コラム
気候変動で迫られる「ビジネスモデルの転換」、社会課題を解決する「大きな市場」とは? SDGsから未来の市場を創る!~社会を変える事業を創出し、社会から選ばれる企業を目指す~
企業経営のひとつの軸となりつつある「SDGs」。しかし、戦略的に経営に組み込めている日本企業はまだわずかです。連載第2回では、気候変動に特に関連性の深い「目標7(エネルギーをみんなに そしてクリーンに)」「目標13(気候変動に具体的な対策を)」を取り上げ、SDGsを競争力のある戦略・戦術に落とし込むためには、何をすべきなのか?世界の最新動向をご紹介しながら、解説します。
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※本記事は、企業の事業開発者のためのWebメディア「Biz/Zine」へ、寄稿した内容を一部編集し、掲載しています。
気候変動が企業活動に与える8つのリスク!
そもそも気候変動は私たちの暮らしや企業活動にどのような影響を与えるのか。地球温暖化について科学的な調査・研究を行う国際的な組織である「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」は、気候変動がこのまま進行した場合、大きく8つのリスクが発生することを指摘しています。
また、世界全体の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分下回るように抑えつつ、今世紀後半には二酸化炭素の排出量を実質ゼロにしようという「パリ協定」が合意され、2年あまりの時間が経過しました。パリ協定を契機に急速に世界が動き出しており、SDGsにおいても下記のような目標が設定されています。
▼目標7
「すべての人々に手ごろで信頼でき、持続可能かつ近代的なエネルギーへのアクセスを確保する」ことが掲げられ、2030 年までに、再生可能エネルギーの割合の大幅な拡大、エネルギー効率の倍増、エネルギー関連インフラ構築や技術開発への国際協力強化と投資促進などが具体的な目標になっています。
▼目標13
「気候変動とその影響に立ち向かうため、緊急対策を取る」ことが掲げられ、災害に対する強靱性及び適応能力の強化、気候変動対策の国別政策等への反映、教育・啓発・人的能力及び制度機能の改善、開発途上国のニーズに対応するため2020 年までに年間 1,000 億ドルの動員、地域的・社会的に疎外されたコミュニティに対して計画策定と管理能力を向上させるメカニズムを推進することなどが具体的な目標になっています。
▼パリ協定についてはこちら
パリ協定とCOP21とは何ですか?
「パリ協定」を契機に、気候変動から急速に連鎖する世界の"3つの動き"
それでは、上記の目標に関連してどのような動きがみられるのでしょうか。世の中では以下の3つの動きが加速していると考えられます。
1.再生可能エネルギーへの転換
2017年11月16日、25の中央政府や州政府が参加し、石炭火力発電を早期に全廃し再生可能エネルギーへの移行を進める国際イニシアチブ「Powering Past Coal Alliance」を発表しました。参加者は、政府政策や企業方針及び投資を通じて再生可能エネルギーを支持し、炭素回収・貯蔵(CCS)設備を設置していない石炭火力発電への投融資を制限しなければなりません。また、参加企業とNGOは、石炭火力発電を電源とする電力以外で事業を行わなければなりません。
また、事業運営を100%再生可能エネルギーで調達することを目標に掲げる企業が加盟する「RE100」という国際イニシアチブがあります。2014年に発足したRE100への加盟企業は、2018年3月13日時点で、世界全体で128社まで増加しています。
▼RE100についてはこちら
RE100とは何ですか?自社の再生可能エネルギー利用率を向上させたいのですが、関連する取り組みや事例について教えてください。
このように再生可能エネルギーへの転換が加速していき、それに伴い株主や顧客等などのステークホルダーの関心が高まる中で、各企業は自社の電力需要予測、発電方法と購入価格を踏まえ、どのような電力を誰から買うのかということを経営課題として検討・判断する必要性が高まっています。
2.自動車産業の変革
自動車業界においては、電気自動車(EV)へ大きく舵が切られています。フランス、イギリスの両政府は、2040年までにガソリンやディーゼル車の販売を禁止することを発表しました。各国政府の動きに呼応するように自動車メーカーもEVへの積極的な投資、戦略的な展開を進めています。2017年9月、スウェーデンの自動車大手ボルボは、ガソリン車およびディーゼル車の生産を段階的に廃止し、2019年以降に発売する新たな車種はすべてEVまたはハイブリッド車に移行すると発表しました。
EVの普及は、自動車産業の構造を根底から崩す可能性があるといわれており、各国政府、世界の自動車メーカーの思惑が交錯し、様々な動きが出てきています。
3.投資、金融の変化
気候変動の影響を受け投資機関の動きにも変化が出てきています。気候変動への対応が企業経営に影響を及ぼす可能性があるという認識が高まっており、投資先企業の開示情報を利用した投資先への働きかけ(エンゲージメント)や投資撤退(ダイベストメント)などの行動が加速しています。化石燃料関連企業からのダイベストメントは、大学や地方自治体、慈善団体のみならず、公的年金や民間金融機関にも急速に広がっており、ダイベストメントの調査を実施している米国のArabella Advisorsの報告によると、2016年末時点で化石燃料企業からのダイベストメントが76カ国で総計5兆米ドルに到達し、過去15カ月間で2倍に増加したと発表されています。
今後ますます投資家が適切な投資判断が出来るように、投資を希望する企業は気候関連リスク及び機会について充分な情報開示が求められるようになっていきます。
リスクは市場づくりのビッグチャンス!気候変動が生み出す ""ビジネスモデル"とは?
このように気候変動の影響を受け、エネルギーの選択、産業構造そのもの、投資の動きなど、様々な変化が続いています。企業経営においても無視は出来ない経営課題となりつつあり、もし対応を間違えば、企業にとっても大きな経営リスクに発展する可能性があります。一方で、気候変動は全世界共通のリスクでもあるため、この社会課題の解決には大きな市場が存在しているとも考えられます。
エネルギーの分野においては、約束された市場が少なくとも3つあります。1つ目は、広範囲・大規模な視点での再生可能エネルギーの最大活用(洋上風力や地熱など)、2つ目は、限られた範囲の中で、地域資源を利用し、再生可能エネルギーを基点にした地域活性化、3つ目は、事業所や家庭など自家発電・自家消費への技術やシステム導入です。そして、日本企業がこの機会に自社のビジネスモデルを見つめ直し、競争力のある戦略・戦術を検討・実行するためには重要なポイントが2つあると考えます。
1点目は「地域の経済再生と社会インフラの維持・活性化」という点です。
いま地域では、雇用の場が減少し、税収不足による自治体サービスの停止、財政破綻が危ぶまれています。これからは、地域資源を最大限に活用し、消費財とエネルギーを自ら生産し、域内で循環型の産業を形成し、社会インフラの維持・活性化を図っていくことが求められています。ただし、域内が抱える課題はエネルギーのほか、医療、介護、教育、子育てなど多様であるため、部分的・技術的な解決策だけではなく、経済システムやライフスタイルも含めた統合的な社会デザインに取り組む思考が必要になります。そこに新たな市場が生まれる可能性は高いと考えられます。
2点目は「日本の後れ、弱みを認識し、克服する」という点です。
世界的な気候変動の動きにおいて、現時点で日本は国及び企業レベルの動きで存在感を示すことができず、残念ながら世界に後れを取っていると認めざるを得ない状況と思います。また、私たち日本企業の弱点として、自社の責任で発言・行動することよりも外圧に押されて横並びで動くこと、世界的な標準・視点ではなく日本の特殊論で動くことなどがあると思います。気候変動を基点に日本を、世界を変えていくためには、これらの後れや弱みを正しく認識し、不足している世界の視点や情報を取り込み、科学的知見に基づく公平、公正な議論を重ね、2030年より先を見越した未来の社会像を捉え、顧客は誰か、顧客に提供すべき価値は何かを考え、経営判断として、何を選択し、どう実行するのかを決断していかなければなりません。
気候変動やエネルギーに対する企業への要求は、今後ますます強力になり、急かされるのは間違いありません。未来の人々のため、そして自社の持続可能な経営のために、私たちには、いま何が出来るのか。新たな成長機会を獲得する千載一遇の機会ではないでしょうか。
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執筆者プロフィール(執筆時点)
末次 貴英(すえつぐ たかひで)
アミタ株式会社
環境戦略デザイングループ グループリーダー
これまで100社以上の企業に、サステナブル経営のためのビジョン策定、環境戦略立案、CSR・CSVコンサルティング、環境取り組みのアウトソーシングサービス等を提供している。森林管理と酪農を組み合わせた「森林酪農事業」の立上げや、大型バイオガス発電施設の工場長、産業廃棄物のリサイクル営業等の経験を活かした、現場感・手触り感のあるコンサルティングが持ち味。
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