コラム
減少する水産資源の現状とビジネスのこれからWWFジャパンが語る!企業に求められる水産サステナビリティ
3年後に東京で開催されるオリンピック・パラリンピック大会をめぐり、水産物の持続可能性と認証制度についての議論が熱く交わされるなど、食料品に関する環境配慮すなわち「サステナビリティ」が注目されています。本コラムでは、水産資源に関わる企業の方に向けて「水産資源の現状と企業に求められる行動」をテーマに、7回に分けて紹介します。今回は、減少する水産資源の現状を中心にお伝えします。
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増大する水産物の消費量と養殖業の広がり
世界的に水産物の消費量は年々増大しています(図1)。これは人口増加に加え、生活水準の向上や健康志向への変化、加工や輸送技術の向上により魚を食べる人と機会が増えたことが要因とされています。1990年代から天然の漁獲量が横ばいなのに対し、養殖による生産量は水産物に対する需要に応えるため、増大しており、2030年には天然魚の漁獲量に追いつくと予測されています。養殖業は世界で最も成長が著しい産業と言われているのです。
一方「世界一魚を消費する日本」と言われたのは今や昔。国連食糧農業機関(FAO)の統計によると、日本国民1人当たりが消費する水産物の量は世界でなんと12位(図2)。魚離れが進んでいることがうかがえます。とはいえ、国全体でみれば中国、インドネシア、アメリカ、インドに次ぐ5位、輸入金額でみればアメリカに次ぐ2位と、日本がまだまだ多くの水産物を消費し、かつ海外に依存していることが分かります。(図はクリックすると大きくなります。)
図1. 世界の魚類生産量とその推移予測 |
図2. 一人当たりの食用魚介類消費量 (FAO Fishstat) |
[参考]
World Bank (2013) Fish to 2030 : prospects for fisheries and aquaculture.
マグロが食べられなくなる日?減少する水産資源
WWFが2015年に発表した「生きている地球レポート海洋版」によると、海の生物多様性指数は1970年を基準として39%の減少、人が利用する魚種については50%の減少、マグロやカツオなどのサバ科魚類にいたっては74%も減少したとされています(図3)。多様性指数が減少した要因は、沿岸開発やレジャー利用、海水温の上昇などもありますが、水産業による影響も見過ごせません。
水産庁では日本近海の50魚種84系群の資源量を評価しています。最新の評価によると、約半数が低位、すなわち枯渇またはその危険性があるとしています(図4)。一方、マグロのような排他的経済水域を超えて移動を行う回遊魚は国際協力のもと資源評価が行われており、22魚種41系群のうち約3分の1で低位と評価されています(図5)。この中には、太平洋のクロマグロとメバチ、そしてミナミマグロも含まれています。これらの種は国際自然保護連合(IUCN)によって絶滅危惧種に指定されています。すべての魚種が減っているわけではないものの、この先、安心して食べられる状態とは言えないようです。(図はクリックすると大きくなります。)
図3. 海洋生態系の生物多様性指数(WWF & ZSL 2015)
図4. 日本周辺の資源水準の状況および資源水準の推移 |
図5. 国際資源の現況 (国立研究開発法人 水産研究・教育機構) |
[参考]
WWF International and Zoological Society of London (2015) Living Blue Planet Report 2015.
http://abchan.fra.go.jp/index1.html
http://kokushi.fra.go.jp/index-2.html
水産業に関する課題とビジネスのこれから
水産業に対しては、以下の課題が指摘されています。天然漁業による環境問題については、過剰漁獲の他にも様々な問題があります。その一つが漁獲対象ではない生物を捕獲する混獲です。ある推計によると海鳥は延縄漁で32万羽、刺し網漁では40万羽が犠牲になると言われています。一方、限られた範囲で多くの生物を飼育する養殖業では、餌の食べ残しや排泄物などにより環境の汚染が進みやすく、また病害虫が発生すると蔓延の原因にもなります。さらに餌の原料として大量に漁獲されるペルーカタクチイワシなどの小型魚の資源枯渇も問題視されています。
資源の減少がこのまま続くと、資源の入手が困難になったり、価格が高騰したりという状況が想定されます。世界的に拡大する水産物需要を視野にビジネスを考えるなら、サステナブルであることはもはや必須条件です。サステナブルな認証水産物の世界シェアは2015年の段階で14%を超えており、今後も生長する市場と見られています。米ウォルマートを始め、コストコ、イケアなどグローバル企業では率先して調達方針に認証製品を軸としたサステナビリティを取り入れており、国内でもオリンピック大会を控え同様の動きが加速すると予測されます。次回は水産物の認証制度の紹介と、企業が取り扱うことのメリットを解説いたします。
[参考]
Orea R. J. Anderson, Cleo J Small1, John P. Croxall, Euan K. Dunn, Benedict J. Sullivan, Oliver Yates and Andrew Black (2011) Global seabird bycatch in longline fisheries. ENDANGERED SPECIES RESEARCH Vol. 14: 91-106.
Ramunas Zydelis, Cleo Small and Gemma French (2013) The incidental catch of seabirds in gillnet fisheries: A global review. Biological Conservation 162 (2013) 76-88.
Jason Potts, Ann Wilkings, Matthew Lynch and Scott McFatridge (2016) State of Sustainability Initiatives Review: Standards and the Blue Economy. IISD.
執筆者プロフィール
前川 聡(まえかわ さとし)氏
公益財団法人世界自然保護基金ジャパン(WWFジャパン)
自然保護室海洋水産グループ
北海道大学大学院後期課程修了後、2001年にWWFジャパンに入局。沿岸環境の保全を中心として、渡り鳥、サンゴ礁、海洋保護区などの調査や保全活動に従事。2011年より水産分野、特に国内における養殖業改善プロジェクトとASC認証の普及に携わる。
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