コラム
EUの新しい動向~廃棄物の世界から資源の世界へ~【後編】リレーコラム
昨年12月にエコプロダクツ展2015と同時開催した「法と実務セミナー」にて「EUの新しい動向~廃棄物の世界から資源の世界へ~」と題してご講演いただいた上智大学の織 朱實教授に、EUの廃棄物業界の背景・動向から日本の廃掃法の問題点や抜本改正まで、セミナーの40分間では語り切れなかった率直なご意見を伺いました。今回は後編をお届けします。
前編はこちら
インタビュアー:アミタ(株)主席コンサルタント 堀口 昌澄
日本とは異なる、サプライチェーンで議論できる環境にあるEU
堀口:日本と比較してEUの良い点はどこでしょうか?
織氏:EUはサプライチェーンでの話し合いがうまくできている点が良いですね。静脈産業として、フランスのヴェオリアのような大手の処理会社が存在しており、処理会社がメーカーと話をして、どういうリサイクルがしやすいのかなどの議論を交わす土俵があります。
一方で、日本は特に処理会社の立場が弱いですよね。メーカーと処理会社が「お客さん」と「業者」の関係になって対等な立場で話せていないので、政策の中に処理会社の意見が反映されにくくなっています。例えば分別をしっかりさせる、有害物質を除去するといった話題は現場の担当者間では出るかもしれませんが、排出側であるメーカーの上層部で話し合われることはほとんどありません。サプライチェーンでの話し合いがもっと活発になれば、日本のリサイクルの質や効率性は非常に上がると思います。
堀口:なぜ、EUはメーカーと処理会社が対等な立場でいられるのですか?
織氏:EUはもともと中古市場が成り立っているという背景があります。
日本のリサイクル原料の質はEUに比べて高いのですが、日本では原料として買い手がつかないことがあるのが現状です。しかし、イタリアやイギリスでは質が低いのに原料として買い取られている実績があります。なにより、処理会社が統廃合を繰り返しており、国をまたいで大規模な取引ができるほど力が大きくなっており、メーカーと対等な立場で交渉できるという違いがあります。
堀口:日本と異なる点としては他にも、EUではリサイクル方法を規格化する動きがあるようですね。「End of Waste」と関係する話でしょうか?
織氏:「End of Waste」というよりも、資源効率性(Resource Effeciency , RE)の話に関わってきます。サーキュラー・エコノミーパッケージ(Circular Economy Package , CEP : 循環型経済システム実現のために廃棄物の削減目標を設定して、資源の効率性を高めていこうという政策)が昨年12月に欧州委員会より提案されました。その中でリサイクル方法を規格化し、よりリサイクルが進みやすい運搬方法や処理方法を明確にしようという動きはあります。12月時点ではまだかなり理念的なところに留まっていますが、規格化されれば適正なビジネスを行うリサイクル業者にとって、より優位性が保てるしくみになるはずです。
その点、日本の優良認定はまだまだゆるいです。そういう観点から日本でも企業の自主的な取り組みとして、業界でJIS規格を作っていく方法はありだと思います。国際競争力をどう考えるかが鍵で、世界的に有利な技術や地位を守っていこうという意思があるなら規格化したほうが良いと思います。これには経済産業省が絡んでくるので、これからは環境省と経済産業省が一緒になって、環境政策と産業政策を統一的に資源という観点から議論していってもらえればと思います。
日本では廃棄物の定義で資源性が考慮されていない
堀口:日本の廃棄物処理法の問題点は何だと思いますか?
織氏:廃棄物の定義において廃棄物の資源性が考慮されていないため、リサイクル推進の障害になっていることが1番の問題点です。廃棄物か否かの判断には総合判断説を用いるように指示されており、潜在的に資源としての価値を有しているかが資源性のポイントですが、現実的に考えると自治体が判断するときは有価か逆有償かというような取引実態を判断基準にせざるをえない。これでは市場価格が変わると資源だったものが廃棄物に、廃棄物だったものが資源に変わり得るということになります。
堀口:廃棄物処理法の抜本改正はあるのでしょうか?
織氏:これから議論されると思います。廃棄物の定義はなんとか変えてもらいたいという気持ちはありますね。現状のように一般廃棄物だと自治体の責任、産業廃棄物だと事業者の責任という区分ではなく、物の性状で判断し、有害廃棄物以外はなるべく資源と分類されるような法律にしたいですね。
現在は罰則も強化しているので、今後は市場経済を利用した形に改正することや資源性を考慮して対応していかないと手詰まりになってしまうと思います。廃棄物処理法で資源になりにくいものは、個別リサイクル法で対応していますが、抜本にある廃棄物処理法をしっかり定義しておかないと矛盾がでてくるだろうと思います。
堀口:日本は個別リサイクル法が硬直化してしまっているように思いますが、それはEUも同じですか?
織氏:EUは方針が決まっているので日本よりも柔軟に個別法規を変えています。日本は既得権に配慮する姿勢が強いですが、日本以外の国はシビアに変更しています。
堀口:なるほど、日本とEUとの違いが大変よく分かりました。最後に読者に一言お願いします。
織氏:メーカーが排出したものが廃棄物ではなく、資源として使えるようにプロセス変換をすることや、資源として使えるような市場・ビジネスをつくることが排出事業者には求められます。
また、消費者の使い方や捨て方が原因で使用後の物が廃棄物になってしまっていることもあると思います。消費者に向けて情報発信を行い、コミュニケーションをしっかり取ってほしいです。
これから資源が無くなっていくことは間違いないので、廃棄物処理にコストをかけるのではなく、有効な資源を生み出すためのプロセスという発想で製品設計をすることが重要であり、そういうプロセスをつくれば、メーカーとしても生き残っていけると思います。
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話し手プロフィール
織 朱實 (おり あけみ) 氏
上智大学地球環境学研究科 教授(法学博士)
民間企業でリスクコンサルティング業務に携わった後、関東学院大学法学部教授を経て、2015年4月より現職。2006年より上海大学招聘教授、三井化学株式会社社外取締役等を歴任。経済産業省産業構造審議会、国土交通省建設リサイクル推進施策検討小委員会や各地方自治体などの審議会・委員会の委員として、環境法全般に関して専門的助言を行う。
聞き手プロフィール(執筆時点)
堀口 昌澄 (ほりぐち まさずみ)
アミタ株式会社 環境戦略デザイングループ
環境戦略機能チーム 主席コンサルタント(行政書士)
産業廃棄物のリサイクル提案営業などを経て、現在は廃棄物リスク診断・廃棄物マネジメントシステム構築支援、廃棄物関連のコンサルタント、研修講師として活躍中。セミナーは年間70回以上実施し、参加者は延べ2万人を超える。 環境専門誌「日経エコロジー」にも連載中。環境新聞その他記事を多数執筆。個人ブログ・メルマガ「議論de廃棄物」も好評を博している。大気関係第一種公害防止管理者、法政大学大学院特別講師、日本能率協会登録講師。
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