コラム
株式会社富士メガネ|代表取締役会長・社長兼任 金井 昭雄 氏 シリーズ「経営者が語る創業イノベーション」インタビュー(第四回)経営者が語る創業イノベーション
創業者は、社会の課題解決のため、また、人々のより豊かな幸せを願って起業しました。
その後、今日までその企業が存続・発展しているとすれば、それは、不易流行を考え抜きながら、今日よく言われるイノベーションの実践の積み重ねがあったからこそ、と考えます。
昨今、社会構造は複雑化し、人々の価値観が変化するなか、20世紀型資本主義の在りようでは、今後、社会が持続的に発展することは困難であると多くの人が思い始めています。
企業が、今後の人々の幸せや豊かさのために何ができるか、を考える時、いまいちど創業の精神に立ち返ることで、進むべき指針が見えてくるのでは、と考えました。
社会課題にチャレンジしておられる企業経営者の方々に、創業の精神に立ち返りつつ、経営者としての生きざまと思想に触れながらお話を伺い、これからの社会における企業の使命と可能性について考える場にしていただければ幸いです。
(公益社団法人日本フィランソロピー協会理事長 高橋陽子)
株式会社富士メガネ「経営者が語る創業イノベーション」インタビュー
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ナンセン難民賞から10年
高橋:富士メガネさんは、第1回目の難民支援のあと、翌年1984年からは、UNHCRとの協力のもとに支援活動を継続していらっしゃいます。タイ、ネパール、アルメニア、アゼルバイジャンなどで、すでに30年以上になりますね。2016年も5月にアゼルバイジャンに2週間、いらしたとか。
金井氏:親子3人と社員3人の6人で行こうと、1年前から準備していました。オプトメトリストのふたりの息子(※1)と行くのは、初めてです。わたしの夢でもありました。
(右より四人目が金井氏)
高橋:ついにその夢が実現ですね!2代3人のオプトメトリストは珍しいのではありませんか。
金井氏:そうみたいです。ところが4月2日に、ナゴルノ・カラバフで軍事衝突があり、何十人も死亡したと報道されたんです。その後2、3週間で状況は落ち着いてきたけれど、チームの安全も考えて迷いましたが、衝突は局地的だということで行くことにしました。
それともうひとつ、毎年10月3日に、スイス・ジュネーヴで、UNHCRの「ナンセン難民賞」授賞式があります。そこで、わたし自身の受賞から10年、まだ現役でやっている事例としてスポットライトを当てたいと、本部から現地取材を依頼されていたんです。取材スタッフも来るので、行かない訳には行きません(笑)。その活動の映像が、授賞式で紹介されました。
※1 長男は金井宏将氏(富士メガネ副社長)、次男は金井邦容氏(カリフォルニア大学
バークレー校オプトメトリースクール研修医管理部長 臨床助教授)
UNHCRに総額100万ドルの寄付
高橋:富士メガネさんでは、送ったメガネは約15万組。回数は34回以上、参加した社員ボランティアは延べ177名。こうした活動だけでも真似できないのに、驚いたのは、2013年には、海外難民支援におけるUNHCRとの協働関係30周年を記念し、10年間で総額100万ドルの寄付を発表されたこと。百万ドルといえば、一億円以上です!
金井氏:売上金の一部から毎年10万ドルで10年間。すでに4年間やりました。
高橋:きっかけは、どのような?
金井氏:当時の国連難民高等弁務官アントニオ・グテーレスさんが、シリア問題が起きたときに、資金が必要だというので寄付を申し出たんです。
高橋:グテーレスさんといえば、今度、潘基文さんの後任で、国連事務総長になる方(※2)です。
※2 2017年1月1日付で、アントニオ・グテーレス氏は国連事務総長に就任されました。
金井氏:ええ、ポルトガルの元首相で、小柄ですがエネルギーのある方です。彼の想いは、まさに難民がテーマですから、問題解決に全力を尽くしてやるというメッセージは、力強いですね。
高橋:世界では、難民問題がますます深刻化していて、いまや過去最悪の難民危機となっています。
金井氏:グテーレスさんは、企業が独自のサービスやファイナンス面でサポートしてくれる関係は、大歓迎だと喜んでくれました。普通、ドナーは目的を限定するんです。例えば1千万で教育に使えとか、どこの国の何に使えとか。これだと会計処理が難しく、報告書が必要です。わたしは「好きなように使ってください」と言ったので、さらに喜ばれました。
7月に、UNHCRの副高等弁務官が来日し、日本の民間企業とのパートナーシップを強化するためのシンポジウムがありました。富士メガネは「国連グローバル・コンパクト 」に加盟しローカルネットワークの理事でもあるので、わたしはそこで実例として話をしましたが、日本では、現場を知らないこともあって、難民危機への理解がまだ深まっていない現状があります。
今度、ニューヨークに行ったときには、グテーレスさんに会いたいですね。
高橋:嬉しい再会になりますね! 最後に、未来に向かっての抱負を、お聞かせください。
金井氏:来年も予定しているので、親子3人揃ってミッション(※3)に行ければいいと思います。世界情勢が変化しているので、将来はどうなるかわかりませんが、メガネを送るなど、行かなくてもできるサポートもあります。ビジネスとしては、価格競争が厳しい世界ですから、既存店レベルで、堅実にお客様の数を伸ばしていけるよう、支持される会社にしなくてはと思います。
※3 ミッション...1984年からUNHCRと協働し実施している海外難民への視力支援活動
高橋:店舗には募金箱(※4)や支援の様子の写真などもおいていらっしゃいます。本業と社会貢献がいい好循環になり、社員が誇りを持ち、顧客や地域から信頼されるプロセスがよく理解できました。
金井氏:難民への視力支援の体験をすると、メガネの持つ力、仕事の本質、社会的使命がわかりますから、会社の社風とか、仕事に取り組む姿勢がしっかりしてくると思います。
高橋:「モノが見えることで、人生を助けることもできる」と創業者の金井武雄さんが、常々おっしゃっていたそうです。オプトメトリスト(検眼医)としての仕事の意義と使命をしっかりと心に刻んで、難民への支援活動を誠実に、力強く推進してこられた金井さんの想いと覚悟にノックアウトされました。
今日はありがとうございました。
※4「国連難民募金箱」と盲導犬育成支援「ミーナの募金箱」を設置。
(2016年12月6日札幌市内、株式会社富士メガネ グランドホテル前店にて)
話し手プロフィール
金井 昭雄(かない あきお)氏
株式会社富士メガネ
代表取締役会長・社長兼任
1942年樺太豊原市生まれ。1966年早稲田大学商学部卒業。1972年サザン・カリフォルニア・カレッジ・オブ・オプトメトリー卒業。カリフォルニア州オプトメトリー営業ライセンス取得。
1973年日本に帰国、富士メガネ入社。1996年富士メガネ社長就任。2006年富士メガネ会長に就任、国連難民高等弁務官事務所 「ナンセン難民賞」で日本人初の受賞。2007年富士メガネ会長・社長を兼任。
2009年緑綬褒章を受章。2012年渋沢栄一賞を受賞。
日本眼鏡技術者協会会長代行、WCO(世界オプトメトリー会議)理事、WOF(世界オプトメトリー財団)理事、APCO(アジア太平洋オプトメトリー会議)会長などを務めた。
現在、富士メガネ「海外難民・国内避難民視力支援ミッション」代表、グローバルコンパクト・ジャパン・ネットワーク理事、国連UNHCR協会理事、マーシャル B.ケッチャム大学(米国カリフォルニア州)理事
※「2017年1月、2017年ナンセン難民賞候補者ノミネートのプロモーションとして、視力支援活動を紹介した映像が、UNHCR本部のFacebook上で公開される。」
https://www.facebook.com/UNHCR/videos/10155926635978438/
聞き手プロフィール
高橋 陽子 (たかはし ようこ)氏
公益社団法人日本フィランソロピー協会
理事長
岡山県生まれ。1973年津田塾大学学芸学部国際関係学科卒業。高等学校英語講師を経て、上智大学カウンセリング研究所専門カウンセラー養成課程修了、専門カウンセラーの認定を受ける。その後、心理カウンセラーとして生徒・教師・父母のカウンセリングに従事する。1991年より社団法人日本フィランソロピー協会に入職。事務局長・常務理事を経て、2001年6月より理事長。主に、企業の社会貢献を中心としたCSRの推進に従事。NPOや行政との協働事業の提案や、各セクター間の橋渡しをおこない「民間の果たす公益」の促進に寄与することを目指している。
主な編・著書
- 『フィランソロピー入門』(海南書房)(1997年)
- 『60歳からのいきいきボランティア入門』(日本加除出版)(1999年)
- 『社会貢献へようこそ』(求龍堂)(2005年)
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