コラム
東大院生レポート第6回:アメリカでの国際森林会議に参加して考える持続可能な社会の実現長濱さん@東大院生レポート
2014年10月,IUFRO(International Union of Forest Research Organization:国際森林研究機関連合)の国際会議があり、研究発表をするためにアメリカのユタ州にあるソルトレークシティに行きました(次回は2019年10月にブラジルで開催予定)。4-5年に一度、世界中から森林にかかわる研究や実践に関わる人たちが一堂に会し、最新の研究を発表,情報を交換することでネットワーク化を図っています。研究発表の場というアカデミックな場であるとともに、エクスカーションとして近くの国立公園や歴史的に重要な場所に出かけたり、交流を深めるための夕食会では先住民族のダンスを踊ったりと、お祭りのような雰囲気すら感じられるイベント等も用意されるなど、約1週間に及んだ興味深い国際会議でした。
写真1:開会式でのプレゼンテーションにて。会議では世界100か国以上から2500名の科学者と、北米から1200名のフォレスターらが集まった。
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ヒマラヤ山麓から,ソルトレークの発表をリアルタイムでキャッチ
国際会議での今回のテーマは「Sustaining Forests, Sustaining People: The Role of Research: 持続する森、持続する人々~研究の使命」という題目で、Sustainには「元気づける」という意味もあり、私は「研究の使命~森を元気にする,人々を元気にする」と解釈して、自分の研究調査地である北インドの森林パンチャーヤトについての口頭発表をしました(第2回レポート参照)。発表後は,ネパール人の研究者やイタリア人の博士学生等から質問を受け、コミュニティ・フォレストの重要性と日本人としてインドという地域研究の意味を考える契機を得ました。
また現地からフェイスブックを通じて学会での写真をアップすると、ヒマラヤ山麓の村の人たちから「応援している」「今度、インドに報告に来るように」というメッセージが届きました。IT化が進み、山村の奥地でも携帯端末が使われていて、アメリカで私がインドの話をしている情報をすぐに知ることができるのです。彼らは普段は森林資源に依存した生活―――薪を利用して暖をとり料理をするなど、森とともに生きる生活を過ごしています。つまりほとんどの世帯で携帯電話があり、ハイテクを導入する進取の気進と財力を持ち合わせている人も少なくなく、持続可能なバイオマスエネルギーを使った生活を営んでいます。
写真2:学会に参加したインドとスリランカの研究者
消費大国アメリカを目の当たりにする
学会開催中は高校時代の友人の家に滞在して、アメリカの生活を体験しました。驚いたことがいくつかあります。第一に、洗濯した服や下着は外に干してはいけないと指摘されたこと。外に干すと不衛生でかつ地域の景観が悪くなるからだという理由でした。何人かのアメリカ人たちにヒアリングしたところ、同じように答えたので、それが一般的な考えであれば、多くのアメリカ人が乾燥機のためにエネルギーを無駄に使っていると思われました。第二に、ガスを利用したセントラルヒーティングがすべての部屋に通じていて、操作は地下で行うシステムになっていること。最先端のようにも見えますが、高さも広さも日本の2倍近くある大きな部屋がどれも人がいなくても暖かくなるため、エネルギーが不必要に使われているように見えました。この疑問について、アメリカは地下から天然ガスを掘り当て、枯渇しないほど所有しているので、家庭で使っても値段も量も問題にはならないという答えが返ってきました。他にもお皿や手を拭くときは使い捨てのペーパーを使うことや、各世帯で大人の数の車を所有している中間所得層の生活を垣間見て、持続可能とは言えないエネルギーを消費している生活に違和感を覚えました。
写真3:ソルトレーク市郊外の一般的戸建て住宅
エネルギーを消費することは二酸化炭素(CO2)排出を促すこと
学会期間中,過ごしたコンベンションセンターでは,お手洗いに行くと手洗い場に必ずお手拭用の紙タオルがあって,横のごみ箱は使い終わった紙で溢れかえっていました。家庭でも公共の場でも,資源を無駄に使っていることを実感し,そのとき脳裏に浮かんだのはこの図でした(右図)。私たちはアメリカ人半分のCO2しか排出していなくても,インド人の8倍,アフリカ諸国の10倍に相当する莫大なエネルギーを消費して,CO2の排出により地球温暖化に加担しているといえます。
図1:世界の二酸化炭素排出量に占める主要国の排出割合と各国の一人当たりの排出量(出典:EDMC/エネルギー経済統計要覧2009年度版)
サステナブルな社会の実現に向けての提案
エネルギー利用の格差は、世界に豊かな地域と貧しい地域の差を増大させます。さらに,その差が消えないのはなぜなのか?という根源的な問いが存在します。ヒマラヤ山麓で暮らす人々のような持続可能な自然資源の選択は可能でしょうか。私たちは持続的な社会経済システムのビジョンを描けるのでしょうか?
日本はアメリカの経済・社会的発展に習って、国内総生産(GDP)を高め、深刻な環境問題を経験、克服してきました。BRICs(ブラジル,ロシア,インド,中国)と言われる2000年代以降に著しい経済発展を遂げている国々は、日本と同じ経験をたどる可能性があるでしょう。私たちは自分たちの住む地域に与えられた自然資源を大切に使って、エネルギーを効率的に循環させなければなりません。グローバルな環境問題は、私たちの気づきと身近な環境意識の向上から解決されると考えています。
写真4:IUFROのエクスカージョンで世界各国からの科学者たちと
包括的富指標(IWI)とグリーン成長指標(GGI)
私たちはCO2削減を掲げ、持続可能な社会の実現に向けて、社会に新しいライフスタイルの提案を示す必要があります。それは枯渇しない再生可能なエネルギー消費に転じることです。インドの森林の「生きた里山的利用」や、江戸時代に見られるような日本が伝統的に営んできた「自然とともに生きる暮らし」等に、ヒントを見出すことができると考えます。また単純に昔に帰れというだけでなく、最新の技術も使いこなしながら、古くからある技術を使いやすくするという方法もあるでしょう。
それらを評価するためには、GDPだけでは評価できない人類の福利を評価し、そしてその福利が将来世代にわたって維持されることを目指した指標である包括的富指標(IWI)や、経済協力開発機構(OECD)から提案されたグリーン成長指標(GGI)を取り入れていくことです。自然資産は人類の幸福のよりどころとして、私たちは資源と環境サービスを提供し続ける状態を確保しながら、経済成長及び発展を促進していくことが評価される政策や,企業の戦略が不可欠かつ急務であるといえます。
写真5:ソルトレークシティ郊外の秋の景観
参考
- Highlighting Japan(日本国政府海外向け広報誌) 2015年2月号 藤野純一氏(国立環境研究所)インタビュー
- OECD 2011年グリーン成長をめざして Towards Green Growth (日本語訳サマリー)
プロフィール
長濱 和代(ながはま かずよ)氏
東京都の小学校教員をしていた2006年に、(株)花王のCSRを通じて、国際環境NGOアースウォッチによる途上国の森林プロジェクトに参加して、地球環境の劣化を目の当たりにして以来、環境教育の可能性を模索中。2013年3月に筑波大学大学院生命環境科学研究科で環境科学修士。同年4月から東京大学大学院・新領域創成科学研究科博士課程に在籍中。
<研究テーマ>
海外の研究調査地は北インド・ヒマラヤ山麓に位置するウッタラーカンド州で、住民参加による森林管理の事例として森林パンチャーヤトを研究している。インドは今後世界中で最も多い人口を抱え、経済的かつ地球環境的変化を遂げる国の一つとして注目している。
そもそも算数・数学の教師で、理数系の好きな人たちを増やそうと、算数教材研究を行ってきた。ハンズオン・マス研究会幹事 http://handson.exblog.jp/
(株)パナソニックのCSRとしての施設であるリス―ピアや、算数・数学で町おこしを試みている和歌山県橋本市などの市町村で,算数の出前授業を、また算数教科書の執筆にも関わっている。
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