コラム
NEC|投資家は統合報告書をどう読むか?第1回NEC|投資家は統合報告書をどう読むか?
中長期の投資家を意識した統合報告書の発行を考える会社も多い中、NECでは2013年から統合報告書を作成されています。統合報告書の主な読み手である投資家はNECの報告書をどう見ているのか、CSRJAPAN(※1)編集長 猪又がファシリテーターを務め専門家との対談をした様子を3回に分けてお届けいたします。
ご参加いただいたNEC統合報告書制作ご担当者は、CSRコミュニケーションを担当される大田様、IR業務を担当される林様、福本様の3名。ご意見をいただいた専門家はお二人。IIRCで統合報告書のフレームワークの設計に携わった森氏、日本語や文化にも精通され大手企業のアニュアルレポートの監修を務めるフルフォード氏に、統合報告書を日本と海外の両方の観点からレビューしていただきました。ざっくばらんな意見に、目から鱗の発見がたくさんありました。
初回は、NECが統合報告書を作成された背景と森氏からのレビューをご紹介します。
第2回はこちら
第3回はこちら
(※1)CSRJAPAN・・・2010年11月4日~2017年6月29日までアミタ(株)が運営していたWebサイト。2017年6月29日以降は「おしえて!アミタさん」サイトに統合。
統合報告書を作ることになったきっかけは?
猪又:これから統合報告書を作りたいと考える会社も多い中、NECでは先進的に統合報告書を作成されています。本日は統合報告書を作成するに至った動機や背景を伺い、その後に投資家視点でのレビューを森さんに、海外投資家視点でのレビューをフルフォードさんより、お伺いできたらと思います。よろしくお願いいたします。早速ですが、統合報告書を作られた背景はどういったものでしたか?
大田氏: 従来、冊子としては、アニュアル・レポートとCSRダイジェストがありました。アニュアル・レポートの中にもCSRのページがあり、IR室とレポート制作の話をしていく中で、近年の統合報告の動きを議論していました。アニュアル・レポートとCSRダイジェストの内容も重なる部分が増えてきました。そのような状況の中、双方のレポートを手にした社長から「メッセージは一つでよい」との発言があり、統合報告に向けた議論を本格化しました。
福本氏:2013年4月に出した「2015中期経営計画」も一つのきっかけになっています。当社はこの中計で、社会ソリューション事業に注力し、社会価値創造型企業への変革を進めていくことを掲げました。このメッセージは統合思考とも親和性が高く、統合報告も世の中的に盛り上がってきていたので、まずは合本化からやりましょうか、という話になりました。
猪又:2年目に力を入れた点はどういったところですか?
福本氏:2013年度は、前半は旧アニュアル・レポート、後半は旧CSRダイジェストと、単純に1冊にしたものだったのですが、今年は全体の構成から見直し、再構築しました。「経営方針」のパートでNECが社会ソリューション事業に注力することや、社会に提供する価値を説明し「価値創造を支える経営基盤」のパートでは「ガバナンス」を広い意味で会社を支える経営基盤と捉え、事業全体に横串を指すような形で構成し直しました。
大田氏:「事業活動をとおした価値創造」のパートの構成としては、初めに事業全般を俯瞰できる誌面とし、その次に各事業別のレビューの中で機会と脅威にも言及し、最後に個別の事業を具体的に示していく形で社会価値について訴求するようにしました。
森氏:2013年4月に出した中期経営計画の振り返りをする中で、社会価値創造とCSRをどうつなげるか、という話が出てきたかなと思いますが、いかがでしたか?
大田氏:社会価値をどうやって図るか、どう示せば効果的か、については課題です。お客様も含めて、社会にどのような価値を提供しているかを、どのような指標を使って示せばよいのか模索している段階です。現在、社会価値を測定する様々な試みがされている中、例えば、国連が提唱する指標などを参考にしていきたいと考えています。
画像:NECの日本語版統合報告書アニュアル・レポート2014
国内投資家の視点で「アニュアル・レポート2014」を読んでみる
猪又:では森さん、統合報告書をご覧になってのご意見・ご感想を お願いします。
森氏:統合報告書の構成が大きく変わったという印象を受けます。特に今年のレポートは、中期経営計画の進捗を事業別にレビューしながら、貴社の価値創造を支える経営基盤であるステークホルダーやガバナンスの面から再構築されたという点は評価したいと思います。IIRCでもそのような形を期待していましたし、年次報告書の統合化が進んでいるイギリスや南アフリカでの先進企業のものと同様の構成になっています。
また、そのような構成は投資家の視点とマッチしています。投資家は企業の収益性や成長性、さらにはリスクに関心があります。経営の方向性に関する情報から収益性と成長性についての示唆を得つつ、経営基盤に関する情報でリスクへの対応力を読み取ることができる。投資家と一口に言っても様々で、その立場によって重視する情報は多様なので一概に言えませんが、今回の報告書構成は投資家にとっても使いやすいレポートになっているのではないかと思います。また、財務面と共に、ESG、CSRという視点も含めて記載されているため、収益性やリスクを把握する上でより使いやすいものになっている印象を受けます。
報告書の中期経営方針では「社会ソリューション事業」「アジアへの展開」「安定的な財務基盤構築」という3つのテーマを取り上げていますね。この「社会価値」「社会ソリューション」という言葉は漠然とした言葉で、NECは具体的な目標設定ができていないのではないか、と指摘を受ける可能性がありますが、昨年のレポートでは具体性を持たせた見せ方ができていると思います。
IIRCのフレームワークでも統合報告書に含めるべき情報の構成要素を提示しています。現在自社がどういう経営環境でありどういう経営資源を持っているのか、社会課題をどう捉えその課題解決のためにどの経営資源で何をしていくのか、ということを具体的に見せていく、その先に事業としての成功であり投資家への財務リターンがどう生み出されるのか、企業価値の2面性を示していくことを提案していますが、御社の統合報告書ではそのための工夫をされていることが読み取れます。また、報告書を作る過程で、社会価値という視点で事業部門の横串を通していることが経営のインテグレーションにつながっていて、それを投資家へのコミュニケーションとして活用されるということは有効な方向性なのではないかなと思います。
画像コメント:インタビュアーのメンバー。まず森氏にコメントをいただきました。
社会課題に対してどう取組むか、ストーリーを見せる
森氏:構成は素晴らしいと思いますが、NECが解決していく社会課題に対して、なぜそのテーマを選んだのか、NECの持つ経営資源がどう課題解決につながっているのかは読み取りにくい状況になっていると思います。投資家は、なぜ会社がこの課題を重視するのか、対処のアプローチは裏付けのあるものか、成功に向けた蓋然性は高いか、といったことをしっかりと理解したい、納得感が欲しいと考えます。そういう意味で、同様に会社のステークホルダーであるお客様とは情報ニーズが異なります。投資家に対しては全体のつながりを丁寧に見せる必要があると感じます。
福本氏:社会課題に対して具体的にどうNECが取組んでいくかが課題ということですが、統合報告書として、まずはNEC全体のことについて書かなければという思いがありました。そうすると全体的な話が中心になってしまい、限られたページの中で個別事業の活動をどこまで踏み込んで書けるか、という悩みがありました。
森氏:一つの方法として「事業別レビュー」の位置づけを変えてみてはどうでしょうか。ここは本来、各事業部がどういう社会課題に対してどの経営資源をインプットし解決していくのかという話になるべきところですが、財務に関する情報と活動報告になってしまっている。取り上げる社会課題が各事業部門にどう落ちていてどう取組むかを書くべきです。
画像:NECのご担当者。白熱した意見交換になりました。
※第2回は森氏からのレビュー第2回とフルフォード氏による英語版統合報告書Annual Report 2014へのレビューをお届けします。
NEC統合報告書制作 ご担当者 プロフィール
大田 圭介(おおた けいすけ)氏
コーポレートコミュニケーション部 CSR・社会貢献室
マネージャー
1990年NEC入社。海外営業職などを経て、1997年から社会貢献部門、2004年からCSR部門に勤務。現在、レポーティング、調査対応、渉外などCSRに関わるコミュニケーション全般を担当。一般社団法人グローバル・コンパクト・ジャパン・ネットワーク(GC-JN)経営執行委員、分科会推進委員長(2011年~)。一般社団法人電子情報技術産業協会(JEITA)「責任ある鉱物調達検討会」委員(2011年~)。
林 菜々子(はやし ななこ)氏
経営企画本部IR室
主任
2000年NEC入社。2003年からNECエレクトロニクス(現ルネサスエレクトロニクス)にてIR業務に携わる。2011年からNEC IR室に勤務。
福本 充真(ふくもと みつまさ)氏
経営企画本部IR室
主任
2001年 NEC入社。コーポレートコミュニケーション部にて8年にわたり広報業務に携わった後、2009年から経営企画本部 IR室に勤務。
インタビュアー
森 洋一(もり よういち)氏
公認会計士、IIRC TTF
一橋大学経済学部卒業後、監査法人にて会計監査、内部統制、サステナビリティ関連の調査研究・アドバイザリー業務を経験。2007年に独立後、政策支援、個別プロジェクト開発への参加、企業情報開示に関する助言業務に従事。日本公認会計士協会非常勤研究員として、非財務情報開示を中心とした調査研究を行うとともに、国際枠組み議論に参加。現在、国際統合報告評議会(IIRC)技術部会(TTF-Technical Task Force)メンバー。
アダム・フルフォード 氏
フルフォードエンタープライズ CEO
出身:イギリス 来日:1981年
ランゲージコンサルタントとして翻訳、編集、テレビ番組制作、外国人観光客誘致に携わる。また、東アジア・日本・地方の文化的価値を持続可能なビジネスや生活につなげる活動に意欲的に取り組んでいる。
猪又 陽一(いのまた よういち)
アミタ株式会社
CSRプロデューサー
早稲田大学理工学部卒業後、大手通信教育会社に入社。教材編集やダイレクトマーケティングを経験後、外資系ネット企業やベンチャーキャピタルを経て大手人材紹介会社で新規事業を軌道に乗せた後、アミタに合流。環境・CSR分野における仕事・雇用・教育に関する研究。環境省「優良さんぱいナビ」、企業ウェブ・グランプリ受賞サイト「おしえて!アミタさん」「CSR JAPAN」等をプロデュース。現在、企業や大学、NPO・NGOなどで講演、研修、コンサルティングなど多数実践中。
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