コラム
ゼロ・ウェイストとは?|世界の廃棄物政策の常識 企業・地域を変える!?「ゼロ・ウェイスト」の可能性
ごみはすべての人に関わりがある事柄といって過言ではありません。そして今までは、個人、自治体、企業にとって、できるだけコストと労力を割きたくない事象でもありました。しかし今、この「ごみ」が、世界の資源枯渇・生態系破壊などの環境問題への意識の高まりと共に、可能性ある資源として注目されています。また、コミュニティ内すべての構成員が関わる共通課題として、まちづくりへの参画を促すきっかけとしても注目されています。
本コラムでは、日本で初めて「ゼロ・ウェイスト宣言」を行い、徹底資源化を実施している徳島県上勝町での実績がある特定非営利活動法人ゼロ・ウェイストアカデミーの理事長 坂野 晶様に「ゼロ・ウェイスト」の可能性と、具体的な進め方について連載していただきます。(写真:坂野様)
「ゼロ・ウェイスト」とは?
日本ではまだあまり馴染みのない言葉ですが、今、世界各地では当たり前に廃棄物政策の主要政策・スローガンとして使われています。英語表記は"ZERO WASTE"、直訳すると「ごみ」や「無駄」(=WASTE)をゼロにするという意味。「ごみゼロ」というまさに廃棄物削減の究極を掲げたような言葉ですが、なぜ、これが今注目されているのでしょうか。
地球上にはいまや、ごみの無い場所はありません。どんな地域でも、生活する上で何かしらのごみを生み出します。それらのごみをどう処理するかは多くの地域で課題とされてきていましたが、その状況がまさに近年、切迫しているのです。
地球上で生み出されるごみは2012年で年間約13億トン。2025年までには22億トンに増加すると予測されています。さらに近年ではその多くにプラスチック類が含まれ、その大半は適切に回収すらされず、リサイクルに至ってはほぼ行われていないのが現状です。回収されなかったプラスチック類は海に流れ出し、そのままの形状を留めているものから、日光や風によって細かく分解されたマイクロプラスチック、そして目では認識できない大きさまで分解されたナノプラスチックとなり、海洋を汚染しています。2050年までには、海の中には魚よりもプラスチックごみの方が多くなっているとの予測統計もあるほどです。
海洋汚染が深刻だということは、私たちの食卓に上がる魚も汚染されているということです。世界ではそんな危機的状況に対して、様々な対策を始めています。
世界で進むプラスチックの利用制限や禁止
フランスは国を挙げて2015年に使い捨てのプラスチック袋の使用禁止を宣言し、翌年に2020年にはプラスチック製の使い捨てカップや皿、カトラリーを使用禁止にすると宣言しました。ケニアでは2017年の8月から、プラスチック袋の使用に刑罰を設けた法律を施行。生産・販売に留まらず、使用するだけでも最長4年の禁固刑あるいは最大4万ドルの罰金が科せられるという厳しいものです。さらに今年に入り、台湾がストロー、袋、台所用品、カップなど幅広い使い捨てのプラスチック製品の禁止を2030年までに完全に実行すると発表。またこの7月にはオーストラリアも全国的にプラスチック袋の使用禁止を実行しました。
これらの規制にさらに拍車をかけたのが、今年1月に中国が実行した、廃プラスチックの輸入制限です。これまで世界中の廃プラスチックの約6割が中国に輸出され、中国国内で資源として活用されてきましたが、手作業での分別や洗浄時に発生する薬品類を含んだ汚泥等による環境汚染・健康被害が深刻な状況となっていたことが、今回の輸入制限の原因でした。この結果、世界中で廃プラスチックは行き場を無くし、各国は対策に追われていますが、解決の目途は立っていません。
日本も他人事ではありません。日本の廃プラスチックの約15%は中国へ向けた輸出であり、さらにペットボトルに限定すると半数以上の処理を中国への輸出に頼ってきた現実があります。他国のようにすぐに問題が表面化はしていませんが、これから問題となることは避けては通れません。
世界の潮流に乗り遅れた日本 今後注目が高まる「ゼロ・ウェイスト」
そうした中、今年6月にカナダで開催されたG7サミットでは海洋におけるプラスチックごみの問題に世界各国の具体的な対策を促す「健康な海洋、海、レジリエントな沿岸地域社会のためのシャルルボワ・ブループリント」が採択されました。また、同時に各国が自国内におけるプラスチック規制強化を進める「海洋プラスチック憲章」についても署名が行われましたが、日本とアメリカは署名しないという結果に終わっています。
こうした使い捨てプラスチック類の規制を含め、実際に排出するごみの量の削減に目標年を定めて、抜本的に取り組んでいこうとする政策が「ゼロ・ウェイスト」です。1996年にオーストラリアの首都キャンベラが世界初のゼロ・ウェイスト宣言をして以来、世界各地で都市の大小に関わらず広がっており、日本では2003年に徳島県の上勝町が宣言しました。
自治体だけではありません。企業も「ゼロ・ウェイスト」を掲げ、自社工場から排出される廃棄物は全て工場内でリサイクルするなど、ゼロ・ウェイスト経営が広がっています。消費財メーカー大手のユニリーバは2015年に自社製品の製造拠点240カ所以上において、危険廃棄物以外の廃棄物を全て、埋め立て処分せずに循環させることを達成したと発表しました。排出される廃棄物品目を確認し、それらの新たな行先や活用方法の代替案の検証を重ねた結果、例えば工場内の廃棄物の一部は建設資材としてリサイクルすることや、従業員の食堂から出る生ごみは堆肥化するなどの施策を講じることができたのです。その後も同社では継続して70カ国以上、600以上の拠点(製造拠点のみならず事務所や倉庫を含む)において同様のモデルを広げています。
どんな地域・どんな企業でも、ごみと無関係ではいられません。誰もが取り組まざるを得ない問題だからこそ、その取り組み方を工夫すれば、新たな産業や雇用の創出、地域活性化などのチャンスに繋げることができます。次回以降のコラムでは、そんな「ごみ」を切り口に地域や企業が経験してきた成功体験事例を取り上げながら、具体的に「どうやってゼロ・ウェイストに取り組むの?」に切り込みます!
執筆者プロフィール
坂野 晶(さかの あきら)氏
特定非営利活動法人ゼロ・ウェイストアカデミー
理事長
大学で環境政策を専攻後、国際物流企業での営業職を経て現職。日本初の「ゼロ・ウェイスト」宣言を行った徳島県上勝町を拠点に、同町のゼロ・ウェイストタウン計画策定や実装、ゼロ・ウェイスト認証制度の設立、企業との連携事業など政策立案や事業開発を行うとともに、国内外で年間100件以上の研修や講演を行いゼロ・ウェイストの普及に貢献する。
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