コラム
敷島製パン株式会社|代表取締役社長 盛田淳夫氏 シリーズ「経営者が語る創業イノベーション」インタビュー(第三回)経営者が語る創業イノベーション
創業者は、社会の課題解決のため、また、人々のより豊かな幸せを願って起業しました。その後、今日までその企業が存続・発展しているとすれば、それは、不易流行を考え抜きながら、今日よく言われるイノベーションの実践の積み重ねがあったからこそ、と考えます。
昨今、社会構造は複雑化し、人々の価値観が変化するなか、20世紀型資本主義の在りようでは、今後、社会が持続的に発展することは困難であると多くの人が思い始めています。企業が、今後の人々の幸せや豊かさのために何ができるか、を考える時、いまいちど創業の精神に立ち返ることで、進むべき指針が見えてくるのでは、と考えました。
社会課題にチャレンジしておられる企業経営者の方々に、創業の精神に立ち返りつつ、経営者としての生きざまと思想に触れながらお話を伺い、これからの社会における企業の使命と可能性について考える場にしていただければ幸いです。
(公益社団法人日本フィランソロピー協会理事長 高橋陽子)
敷島製パン株式会社「経営者が語る創業イノベーション」インタビュー
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たすきをつなぐ責任
高橋:前回では「日本の食料自給率の向上を目指す」と高くアドバルーンを揚げたところ、幸運にも「ゆめちから」と出会うことになりました。さっそく盛田社長は北海道に出向いて、生産者の方や製粉業、農協や行政の方に直接「ゆめちから」の素晴らしさを伝えることで「国産小麦で自分たちのパンを食べてもらう」という夢に、みなさんがベクトルを合わせて連携ができたことを、うかがいました。
国産小麦の利用の裾野を広げる牽引役になろうと考える盛田社長は、どんなお子さんだったんですか?
盛田社長:平凡な子どもですよ。長男で、弟がひとりいます
私は、特に秀でた能力がある訳でもないし、自分の曾祖父からつながっている血をどう次世代につなげていくかと考えながら、この時代で自分ができることと果たすべき役割を、暗中模索していたところでした。そのときに、幸い「食料自給率の問題」に結びついた訳です。
高橋:帝王学みたいなものがあったんですか?
盛田社長:うちの親父は、どちらかというと、私には厳しい接し方をしていたと思います。
昔から口癖みたいに「うちの会社の商品は食品だ。パンは、お客さまが一口食べたら、すぐにおいしいかまずいか、いいか悪いかがわかるので、ハッタリやごまかしがきく商売ではない」と言っていました。それがベースとなり社風となっていて、まじめな会社だといえます。その意味ではあまり器用ではない。
高橋:実直なんですね。継がれる予定だったけれど、はじめは商社にいらしたんですね。
盛田社長:商社のときには穀物のビジネスで、アメリカとカナダから小麦を輸入する業務を担当していました。産地であるオレゴン州・ポートランドには一年滞在し、小麦について勉強もしました。
社長になってから2006年から2008年にかけて、世界の穀物事情が荒れた時期があり、相場が急激に上がったりしました。
特に2007年には、世界的な小麦の高騰が続きました。異常気象による収穫の減少などによって、価格が上がる一方で売り渋りもでました。そのときは、世界的な食糧の需給関係のなかで、必要なものが買えなくなることが起こり得るんだと実感しました。
特に日本は輸入に頼っているので「これで大丈夫なのか」と感じたことも、ひとつのきっかけになっています。
高橋:創業家として企業を継続し発展させていくことへの責任感は、非常に強くお持ちなのでしょうね。
盛田社長:私のなかでは、駅伝みたいなものです。
たすきをちゃんとつないでいくことが、大事なことだと思っています。自分のところで途絶えさせちゃいけないという責任感はあります。その区間を、どうつなげるか。なにもしないでは、企業の世界ではつなげない。
「ゆめちから入り食パン」の発展的解消と次へのステップ
高橋:四半期で成果をあげようと短期の数字を追うばかりに、企業の不祥事が起きているんだろうと思いますが、駅伝というのはいいですね。それもただつなぐのではなくて、チャレンジしてつなぐ。
「ゆめちから」は、最初は食パンでしたけど、菓子パンなどいろんな種類ができました。
盛田社長:昨年の1月末から、本格的に「ゆめちから」を含めた国産小麦の使用に取り組み始めました。主力商品の「超熟」※にも使っていますし「ゆめちから」を含めた国産小麦だけで作った食パン「超熟 国産小麦」もだしています。それ以外でも、2月以降は、ベーグルやその他菓子パン類を、リニューアルも含め定期的にだしています。
※「超熟」はPascoの主力商品で売上構成比の四分の一を占めている。量産化は難しいと言われた湯だね製法によるパンで、食パン部門ではトップシェア。(編集部)
高橋:最初に期間限定で300円で販売した「ゆめちから入り食パン」※は、やめられたんですね。
※2012年6月から一か月間、国産小麦使用食パン「ゆめちから入り食パン」を限定販売し、2013年4月からは通年販売になった。(編集部)
盛田社長:発展的に解消して「超熟 国産小麦」という超熟ブランドに変わりました。
「ゆめちから入り食パン」はひとつのテストマッチ。いろんな反響や声があり、それを社内で参考にしながらリニューアルしました。現在でもそうかもしれないけれど、いってみればトライアンドエラーの継続です。改良すべきは改良して、どんどんいいものにしていきたい。
高橋:スーパーで売っている食パンとしては高いけれど、それで進めることは大変だったのでは。
盛田社長:現実からかけ離れた値段設定にしても意味がありません。当時の国産小麦は外国産より価格が高く、2~3倍の値段でした。そのときにやれるベストな価格帯がこれだった訳です。それをみなさんにお諮りしながらやっています。
ある意味で、300円のテスト販売は敗戦でした。予定した計画の半分しか売れなかったんですから、やっぱり高すぎた。(笑)
趣旨には賛同できるけれど、毎日は買えない。それは素直なお客さまの声です。そのお客さまの不満であり期待に、どう応えていくかをテーマにやってきました。
「ゆめちから入り食パン」を発展的に解消して昨年4月から始めた「超熟 国産小麦」に関しては、300円のときを踏まえて実際価格は230円から260円くらい。そのハーフパックサイズが120から130円くらいで、これは徐々に伸びています。
社内自給率20%への挑戦
高橋:利益率はかなり低いですか?
盛田社長:これも、ひとつの牽引役です。
国産小麦の使用を拡大するという命題を持っているので、主力商品の「超熟」で薄く広く使い「ゆめちから」の生産量を拡大しています。その部分での国産小麦の「社内自給率」は、去年まではゼロに近かったのに、一挙に16%になりました。一方で、国の平均はまだ3%です。
去年、2015年の2月に、あるBSの番組に出たんですが「ゆめちから」のテーマの話でした。そこで「次の目標はなんですか?」と聞かれたので、なんの根拠もなく「2020年くらいまでには、社内での国産小麦の自給率を20%に持っていきます」と言ってしまいました。
高橋:そのことで、広報室室長さんから、BSで発表することも事前に知らなかったし、主力商品の「超熟」食パンに「ゆめちから」を入れることも突然の発表だったとお聞きしました。ドキッとすることが、多いそうですね。(笑)
こうして2008年の「日本の食料自給率向上に貢献する」に次いで、次の目標が宣言されましたが、非現実的な数字ではなさそうですね。
国産小麦の需要を拡大するという社会貢献を進めるなかで、会社の雰囲気とか、社員の方が変わったところはありますか。
盛田社長:去年本格的に始めてから、特に営業部隊からは「ゆめちから」のパンは企業戦略として価格より価値だということを訴えやすい商品であること。商品の意義、ストーリーやメッセージを伝えることのできる商品であることで、評価してもらっているみたいです。
(つづく)
話し手プロフィール
盛田 淳夫 (もりた あつお)氏
敷島製パン株式会社
代表取締役社長
1954年 愛知県名古屋市生まれ。敷島製パン創業者・盛田善平のひ孫にあたる。1977年 成蹊大学 法学部卒業。日商岩井㈱を経て、1982年 敷島製パン㈱入社。常務・副社長を経て、1998年 代表取締役社長に就任。
主な編・著書
「ゆめのちから 食の未来を変えるパン」 (ダイヤモンド社) (2014年)
聞き手プロフィール
高橋 陽子 (たかはし ようこ)氏
公益社団法人日本フィランソロピー協会
理事長
岡山県生まれ。1973年津田塾大学学芸学部国際関係学科卒業。高等学校英語講師を経て、上智大学カウンセリング研究所専門カウンセラー養成課程修了、専門カウンセラーの認定を受ける。その後、心理カウンセラーとして生徒・教師・父母のカウンセリングに従事する。1991年より社団法人日本フィランソロピー協会に入職。事務局長・常務理事を経て、2001年6月より理事長。主に、企業の社会貢献を中心としたCSRの推進に従事。NPOや行政との協働事業の提案や、各セクター間の橋渡しをおこない「民間の果たす公益」の促進に寄与することを目指している。
主な編・著書
『フィランソロピー入門』(海南書房)(1997年)
『60歳からのいきいきボランティア入門』(日本加除出版)(1999年)
『社会貢献へようこそ』(求龍堂)(2005年)
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