コラム
東大院生レポート第2回:ヒマラヤ山麓の村に滞在してインドの「森林パンチャーヤト」にせまる! 長濱さん@東大院生レポート
小学校で理数科教員をしていた時、国際環境NGOアースウォッチの途上国の森林調査に参加して、森林の植生や生態系、人為的影響を調べる機会を得ました。先進国にいる自分たちは途上国の資源を大いに利用していますが、日常生活でそれを実感する機会は少なく、現地での管理や利用についての情報は不明瞭である場合が多いようです。また地球環境へ配慮した行動を子どもたちと考えた時、その答えが本当に地球環境保全に役立っているのかという点でも疑問が残りました。そんな経験から、途上国の森林資源に関わる研究をしたいという思いを抱き、今の自分の研究に至っています。
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住民参加型を全土で推進
森林資源の持続的な管理と利用を進めるにおいて、住民参加型の森林管理が注目を集めています。その事例として、1990年からインド全土で推進され、世界最大規模の実施面積を有するようになった共同森林管理(JFM:Joint Forest Management)にまずは着目しました。
私の研究においては、1931年に北インドのヒマラヤ山麓に位置する現在のウッタラーカンド州において制度化された森林パンチャーヤト(森林パンチャーヤト: Van Panchayat)を対象としました。森林パンチャーヤトは森林管理のための自治機関で、この組織の下で管理されている森林面積は5,310平方㎞に及び、今なお増加しています。そうした点から、森林パンチャーヤトは共同森林管理の先駆けとして、注目を集めるようになりました。一般には住民が主体的に資源を管理するように機能してきたと捉えられていますが、他方では住民による管理体制は減退しているという指摘や、森林劣化の事例も報告されています。
写真1:ウッタラーカンド州クマオーン地方の村落
ヒマラヤ山麓の山村でホームステイ!
そこで4年前から、森林パンチャーヤトを取り入れている村でホームステイして、地域住民からの聞き取りを実施しています。もっとも長く滞在しているテーリー・ガルワール県D村では、現地の言語であるガルワール語が話されているので,英語の通訳を介して調査を実施しています。どの家庭でも薪を燃料としており、80%以上の世帯では女性が薪としてオーク類(シイ・カシ等)を収集していました。薪の利用量は1世帯当たり年間3,000~4,000kgに達するという報告もあります。
森林パンチャーヤトにおける規律は、立木の伐採は禁止、枝打ちは可能など、それぞれの村によって異なっています。D村において90%の住民は、森林パンチャーヤトにより森林の利用状況も環境も向上したと答え、住民による管理を好意的にとらえていることが分かりました。ただ森林管理委員会が機能していない村もあるため、いくつもの村での事例研究の蓄積により、その全体像が見えてくると思われます。
写真2:カマは山村に住む女性の必須アイテム
生きた森林の利用を学べる
住民は薪材だけでなく、家畜用の牧草あるいは飼葉、また堆肥用の落葉の採取といった利用によっても、森林から大いに恩恵を受けています。インドは、中進国として経済的発展を遂げようとしている中で、森林被覆率を微増させ、持続的森林資源の管理と利用において努力を重ねている国の一つです。森林パンチャーヤトのもとでの森林利用は、近代以前の日本の里山利用と共通する点があります。インドの山村は、私たちにとって生きた森林の利用を学ぶことのできる貴重なフィールドであると考えています。
写真3:飼い葉(家畜のえさ)を運ぶ女性たち
プロフィール
長濱 和代(ながはま かずよ)氏
2011年3月まで東京都小学校教員。2013年3月に筑波大学大学院生命環境科学研究科で環境科学修士。同年4月から東京大学大学院・新領域創成科学研究科博士課程に在籍中。
<研究テーマ>
研究室では,樹林地にロボットカメラを設置して,映像,音,雨量や気温等の気象データのライブモニタリングが可能である。http://cf4ee.nenv.k.u-tokyo.ac.jp/drupal6/
そもそも算数・数学の教師で、理数系の好きな人たちを増やそうと、算数教材研究を行ってきた。ハンズオン・マス研究会幹事 http://handson.exblog.jp/
(株)パナソニックのCSRとしての施設であるリス―ピアや、算数・数学で町おこしを試みている和歌山県橋本市などの市町村で,算数の出前授業を、また算数教科書の執筆にも関わっている。http://panasonic.co.jp/center/tokyo/event/all/index.html#a004776
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