コラム
大木町 「おおき循環センターくるるん」|住民協働の街づくり事例サステイナブル コミュニティ デザイン ~2030年に向けた行政・企業・住民の連携~
人類は気候変動・資源枯渇・人口増加という未体験の環境下に向かっています。また、日本は、少子高齢化・労働人口減少・税収減少などで、今のしくみでは社会インフラの提供が難しい状況を迎えつつあります。そのような中で、持続可能な社会・コミュニティ デザインを行政・企業・住民の連携でどのように作っていくのかは、非常に重要なテーマです。
そこで本コラムでは、NPO法人バイオマス産業社会ネットワーク(BIN)理事長の泊みゆき氏に、サステイナブル コミュニティ デザインについて、参考事例などを交えて連載していただきます。第四回は、福岡県の大木町についてです。(写真:「おおき循環センターくるるん」)
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合併を選ばずに、限られた財源で住民協働の街づくりを推進
福岡県大木町の生ごみメタン発酵の取り組みは、バイオガス事業として全国でも数少ない成功例として知られています。大木町は、佐賀県との県境近くに位置する、人口約1万4,000人の町です。大木町は合併を選ばず、住民協働の町づくりを推進してきました。その点について、大木町環境課長(現副町長)を務めた境公雄さんは、国の政策に全面的に従うのではなく、自治体自らの権限と責任において、是々非々で考えることの重要性を強調しています。限られた財源をどう使うのか。過大なものはつくらない。例えば、下水道はつくらず、合併処理浄化槽を整備するといった方法を選びました。
2006年に、生ごみ、し尿、浄化槽汚泥、食品廃棄物を資源化する施設「おおき循環センターくるるん」(以下「くるるん」)が稼働を始め、国内外から毎年3,000~4,000人の見学者が訪れています。また、2010年に隣接する(直売所・レストラン)がオープンし、多くの来場者で賑わっています。
生ごみ循環事業の効果としては、以下の3点を中心に、地域の活性化に貢献しています。
- 燃やすごみが半減(重量ベース)することによる環境負荷の低減やごみ処理費の削減効果など
- 地域ぐるみの協働事業による住民の街づくりに対する参画意識の向上
- 生ごみからできた液体肥料散布による地域農業への貢献
重要なのは、自治体自らの権限と責任において、是々非々で考えること
「くるるん」の成功の秘訣の一つは、住民の熱心な参加です。住民は、家庭で生ごみを分別し、収集バケツに週2回出します。新しい習慣が定着するまでには時間がかかりますが、異物が入っていたら張り紙をして注意を喚起するなどして、普及を図りました。稼働から6年後に行ったアンケート調査では、生ごみをほとんど分別する人が86%、ある程度は分別する人が12%、分別しないと答えた人は2%(回収率65%)と、広く定着していることがうかがえます。
町では、この事業のため、準備段階から住民と十分なコミュニケーションを行いました。まちづくりに関心のある女性たちとも何度も話し合いをもち「始める前はちょっと不安でしたが、始めたらずっとこちらの方がいい」という声が多勢を占めるようになりました。分別の手間はあるけれど、環境にもいいし経済的だということ、全国からも注目される事業ということで住民の誇りが芽生え、参加意識が高まっていきました。「くるるん」には環境学習施設も併設されており、子どもたちや海外からも施設に多くの人が訪れ、この事業を地域活性化や環境面で高く評価していることも影響しているでしょう。
境さんは「何か新しいことを始めるとき、2割が賛成、2割が反対、あとの6割は様子見、ということが多い。行政がどちらを推進するかによって勢力関係が決まり、事業が動き出すことが多い」と言います。
発酵後の消化液を液体肥料として農業利用し、地産地消の道の駅を併設
メタン発酵施設では、発酵後の消化液を水処理すると、それが多くのコストを占め、莫大なエネルギーも消費します。大木町では、消化液を全量、液肥として使うことを前提に、周到な準備を重ねました。大学の研究者の協力を得て、稼働の2年前から肥料としての効果を試験し、液肥の肥料登録を行い、散布車を用意し、農家には10aあたり1,000円で散布をしています。肥料代は無料なので、肥料代が数10万円も浮く農家も出ています。(写真:大木町提供「道の駅 おおき デリ&ビュッフェ くるるん」の様子)
そして液肥によって栽培したお米や野菜を町内で消費し、道の駅のレストランで出していますが、これが美味しいと大変人気で、わざわざこのレストランで食事するために立ち寄る旅行者も多いとのことです。国道バイパス沿いにある「くるるん」は観光スポットになり、町の活性化にも一役買っています。
合併はせず、過大な施設はつくらず、住民と十分なコミュニケーションをはかりつつ、事業を形にしていくところは、前回のレッテンバッハ村に通じるところがあるように思います。また、宮城県南三陸町で展開されている「南三陸BIO(ビオ)」の先輩のような存在でもあります。バイオガスやバイオマスの利用にはいろいろな方法がありますが、このように経済的にも環境・社会的にもよい形で実現していけるのが一番いい形でしょう。
参考・引用資料
引用資料:バイオマス産業社会ネットワーク第142回研究会資料「地域活性化成功事例としての大木町のバイオガス利用」
執筆者プロフィール(執筆時点)
泊 みゆき(とまり みゆき)氏
NPO法人 バイオマス産業社会ネットワーク(BIN)理事長
京都府京丹後市出身。大手シンクタンクで10年以上、環境問題、社会問題についてのリサーチに携わる。2001年退職。1999年、BINを設立、共同代表に就任。2004年、NPO法人取得にともない、理事長に就任。
NPO法人 バイオマス産業社会ネットワーク:http://www.npobin.net/
■主な著書・共著
『アマゾンの畑で採れるメルセデス・ベンツ [環境ビジネス+社会開発]最前線』(築地書館)
『バイオマス産業社会 「生物資源(バイオマス)」利用の基礎知識』(築地書館)
『バイオマス本当の話 持続可能な社会に向けて』(築地書館)
『地域の力で自然エネルギー!』(岩波ブックレット、共著)
『草と木のバイオマス』(朝日新聞社、共著)
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