コラム
IUU(違法・無報告・無規制)漁業の現状とリスク、ウナギ類の危機と企業が気を付けるべきポイントとは?WWFジャパンが語る!企業に求められる水産サステナビリティ
水産資源に関わる企業の方に向けて「水産資源の現状と企業に求められる行動」をテーマにお届けする本コラム 。前回のコラムでは、マグロ資源管理の現状についてご紹介しました。今回は、このような資源管理の実効性を脅かしている大きな国際問題のひとつであるIUU漁業の現状とリスクについてお伝えします。
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IUU漁業とは?
IUU漁業とは、Illegal, unreported and unregulated漁業、つまり「違法・無報告・無規制」に行われている漁業のことです。これらの中には、
- 漁獲量や漁法について国内法や国際法に反して行われる漁業
- 漁獲量について 報告が行われない、または、それらが不正確もしくは過少報告である漁業
- 旗国なしの漁船による漁業
- 地域漁業管理機関(RFMOs)の対象海域での認可されていない漁船による漁業
なども含まれます。
世界の水産資源の動向をみると、健全な資源状態の水産資源が占める比率が年々減少しており、十分に豊富な水産資源は、10%にも満たない状況がわかります(図1)。この減少の主な原因は「乱獲」や「獲りすぎ」と言われており、その対応には、科学的根拠に従った実効性ある資源管理が必要ですが、IUU漁業は、そのような資源管理の実効性を脅かしています。
図1 世界の水産資源ストックのグローバルトレンド1974-2011年(※1)
IUU漁業の実態に迫る!日本での現状は?
世界的に、IUU漁業は、毎年、1,100~2,600万トンの漁業資源を水揚げしていると推定され、その金銭的価値は、毎年100~235億USドルと推計されています (※2)。この金銭的価値は、日本の漁業生産額とほぼ同等の規模があり(図2)、ここからも、IUU漁業が資源への圧力を増していることがわかります。
日本の漁獲量は、375万トンで世界第7位(2014年)、水産物の輸入金額は、156億ドルで世界第2位(2013年)です (※4)。つまり、日本は水産資源を獲る国としても、輸入する国としても、水産業へ大きな影響を持つといえます。日本がIUU漁業対策を確実に行うことで、日本の消費者が知らぬうちにIUU漁業由来の水産物を消費することを避けるだけでなく、世界の市場からIUU漁業を根絶し、持続可能な水産資源利用の実現にもつながります。
では、その日本の水産市場におけるIUU漁業のリスクは、どのようなものでしょうか。WWFジャパンでは、日本の水産物市場におけるIUU漁業由来の魚種を特定するため、分析研究を行っています(※5) 。本分析結果から、下記の10魚種において、IUUリスクが高いことがわかっています。(サケ・マス類、ヒラメ・カレイ類、ウナギ類、ニシン類・ズワイガニ類、アメリカオオアカイカ、サバ類、タラバガニ類、タコ類、スメルト(アユ・ワカサギなど )。)
またこれらの10魚種について、詳細なIUUリスクアセスメントを、6つの基準(1.漁船、合法な個人および企業、2.漁業/水産業、3.旗国、4.沿岸国、5.寄港国、6.市場国)を用いて、行った結果(表1)、日本の市場における特にハイリスクな魚種として、ウナギ類およびヒラメ・カレイ類、サケ・マス類が挙げられ、ズワイガニ類・タラバガニ類は中程度のIUUリスクレベルであることがわかりました。
表1 日本の水産市場におけるIUUリスク分析結果
(スコアは1~3で示され、数字が大きくなるほど、リスクが高い)
全体としては、日本の水産物市場は、中~高レベルのIUU漁業リスクがあることがわかります。この結果の背景や原因として、以下が考えられます。
- サプライチェーンが複雑であること
(取引先の状況が見えづらい、関係者が多く把握が困難など) - サプライチェーンにおける監査・チェックレベルが低いこと
- 漁獲証明制度の対象が、地域漁業管理機関で採用されている魚種に限られていること
(採用されていない魚種があるということ) - ほとんどの魚種で、IUU漁業を排除できるツールであるMSC認証が取得されていないこと
企業においては、1や2などサプライチェーンの見直しが重要となってくるでしょう。
特に危ない!ウナギとIUU漁業
本分析結果では、資源の枯渇も懸念されているウナギ類について、IUU漁業のリスクが高いことが明らかになりました。ウナギ類は日本にとって文化的にも商業的にも重要な魚種ですが、日本で養殖されているニホンウナギの6割以上が未報告・違法な漁獲によるもの、あるいは、違法に海外から持ち込まれたものと推定されています。
ウナギ類は世界で16種(亜種を含めると19種・亜種)が確認されていますが、近年個体数の減少が危惧されています。日本に生息しているニホンウナギも、2014年に国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストに絶滅危惧種(EN)として掲載されました。人工種苗生産が商業化に至っておらず、世界中で利用されているウナギ類はすべて天然由来であることから、ウナギ類の持続可能な利用の実現は喫緊の課題です。
2015年に日本市場に供給されたウナギ類約5万1千トンのうち、半分以上(3万1千トン)が中国、台湾などからの成鰻(成長した生きたウナギ)または加工品(主に蒲焼)の輸入によるもので、日本での養殖生産量は約2万トンでした。それでは、日本で養殖されるウナギの稚魚(シラスウナギ)はどこから来るのでしょうか。図3は池入れ(養殖)に使われるシラスウナギの出所を示しています。年によって変動はあるものの、4割~8割が国内で採捕されたものとなっています。また、これらの内、採捕量の報告がなされているシラスウナギの割合は4割~6割であり、残りは無報告のシラスウナギ(IUU漁業)であることがわかります。(図3の赤色と緑色の部分)
さらにウナギは、毎年、養殖で必要な量を満たすため、一定量が香港から輸入されていますが(図3の黄色の部分)、香港ではシラスウナギ漁業が存在しないため、本当の出所を隠すために、経由地として使われていると考えられています。ニホンウナギのシラスウナギは、台湾、中国、韓国でも採捕されますが、台湾では2007年以降、毎年11月から翌3月までシラスウナギの輸出を禁止しており 、中国や韓国は輸出データによってはここ数年シラスウナギの輸出の記録はほとんどありません (※6)。したがって、日本で池入れが行われる期間に東アジア地域から輸入されるシラスウナギの合法性を証明することは、ハードルが高いのです 。 この違法取引と疑われる量(輸入量)と国内での未報告採捕量を足し合わせた量は、毎年全体の6割以上を占め、年によっては8割を超えることもあります(図3の赤字)。図3の数値から、ウナギにおけるIUU漁業の深刻な状況がうかがえます。
図3 ニホンウナギ稚魚(シラスウナギ)の日本での池入れ動向
*赤字:IUU漁業、違法取引由来と考えられる割合(水産庁資料を基に作成)
関連企業の対応が、IUU漁業根絶のカギに
残念なことですが、現時点で、ウナギの流通に関わる企業は知らず知らずのうちに、IUU漁業由来のウナギ類の日本市場への流入に手を貸してしまっている状況にあります。
ウナギ類のリスクの一つは、このままの状態で違法取引が続いた場合、ワシントン条約により貿易が規制対象となってしまう可能性があるということです。一朝一夕で解決できる問題ではありませんが、ウナギ類の持続可能性の担保のためには、まず、水産企業・団体、小売企業などから原料を入手している取引先に対し「シラスウナギの採捕に至るまでトレーサビリティの取れたウナギがほしい」「法規制に則っているウナギがほしい」という要望を伝えていくことが欠かせません。さらに消費者に近い立場である外食産業や加工産業側も、要望を伝えるべきでしょう 。
そして、これらはウナギ類に限ったことではありません。水産物の一大消費国である日本の関係者が、IUU漁業を深刻な問題と捉え、IUU漁業由来の水産物を取り扱わない旨を調達方針として公表したり、サプライチェーン全体のトレーサビリティを確保したりすることで、自然や地域社会に配慮した調達が実現します。これらは、資源の保全にも企業リスクの低減にもつながると考えられます。
次回は、企業とNGOとの協働によってどのようなことが実現しているのか、企業の参加、協力のもと実施している改善プロジェクトについて、解説いたします。
(※1)FAO. 2014. The State of World Fisheries and Aquaculture. Fisheries and Aquaculture Department, Food and Agriculture Organization, Rome, Italy. p.37. Fig.13をもとに作成。
(※2)Agnew DJ, Pearce J, Pramod G, Peatman T, Watson R, Beddington JR, et al. (2009) Estimating the Worldwide Extent of Illegal Fishing. PLoS ONE 4(2): e4570.
(※3)左図:FAO、右図:農林水産省 統計情報 漁業生産額確報 平成26年漁業生産額 (http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?lid=000001152876)
(※4)日刊シーフーズ・ニュース編集部『水産物パワーデータブック2016年版』(株式会社 水産通信社、2016年)
(※5)なお、本分析研究のレポートの完全版(IUU Fishing Risk in and around Japan)は、2017年の夏ごろに出る予定。分析研究は、委託先のMRAG Ltd(漁業や海洋資源に特化した独立したコンサルティング会社)による。本分析研究の分析方法は、日本において漁業生産量及び輸入量の多い50魚種を選定し、簡易なIUUリスクアセスメントを行い、その中で、IUUリスクが特に高いとみられた10魚種について、詳細なリスクアセスメントを実施するという方法をとっている。なお、特定された10魚種に、マグロ類を含んでいないが、マグロ類はIUUリスクの高い魚種として、すでにWWFにて取組みを始めているため、本研究からは除外している。
(※6)中国と韓国については、公表データ(水産庁資料)と税関統計に齟齬がみられる。
執筆者プロフィール
滝本 麻耶(たきもと まや)氏
公益財団法人世界自然保護基金ジャパン(WWFジャパン)
自然保護室海洋水産グループ
ドイツ・フライブルク大学大学院修士課程環境ガバナンス終了後、WWFジャパンに入局。自然保護室海洋水産グループでは、ポリシーアドヴォカシー及びパブリックアウトリーチを担当。
白石 広美(しらいし ひろみ)氏
トラフィック
プログラムオフィサー
ユニバーシティー・カレッジ・ロンドン地理学部修士課程修了後、2013年にWWFジャパン(トラフィック・ジャパンオフィス)に入局。日本に関わりのある野生生物取引の調査・提言活動に従事している。
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