイクル優良資材であるということ。すでに多くの紙資源ストックが社会に出回っているので、新たに森林資源から紙を作り続けなくとも、古紙活用によって紙資源が循環し続けるモデルが生まれつつあり、それが理想だということです。すでに社会(都市)に出回って使用され、破棄された家電製品などの中からリサイクルできる有用な資源(特にレアメタルなど)を活用することを鉱山に見立て「都市鉱山」と呼びますが、同じようにすでに社会の中にある紙資源を活用する「都市森林」という概念も広がるべきでしょう。
ペーパーレスが進むことで、紙の需要が減って製紙業界に打撃があるという声も聞こえてきそうですが、一方で、オフィスで使われる紙以外の分野で、今後紙資源の活路はさらに広がる見込みがあります。海洋プラスチックごみ汚染やマイクロプラスチック、ナノプラスチックなどの自然界流出による人体への影響などから、使い捨てプラスチックが問題視される中、代替素材として紙が今、再度見直されているからです。生分解性やバイオプラスチックなどの新素材の開発も進んでいますが、使用後のリサイクル、あるいは堆肥化をはじめとする自然分解などの処理方法への課題は残っています。そのため、すでに確立されたリサイクルシステムが存在する紙資源にこそ、大きな価値拡大の可能性があります。
執筆者プロフィール
坂野 晶(さかの あきら)氏
特定非営利活動法人ゼロ・ウェイストアカデミー
理事長
大学で環境政策を専攻後、国際物流企業での営業職を経て現職。日本初の「ゼロ・ウェイスト」宣言を行った徳島県上勝町を拠点に、同町のゼロ・ウェイストタウン計画策定や実装、ゼロ・ウェイスト認証制度の設立、企業との連携事業など政策立案や事業開発を行うとともに、国内外で年間100件以上の研修や講演を行いゼロ・ウェイストの普及に貢献する。
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