コラム
第五次環境基本計画|今、国を挙げて行う政策|後編 第五次環境基本計画に込められた想い
環境省は2018年4月17日に第五次環境基本計画を閣議決定しました。本コラムでは、その閣議決定前の2月21日に開催されました「未来経営シンポジウム2018」にご登壇いただいた環境省 総合環境政策統括官 中井 徳太郎 氏のご講演から、本政策やそこに付随する「地域循環共生圏」に込められた意図などを前編・後編でご紹介させていただきます。
本コラム一覧はこちら
日本固有の思想や価値観から学ぶ
そういう概念を打ち出すにあたって、日本がどのような国であるのか、考えてみましょう。温暖化の交渉で日本が立ち遅れているといったことも言われておりますが、公害を克服し、環境の技術も持っている国です。そして何より森・里・川・海に抱かれたこの土地で、私たちは、もったいないという循環の思想や、自然と共生する価値観といった優れた精神性を育んできました。そういったものを今、しっかりと浮かび上がらせて、課題に困った世界の人々が、日本に行脚せざるを得ないような、日本だからこそできるものをつくっていこうじゃないかと。
だんだんインバウンドが増えていますが、日本が世界を牛耳る首都といったイメージではありませんね。お伊勢さまの式年遷宮のように、命というものは循環していく。人間の体では取り込んだ空気が血流にのって全身を巡り循環しています。身体には様々な器官があり、心臓や内臓、それぞれがそれぞれの機能を果たして、つながっているのです。腸の中には微生物が住んでいて、この微生物とうまく共生できれば健康が維持できます。
その循環共生という概念が、持続可能性の重要な要素となります。これは、言ってみれば、生命生態系、自然の摂理に則った仕組みのことを指しています。これに今我々は、AIやIoTといった先端技術を活用して、この生命生態系、自然の摂理に則したものに、社会・経済全てを変えていこうとしているのです。今が文明転換期という意味も含めて、環境・生命文明社会という概念を閣議決定するというところであります。
それを具体的にやっていくのに、先ほど述べたSDGsで統合的に考えていくといった、ライフスタイル、価値観といったあらゆる観点でイノベーションが必要となります。価値観が変われば、消費者や、生産者の行動も変わる。そして、社会・経済システムとしての法律整備が遅れていれば、直していかなくてはなりません。何はともあれ、AI、IoTといった第4次革命、さらに第5次革命としてバイオもあるのではないでしょうか。そうした技術革新は、どれが先だと言っている場合ではなく、もう同時並行に起こっているのです。それらを駆使して、課題を同時に解決していく。今回、新たな成長という概念も定義付けます。金銭面で測ることも、質的に表すこともできる、両方の意味を持った新たな成長という概念を提唱します。
官民産学が連携し、実現への確かな道筋を
何はともあれ、日本の課題として、地域がどうなるかが心配ですね。やはり、地域資源を大事にして、地方を元気にするという視点が必要です。こういったことに企業が取り組むにあたって、社会的責任の下、民間セクターが何となくいいことをやっていますというお付き合い的な発想、CSRではなく、もう本業としてやっていかなくてはならない。それと同時に、行政、教育機関、研究者、NPO、市民とともに、それぞれの役割を果たして、コラボする、パートナーシップの強化をすることも、今回の環境基本計画では、明確に位置付けたいと考えております。はっきり言って、それを具体的にするには、環境政策だけでは実現できません。環境政策として取り組めることは、私も旗を振りまくって一生懸命やりますが、国のレベルでいうと農林水産省、国土交通省、様々な連携が必要です。それらを実行可能にするために、今回重点戦略という形で、各省との連携、調整を終えて、計画を閣議決定に持っていくフェーズであります。
やはりCSRではなく、経済、本業でやっていくことは大きいです。世界のトップ企業はすでにそういう動きを始めている。Apple やMicrosoft のような大企業が、もう再生エネルギーしか使いません、そういったところとしかお付き合いしません、といったバリューチェーン、サプライチェーンの囲い込みのようなことになっていますし、金融の世界でも、そういったことにしかお金回さないよ、となってきています。そういった状況の中で、日本は日本なりにしたたかにやらなくてはいけませんね。第4次革命が進んでいて、モノ・コトの世界から、サービスの取引が主流になってきています。
これからの経済の在り方を捉えるのと同時に、国土に着目することも大事です。水や空気や食べ物、全て、森・里・川・海という自然の資本からいただいているものですので、しっかり手をかけて、配当としてフローをいただくという発想を持たなくてはなりません。農村では、人口が減っていく中で、コンパクト化、小さな拠点としての人の住空間にもなりはじめています。そして、自然環境の機能を活かした災害対応なども強化していきたいと考えています。
地域において、エネルギーを中心に自立・自活していくということで、地域の収支が回復します。それを雇用につなげることも可能です。あと、大きな話としてはライフスタイル自体が変わり得る。我々が消費者、生活者として何を買うのか、というところで、何となくいいものを買っているような気がする、ではなくて、発想を変えましょうと。また、二拠点居住推進といった、地方移住の領域に踏み込んだことも含めて今回、政策で連携してやろうということを明確にしています。技術については、もちろん低炭素化の技術をはじめとして、ITやIoT、バイオマスなど、様々あります。
こういった全体の絵を描きまして、今回の第五次環境基本計画を、閣議決定し、これからの方向性がぶれないように、やるしかないという話を、国家レベルにしたいと考えています。これを何とか4月に閣議決定すべく、各省の調整を完了させて、まもなくパブリックコメントを出させていただく段取りになっております。
シンポジウム全体の講演録を無料ダウンロードできます。
中井 徳太郎 氏のご講演を含む未来経営シンポジウムの講演録は無料でダウンロードいただけます。本シンポジウムは、各分野よりサステナブル経営の本質に迫ることで、企業価値と社会価値を同時に向上できる、社会から選ばれる企業になるためのヒントが満載です。パリ協定を踏まえた温室効果ガスの排出削減目標やSDGs、サーキュラー・エコノミーを事業機会と捉え、ESGを意識した中長期戦略の立案に役立ちます。ぜひご覧ください。
執筆者プロフィール
中井 徳太郎(なかい とくたろう)氏
環境省 総合環境政策統括官
東京大学法学部卒業。大蔵省入省後、主計局主査などを経て、富山県庁へ出向。日本海学の確立・普及に携わる。その後、財務省理財局計画官、財務省主計局主計官(農林水産省担当)などを経て、東日本大震災後の2011年7月の異動で環境省に。総合環境政策局総務課長、大臣官房会計課長、大臣官房秘書課長、大臣官房審議官、廃棄物・リサイクル対策部長を経て、2017年7月より現職。
おすすめ情報
お役立ち資料・セミナーアーカイブ一覧
- なぜESG経営への移行が求められているの?
- サーキュラーエコノミーの成功事例が知りたい
- 脱炭素移行における戦略策定時のポイントは?
- アミタのサービスを詳しく知りたい
アミタでは、上記のようなお悩みを解決するダウンロード
資料やセミナー動画をご用意しております。
是非、ご覧ください。