コラム
第五次環境基本計画|今、国を挙げて行う政策|前編 第五次環境基本計画に込められた想い
環境省は2018年4月17日に第五次環境基本計画を閣議決定しました。本コラムでは、その閣議決定前の2月21日に開催されました「未来経営シンポジウム2018」にご登壇いただいた環境省 総合環境政策統括官 中井 徳太郎 氏のご講演から、本政策やそこに付随する「地域循環共生圏」に込められた意図などを前編・後編でご紹介させていただきます。
(画像は第五次環境基本計画より。クリックすると大きくなります。)
日本の精神性を活かした命をつなぐ調和型の社会を今、地域循環共生圏の概念を打ち出し、国を挙げて取り組む
環境基本計画というのは今、第四次の段階ですが、6年で見直すということで、ちょうど昨年から、中央環境審議会という各所全て集まった非常に大きな審議会で議論をしておりまして、やっと全体の調整がついてきた状況です。
SDGsをはじめとした考え方ですが、日本の現状としましても、環境においては、異常気象、気候変動など、社会的には、人口減少で少子化、高齢化と、これからどうなっていくのだという問題がございます。経済においては、地域経済が成り立つのか、あるいは、第四次産業革命が進んだ中で、どんな経済となるのか、国家財政はどうなるのかなど、様々な問題がありますね。これらの問題は、単体で考えて解が出るものではなく、全て絡まっているものだと思います。21世紀の後半には、これらの問題が全て同時に解決するというイメージができなければ、何をやってもばらばらで、地球は存在するかもしれないけれど、我々人類はもういない、ということも起こりかねないと認識しています。
これまでの人類の在り方を軌道修正すべき時がきた
こうしたことをずっと訴えてきておりますが、これはもう世界の潮流になっているということを改めておさらいしたいと思います。2030年アジェンダ、SDGsには17のゴールがありますが、これはまさしく、非常にバランスよく環境の課題、社会・経済の課題が入っています。これを2030年に向けて、先進国・途上国含め1人も取り残すことなく、目標達成するということですね。
そして、気候変動に関して、2015年にパリ協定で2℃目標が掲げられました。できれば気温上昇を1.5℃以内にして、温暖化を食い止めたい。産業革命後、0.85℃ほど気温が上昇してしまっているという状況です。科学的に判明してきていることですが、21世紀後半に、温室効果ガスCO2を実質排出しない、つまり、森林などが吸収してくれる範囲に抑え込めば、2℃目標が達成できる。ここに、世界の国々がコミットしたと。このことの意味合いを考えようではないかと。要するに、産業革命以降、ともすればもっと前からの人類の在り方、全て軌道修正しなくてはいけませんねと。そうしてやっと気温上昇を2℃におさえられるということが判った今、それをみんなでやろうという話になったと。
SDGs、パリ協定といった二つの大きな環境・経済・社会、包括的に全てを捉えて、21世紀に人類のありようを大きく変えていこうと、チャレンジしていく潮流が世界で見え始めています。日本においても、各省、政治といった各分野のベース認識を確固たるものにしようということで、今回、第五次環境基本計画の本文に、大きく書き込んでおります。
新たな文明社会を目指すべく、パラダイムシフト、大きく考え方を転換する必要があるのだと。ここから始まるということです。具体的な内容の一つに、まさしく本日のテーマである「地域」があり、計画の中では、地域循環共生圏という概念を掲げております。このままでは人類が立ち行かなくなるかもしれないという今の状況で、環境・経済・社会の統合的な問題解決の絵が描けるかという話です。
命の連鎖を途絶えさせない、調和型の社会
21世紀は、大きな変化に直面しています。イノベーションという言葉を使いますが、全てが変化している状況で、その変化の末たどり着く先が、調和型ではないと困りますね。産業革命以降の流れの中で都市化してきた事実は、今もなお厳然としてあります。我々は生き物としてこの地球に住まわせてもらって、森・里・川・海という水や空気や食物や、様々な自然の恵みをいただいています。原点として、我々の命がどうつながっていて、どうしたらその連鎖を途絶えることない世界をつくることができるのか、という根本的なところを描くことができなければ、人類史始まって以来の革命的な方向転換はできないと思います。
その絵を、地域循環共生圏として描きました。農山漁村、都市、それぞれあります。できるだけ自然の恵みを引き出して、地産地消、自立分散のエネルギー、食料といったものを循環させることがテーマとなっています。都市でも、屋上緑化や家庭菜園などできることはあります。とはいえ、都市の生活は、水や空気や森林を供給してくれる農山漁村によって支えられています。その恵みを循環させるという視点を持ちつつ、その一方で、地方には人がいないという状況の中で、都市部からお金や人が入ってくると。農山漁村と都市、それぞれでできるだけ自立しながら、うまくネットワークをつくって、大きな視点を持って、地域循環共生圏という概念をつくりました。地域の単位をどれくらいの規模で考えるのか、行政単位を超えた領域か、市や町でみるのか、もっと小さい単位でみるのか色々な見方があるわけですが、まず大きな概念としてこれを打ち出して、そこから深めていこうということを、キーコンセプトとしています。
(つづく)
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中井 徳太郎 氏のご講演を含む未来経営シンポジウムの講演録は無料でダウンロードいただけます。本シンポジウムは、各分野よりサステナブル経営の本質に迫ることで、企業価値と社会価値を同時に向上できる、社会から選ばれる企業になるためのヒントが満載です。パリ協定を踏まえた温室効果ガスの排出削減目標やSDGs、サーキュラー・エコノミーを事業機会と捉え、ESGを意識した中長期戦略の立案に役立ちます。ぜひご覧ください。
執筆者プロフィール
中井 徳太郎(なかい とくたろう)氏
環境省 総合環境政策統括官
東京大学法学部卒業。大蔵省入省後、主計局主査などを経て、富山県庁へ出向。日本海学の確立・普及に携わる。その後、財務省理財局計画官、財務省主計局主計官(農林水産省担当)などを経て、東日本大震災後の2011年7月の異動で環境省に。総合環境政策局総務課長、大臣官房会計課長、大臣官房秘書課長、大臣官房審議官、廃棄物・リサイクル対策部長を経て、2017年7月より現職。
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