コラム
東大院生レポート第12回(最終回):「日本らしいCSR」と私たちが取り組む社会的責任長濱さん@東大院生レポート
毎月、書くのが楽しみだったコラムも最終回。今回はコラムのまとめと、これからの日本の持続可能な発展にむけて、日本人としてどんなCSRが必要なのかを考えてみました。
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写真1:森林資源を利用する人々の暮らしから資源の持続可能性を考える
今までのコラムの評価
編集長からこのコラムを依頼された時「環境、人権、労働慣行、消費者課題、ソーシャルビジネス、女性活用などをテーマにしていただけると助かります。」と言われて、半年の予定が1年に伸び、12回の連載が終了しようとしています。環境と教育、女性に関しては話題を提供することができましたが、ソーシャルビジネス(ソーシャルイノベーションなど)は半分、人権、労働慣行には至ることができませんでした。また消費者課題として、自然資本や地域経済の活性化については触れたものの、脱経済至上主義というコンセプトにまで理論を展開するには至らず、力不足の感があります。
これらの課題を補うべく、2015年5月に座談会(下記、関連情報参照)を開催して、東大の後輩たちとともに「CSRJAPAN(※1)」で取り上げていただいたくことができました。大学にお越しいただいた編集部に感謝する次第です。
写真2:途上国のフィールドから日本に目を向ける
(※1)CSRJAPAN・・・2010年11月4日~2017年6月29日までアミタ(株)が運営していたWebサイト。2017年6月29日以降は「おしえて!アミタさん」サイトに統合。
日本らしい企業の社会的責任(CSR)とは?
『CSRJAPAN』というタイトルにあるように、みなさんは「日本らしいCSRとは何か?」を考えたことはありますか?このコラムでの繰り返しになりますが、私は自然環境とかかわりながら生きることが、持続可能な社会の発展につながると考えています。江戸時代の生活を振り返ると、農業を営み、里山・里海を利用し、家畜が各家庭で当たり前のように飼われていて、それらが相互につながる関係(図1)があったことが過去の記録からわかっています。
私が調査で滞在しているインドのヒマラヤ山麓の標高1000~2000mに位置する急峻な中山間地域の村々では、現代においても自然とつながって暮らす風景が見られます。こうしたフィールドに滞在していると、日本も薪炭材に依存した時期、こうしたランドスケープが広がっていたのだろうかと、タイムスリップするような不思議な気分になります。いやむしろ、このようなバイオマスエネルギーを利用している地域こそ、先駆的ともいえるのかもしれません。
森の資源に依存する地域や家庭に滞在すると、自然のつながりの中で生活することが可能であり、都市や海外に働きにいく必要がない村や世帯があることがわかってきました。そのような内部経済性がある状況、つまりそれぞれの村や世帯の生活、管理、効率性など、それらの固有の特性から生ずる利得があり、その中で循環している仕組みが存在するのです。(今まで見えなかったことが見えた!天と地が人々とつながった一体感を体得したのは、調査に入って5年目、第8回目のコラムを書いていた時でした。)
地域内部で経済性が成り立つ社会を企業が後押しすることが、私の提案するCSRです。
図1:森の資源に依存した生活をする人々の暮らしと自然との関係
私たちはどんな社会的責任を果たせるのか
1)学び続ける
2)次世代の育成にかかわる
3)政治にかかわる
1)学び続けたことは専門性を有して、次の世代に引き継いでもらえます。私は8年おきくらいに仕事を変えてきたので、どれか1つに腰を落ち着けて8年×3種分を継続していたら、日本でも屈指の専門家になっているかもしれない(笑)と言われます。新しい知見を仕入れることは、専門に広がりとつながりを持たせるので、領域横断的な仕事に大いに役立っています。また多くの分野においてフルタイムの仕事で3年を蓄積すると、人に教えられるようになるという報告もあります。
2)職場の後輩の面倒をみてあげてください。そして子どもを産むことが可能でかつ許されるなら、ぜひ実行されてください(理想の人数は兄弟姉妹でグループ化する3人以上、私は残念ながら諦めました)。子育ての秘訣は、周囲を巻き込むことです。2人の息子たちの育児は、地域のおばあちゃまやママたちにどれだけ支えられたことか!感謝はつきません。
3)次男がベビーカーに乗っている頃、地域や都内で市民運動に参加し、街宣したり(マイクを持って訴えたり)、チラシを配ったりと政治的活動を行っていました。この時、訴えが政策にまで上がっていかない無力感に悩み、私の考えを代弁してくれる議員を議会へ出すための活動(議員の選挙ポスター貼りや街宣カーに乗ってウグイスなど)へシフトしました。
どれも簡単に取り組めます。これらのキーワードは「つながり」です。学び続け、地域や社会、そして政治とかかわることです。また逆説的ですが、先月に94才で亡くなられた写真家の福島菊次郎さんが残された言葉「一人になることを恐れないで。集団になると大切なものが見えなくなる。」(「DAYS JAPAN」2015年11月)という視点も大切です。私たち一人一人が自分の頭で考え続けることこそ、重要ではないでしょうか。
写真3:淡路島の里海
感謝の意にかえて
最後にこの1年間、私の拙いコラムの編集にかかわり、大変お世話になった猪又編集長と高橋副編集長に心からお礼申し上げます。またいつも家にいないことの多い私(今も学会参加という目的で四国を周遊中)に適切な助言をくれる夫、元気のない時に励ましの言葉をかけてくれる長男、そして私の考えの及ばない斬新な発想から知見を広げてくれる次男に深謝します。
また家族と同様にありがたき存在である先生や先輩方、また大切な友人たちが身近にも海外にも散らばっていて、生活レベルから社会のレベルまで、研究や実践への議論を交わしています。ネットワークや新しい仲間を広げ、今後も研究とともに社会にアクションを起こしていけるよう取り組んでいきます。
写真4:「自然環境デザインスタジオ」で先生と仲間たち(2013年)
※このコラムは、CSRJAPANに2014年11月~2015年10月に連載されたものです。
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プロフィール
長濱 和代(ながはま かずよ)氏
東京都の小学校教員をしていた2006年に、国際環境NGOアースウォッチによる途上国の森林プロジェクトに参加して、地球環境の劣化を目の当たりにして以来、環境教育の可能性を模索中。2013年3月に筑波大学大学院生命環境科学研究科で環境科学修士。同年4月から東京大学大学院・新領域創成科学研究科博士課程に在籍中。
<研究テーマ>
海外の研究調査地は北インド・ヒマラヤ山麓に位置するウッタラーカンド州で、住民参加による森林管理の事例として森林パンチャーヤトを研究している。インドは今後世界中で最も多い人口を抱え、経済的かつ地球環境的変化を遂げる国の一つとして注目している。
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