東大院生レポート第4回:人生への挑戦とリスクマネジメント | 企業のサステナビリティ経営・自治体の町づくりに役立つ情報が満載

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コラム

東大院生レポート第4回:人生への挑戦とリスクマネジメント長濱さん@東大院生レポート

私は2人の息子を持つ母である。長男は大学生,次男は高校生に成長し,20年近く続いている子育て(予期せぬことが起きて,自分が育てられることが多いので,「自分育て」ともいう)をふりかえれば,乳幼児の頃が最も印象深く思い出される。保育園は,仕事や自分のことに集中するためには不可欠な存在であり,また仕事と子育ての両立について,同じ悩みを共有するママ・パパたちのコミュニティとしても機能していた。そこで出会った親と子どもたちとは,今なお家族ぐるみの付き合いが続いている。

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娘のように可愛がっていた莉里香ちゃんの死

nagahama4-002.jpgその中の一人に,娘のようにかわいがっていた土山莉里香ちゃんがいた。彼女は強く美しく,何でもできる賢い少女で,昨年4月に学習院大学理学部物理学科に進学して,登山部に入部した。6~7,000m級の海外の山々を制覇してきた主将とともに,この冬は富士山,アルプス連峰を踏破して,この2月には八ヶ岳に入山した。しかし遭難して行方不明との連絡。「生きて帰ってきてくれるだけでいい。」私たちは無事を祈ったが,2人とも帰らぬ人となった。先週末は「お別れの会」があり,その死を悼んで700人以上の関係者が参列した。いまなお,私たちはやり場のない悲しみに沈んでいる。
 莉里香ちゃんは,最近環境問題に興味があると聞いていた。登山を通じて自然環境のすばらしさに触れてきたと思われた。私は自然の厳しさや畏敬の念について,また登山は命あっての冒険であることを語っておけばよかったと悔やまれた。また亡くなった主将のあとを追って,将来はヒマラヤ山脈をめざしていたとも聞いた。ヒマラヤ山麓での村落調査を続ける私は,ヒマラヤ山脈を望むたびにリリちゃんを思い出すだろう。

写真1:ヒマラヤ山脈(http://amadeusplace.blog.so-net.ne.jp/2009-11-06

子供でもある私

nagahama4-001.jpgちょうど同じ週末に弟の結婚式があって母に会う機会があった。「娘が山へいくたびに心配で,戻ってくるまでは心臓が高鳴り,血圧が上がるのよ。」と,莉里香ちゃんのママが娘の下山を待っていた話を聞いた話をしたら,「それは私も同じ。娘がインドへ行くたびに心配で,血圧が上がるわよ。」と私のことを言われた。私の親は海外へ行ったことがなく,外国で日本人が命を落とすたびに,国内にいない私を両親は心配してきたという。いつまでたっても,私は親の元では子供であるらしい。

写真2:ヒマラヤ山麓での日没(2013年2月)

人生は冒険と挑戦,そしてリスクマネジメント

nagahama4-004.jpg親を説得しつつ,子は人生において,様々な冒険と挑戦を続けるために人生の旅に出る。冒険の途中で起こり得るあらゆるリスクを想定して旅にでるが,それでも命あっての冒険である。もし現地で自分に危険があっても,目的の達成において死ぬなら本望であると思って,インドの調査研究も,環境教育への挑戦も続けてきた。今回の出来事により,生きるということは周囲の関係性との中でその生が認められていること,つまり切り離せないことを実感する契機となった。さらに,リスクマネジメントの不備により起きたと考えられる今回の出来事は,人として生きる(人生)それぞれの道において,目的を果たすために果敢に挑戦していくことの意味をつきつけられ,それを問い直す機会となった。
莉里香ちゃんの死を悼む人たちは,19歳の彼女を思いだし,こうして生きている自分たちの人生をより深く生きようと,今なお模索しているかもしれない。考えるほどに冒険ができなくなり,そこに留まってしまうだろう。しかしそれは彼女の本意ではない。持ち得るあらゆる能力を駆使して挑戦する人生こそ,彼女の本望ではなかろうか。

写真3:山麓から望むヒマラヤ山脈(雲の向こうに白くそびえる峰)

プロフィール

nagahama_pro.jpg長濱 和代(ながはま かずよ)氏

東京都の小学校教員をしていた2006年に、(株)花王のCSRを通じて、国際環境NGOアースウォッチによる途上国の森林プロジェクトに参加して、地球環境の劣化を目の当たりにして以来、環境教育の可能性を模索中。2013年3月に筑波大学大学院生命環境科学研究科で環境科学修士。同年4月から東京大学大学院・新領域創成科学研究科博士課程に在籍中。

<研究テーマ>
海外の研究調査地は北インド・ヒマラヤ山麓に位置するウッタラーカンド州で、住民参加による森林管理の事例として森林パンチャーヤトを研究している。インドは今後世界中で最も多い人口を抱え、経済的かつ地球環境的変化を遂げる国の一つとして注目している。
そもそも算数・数学の教師で、理数系の好きな人たちを増やそうと、算数教材研究を行ってきた。ハンズオン・マス研究会幹事 http://handson.exblog.jp/
(株)パナソニックのCSRとしての施設であるリス―ピアや、算数・数学で町おこしを試みている和歌山県橋本市などの市町村で,算数の出前授業を、また算数教科書の執筆にも関わっている。

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