コラム
逆有償の取引には、廃棄物処理法が適用されますか?排出時の注意点を教えてください。 佐藤泉先生の「廃棄物処理法・環境法はこう読む!」
今回は「逆有償」のリスクを回避するため、法律上の考え方と排出事業者が気を付けるポイントについて解説します。
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そもそも「逆有償」とは?
企業X(排出事業者)の排出物を企業Y(排出物購入企業)が有価で購入した場合、その排出物は有価物と判断でき、廃棄物処理法は適用されません。しかし、もし企業Xが企業Yから受け取った代金よりも、企業Xが企業Zに支払った運搬費の方が高い場合、この取引に関して、企業Xはコストを負担しているということになります。
このような状態は、一般的に「逆有償」「手元マイナス」と呼ばれており、廃棄物として扱うべきか、つまり廃棄物処理法が適用されるかどうかが、しばしば話題となります。
廃棄物処理法の規定について
廃棄物処理法には「有償売却」という単語も「逆有償取引」という単語もありません。それにも関わらず、行政や事業者が「有償」か「逆有償」かに拘るのは、その取引が廃棄物処理法の脱法行為になる可能性、さらに不適正処理・不法投棄につながるリスクがあるからです。
廃棄物処理法の規制対象は「廃棄物」であり、廃棄物処理法第2条第1項において「不要物」と定義されています。しかし、必要物か不要物か、どうやって判断すればよいのでしょうか。「私にとっては不要だが、必要な人がいる。必要な人にあげるのだから、廃棄物ではない。」という主張をする人が出てきます。
しかし、有効利用する予定で譲り受けた人が、確実にリユース・リサイクルしてくれる保証はありません。また安易に譲渡することによって、排出事業者の責任を放棄してよいのでしょうか。そこで、廃棄物と紛らわしいような物の取引を規制する観点から「逆有償取引」の場合、つまり譲渡する側が代金を払っている場合には廃棄物処理法を適用するという行政指導が行われているのです。
環境省の通知について
廃棄物処理法が制定された段階で発出された施行通知(昭和46年10月16日 環整第43号)では「廃棄物とは排出実態等からみて客観的に不要物として把握することができるもの」と記載され、この時点では、有償売却という要素は考慮されていませんでした。
しかし、廃棄物の偽装譲渡が問題になったため、昭和52年、通知が改正されました(昭和52年3月26日環計第37号による昭和46年10月25日環整第45号一部改正)。この改正により、廃棄物とは他人に有償売却できない物、という概念が示されました。また。この通知では、廃棄物該当性は、占有者の意思、その性状等を総合的に勘案すべきものであるとし、総合判断説を取り入れています。
その後、平成17年の規制改革通知(平成17年3月25日 環廃産発第0503250002号)により、再生利用の場合には、輸送費を勘案して引き渡し側に経済的損失が発生している場合(いわゆる「手元マイナス」)には、輸送について廃棄物処理法が適用されるという新たな考え方が取り入れられました。
しかし、売買価格と輸送費を単純に比較して廃棄物該当性を判断するのは、本来の総合判断説に反するのではないかとの批判がありました。そこで、同通知のQ&Aでは、販売価格より運送費が上回ることのみをもってただちに「経済的合理性がない」と判断するものではなく、その他の要素も総合的に判断する必要がある旨が記載されています。
実際の判断事例は?
廃棄物かどうかは、有償か逆有償かだけで決まるものではありません。しかし、行政指導ではこの要素を重要視しています。これらを踏まえた上で、以下に一般的な行政指導の例を示します。前述の通り、実際の判断は様々な要素を持って総合的に判断されますので、あくまで単純化された例としてお考えください。
1. XがYに代金を支払って、使用済み品を譲渡した場合
⇒Yが廃棄物処理業の許可を持っていない場合、廃棄物処理法違反に該当
XがYに使用済み品を譲渡するにあたり、XがYに代金を支払っている場合、対象品は廃棄物となり、XはYに処理委託をしたことになります。Yが廃棄物処理業の許可を持っていない場合、Xは無許可業者に処分を委託したことになり、Yは無許可営業に該当します。廃棄物処理法では一番重い違反です。
2. XがYに無償で、使用済み品を譲渡した場合
⇒Yが廃棄物処理業の許可を持っていない場合、廃棄物処理法違反に該当
XがYに使用済み品を無償(0円)で譲渡する場合、行政は一般的には、0円は有償売却ではない、つまり逆有償だと指導することが多いようです。したがって、結論は1.と同じになります。
3. XがYから譲渡代金を受領して、使用済み品を譲渡した場合
⇒廃棄物に該当せず、Yの廃棄物処理業の許可は不要
XがYに使用済み品を譲渡する場合、XがYから譲渡代金を受領していれば、XY間では対象物は廃棄物とならず、Yに廃棄物処理業の許可は不要です。
4. 上記3と同様の条件で、XがZに運搬費を支払っており、運搬費が譲渡代金を超過している場合
⇒運搬中のみ廃棄物となる。よって、Zが廃棄物処理業の許可を持っていない場合、廃棄物処理法違反に該当
上記3と同様にXがYから代金を受領していたとします。ここでもし、運搬について、XがZに運搬費を支払っており、運搬費が譲渡代金を超過している場合、運搬中のみ廃棄物という扱いになる可能性があります。したがって、Zが廃棄物処理業の許可を持っていない場合、Xは無許可業者に収集運搬を委託したことになり、Zは無許可営業に該当する可能性があります。
排出事業者が注意すべきポイント
排出事業者は、自身に不要なものを、0円または極端に安い値段で安易に譲渡しないことが大切です。また、排出事業者が、売買の際に譲渡先へ販促費や輸送費名目で支払いを行うことも、結果として逆有償と判断される可能性が高いです。
逆有償という概念は、無許可業者による運搬、処理を防止するための概念です。排出事業者は、適切な許可を有する廃棄物処理業者に委託し、適正な処理料金を負担する責任があります。これを怠ると、不適正処理・不法投棄に巻き込まれ、行政処分や刑事罰の対象となる可能性があります。
まとめ
- 取引が廃棄物処理法に該当するかどうかの判断は「経済的合理性」だけでなく、その他の要素も含めて、総合的に判断される。ただし、一般的な行政指導では「経済的合理性」が重視されており、譲渡する側が代金を支払っている場合、廃棄物処理法が適用される。
- 排出事業者は、自身に不要なものを、0円または極端に安い値段で安易に譲渡しないこと。また、排出事業者が、売買の際に譲渡先へ販促費や輸送費名目で支払いを行うことも、結果として逆有償と判断される可能性が高い。
- 逆有償とは、無許可業者による運搬、処理を防止するための概念であり、法律上明確な定義はない。排出事業者は、適切な許可を有する廃棄物処理業者に委託し、適正な処理料金を負担する責任がある。
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執筆者プロフィール
佐藤 泉(さとう いずみ)氏
佐藤泉法律事務所 弁護士
環境関連法を主な専門とする。特に、企業の廃棄物処理法、土壌汚染対策法、大気汚染防止法、水質汚濁防止法等に関連したコンプライアンス体制の構築、紛争の予防及び解決、契約書作成の支援等を実施。著書は「廃棄物処理法重点整理」(TAC出版)など
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