エクアドルの民衆議会|コタカチの直接民主主義の試み | 企業のサステナビリティ経営・自治体の町づくりに役立つ情報が満載

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コラム

エクアドルの民衆議会|コタカチの直接民主主義の試みサステイナブル コミュニティ デザイン ~2030年に向けた行政・企業・住民の連携~

0608Equadol,Brazil 215.jpg人類は気候変動・資源枯渇・人口増加という未体験の環境下に向かっています。また、日本は、少子高齢化・労働人口減少・税収減少などで、今のしくみでは社会インフラの提供が難しい状況を迎えつつあります。そのような中で、持続可能な社会・コミュニティ デザインを行政・企業・住民の連携でどのように作っていくのかは、非常に重要なテーマです。

そこで本コラムでは、NPO法人バイオマス産業社会ネットワーク(BIN)理事長の泊みゆき氏に、サステイナブル コミュニティ デザインについて、参考事例などを交えて連載していただきます。第6回は、住民中心の街づくりの事例としてエクアドルの民衆議会の取り組みをご紹介します。
(写真:ACRI(コーヒー生産者組合)事務所に有機コーヒー豆を売りにきた農民。このコーヒー豆は、日本にもフェアトレードのコーヒーとして輸出されている。)

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『民衆議会』が誕生するまで

0608Equadol,Brazil 212.jpg南米エクアドル北東部のコタカチの人々は、銅山開発に代表される従来型の開発ではなく、有機コーヒー栽培や植物繊維製手工芸品の販売といった持続可能な発展に取り組んでいます。そして、直接民主主義「民衆議会」でも注目されています。コタカチ郡は、人口約3万人、南米エクアドルの首都キトから車で数時間の距離にあります。この「民衆議会」は、1996年に、同地域初の先住民知事となったアウキ・テトゥアニャ氏の発案で始まりました。(写真:コタカチの山肌の耕作地。60°ぐらいの傾斜地でもジャガイモやサイザル麻が栽培されている。)

0608Equadol,Brazil 320.jpg1965年生まれのアウキ氏は「今もいくらかありますが、私が子どものころ、先住民への人権侵害はひどかった。バスでも前の席はメスティーソ(スペイン人との混血)、先住民は後ろの席で、混んできたら降りろ、と言われる。先住民の名前を子どもにつけることも禁じられていた。先住民は、農業かお手伝いさんぐらいの仕事しかなく、教育や医療サービスを受ける機会もない。そうした社会を変えなければという意識が芽生え、高校では、先住民学生で、自分たちの文化を守るグループをつくり、音楽イベントやワークショップをやっていました。そのグループで教育資金を得る活動も行い、キューバ政府に先住民学生のための奨学金制度をつくってほしいと働きかけたところ、成功し、私ともう一人がキューバに留学し、経済政策を学びました」と語っています。(写真:1996~2008年まで知事をつとめたアウキ氏)

アウキ氏は、卒業後エクアドルに帰国し、政治大学での教員や、先住民組織の専門職などに就きました。先住民団体で大統領候補を出し、その政策アドバイザーも勤めました。議員をやらないかという話もありましたが、やるなら自分で、かつ大きな変化を望むなら自治体のトップである知事にならなければということで、出馬し、僅差で当選しました。

「選挙に勝つのはある意味簡単だが、変化を起こすのは一人ではできない。選挙後、変化には皆の協力が必要なのだと言ってコタカチ各地を回りました。地域の可能性や問題を皆で話し合う場が必要だということから、『民衆議会』のアイデアが膨らんでいったのです」

自ら提案したプロジェクトに予算がつくしくみ

この「民衆議会」とは、世界的に注目されているコタカチ発の参加型直接民主主義システムです。年に1回、総会と呼ばれる民衆議会が2日にわたって開かれます。郡の住民なら、子どもも含めて誰でも参加できます。遠方の住民のためのバスも出ます。

民衆議会では、まず知事から、昨年の決算、今年の予算案が説明されます。その後「青少年」「環境」「女性」「商工業」などの分科会に分かれ、住民はおのおのが特に関心をもつ分科会で討論します。その後、全体集会があり、それぞれの分科会で出された案が承認されます。この民衆議会は、条例によってコタカチ郡の最高決定機関と定められ、参加型予算という固定費以外の郡の予算の使い道を自分達で決められる、地域の行政に住民が参加するシステムです。ただ、意見を述べるだけでなく、自分たちで提案したプロジェクトに予算がつくしくみになっており、やりがいと責任が生じます。住民自らが計画・実行すれば、より少ない予算で、ニーズに応じた成果を上げやすくなると言えるでしょう。

住民たちは、鉱山開発でなく、持続可能な道を選んだ

アウキ氏が知事になってまもなく、コタカチ郡に鉱山開発が持ち上がりました。住民たちは他の鉱山開発地を訪ね、議論し「これは自分たちが望むものではない」との意見が多数派を占めるようになりました。

0608Equadol,Brazil 225.jpgこの銅山開発問題は「地域の天然資源の保護と持続可能な運営は、現在のそして将来の世代の健康ならびに生態系や社会的安寧を確かなものとするために大変重要である」とうたう「生態系保全自治体宣言」につながりました。さらに、持続可能な収入源として、有機コーヒー栽培と販売ルートの開発、女性たちの自立にも役立つサイザル麻製の手工芸品の製作・販売、エコツーリズムなどを行っています。これらも民衆議会で議論され、決定され、住民自身によって進められているプロジェクトです。(写真:女性たちがサイザル麻で編んだ手工芸品)

「バランスのとれた発展が必要です。電気や道路といったインフラも要りますが、精神的な幸福や地域の生物多様性を守るといったことも不可欠なのです」とアウキ氏は話されました。アウキ氏が三選した後、知事が変わり、民衆議会の動きもやや停滞した時期もありましたが、今もコタカチ郡ではこうした議論を通じて、住民自身による発展に取り組んでいます。

参考・引用資料

バイオマス産業社会ネットワーク第66回研究会

執筆者プロフィール(執筆時点)

tomari-sama.jpg泊 みゆき(とまり みゆき)氏
NPO法人 バイオマス産業社会ネットワーク(BIN)理事長

京都府京丹後市出身。大手シンクタンクで10年以上、環境問題、社会問題についてのリサーチに携わる。2001年退職。1999年、BINを設立、共同代表に就任。2004年、NPO法人取得にともない、理事長に就任。

NPO法人 バイオマス産業社会ネットワーク:http://www.npobin.net/ 

■主な著書・共著
アマゾンの畑で採れるメルセデス・ベンツ [環境ビジネス+社会開発]最前線』(築地書館)
バイオマス産業社会 「生物資源(バイオマス)」利用の基礎知識』(築地書館)
バイオマス本当の話 持続可能な社会に向けて』(築地書館)
『地域の力で自然エネルギー!』(岩波ブックレット、共著)
『草と木のバイオマス』(朝日新聞社、共著)

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