廃棄食品不正転売事件に排出事業者責任はあるか?―主席コンサルタント:堀口昌澄の視点!― | 企業のサステナビリティ経営・自治体の町づくりに役立つ情報が満載

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廃棄食品不正転売事件に排出事業者責任はあるか?―主席コンサルタント:堀口昌澄の視点!―リレーコラム

Some_rights_reserved_by_litl_1.jpg2016年1月に発覚した食品廃棄物の不正転売事件は社会に大きく報じられ、注目を集めました。このような不正転売事件があった際の排出事業者責任について、主席コンサルタントの堀口がケーススタディを用いて解説します。

事件の概要

今回の事件は、排出事業者が処理会社に処理費を払って食品廃棄物の処理委託をしたにもかかわらず、処理されずにスーパーで転売されていたというものです。委託した処理会社が直接スーパーに販売したのではなく、複数の仲介業者を経由しています。(※今回の事件で処理会社が食品メーカーからの廃棄食品以外に流通段階や小売店から出た売れ残りなどの「一般廃棄物」も受け入れていた可能性もあります。委託先の会社は一般廃棄物の許可を持っていませんので、事実なら排出事業者は無許可会社への委託で法律違反となります。)

処理会社による不正転売・横流しに関する事件はそれほど珍しくありません。古くは大手製薬メーカーの廃棄製品(化粧品)がインターネットのオークションサイトで大量に販売されていたことが発覚し、メディアに取り上げられています。表面化しないケースも多くあります。今回のようなケースが起きた場合の排出事業者責任について、特定の条件を設定して考えてみます。

考察の条件設定

排出事業者が「処理委託したものが横流しされてしまった」という状況で以下の条件を仮定します。

  1. 不法投棄のような環境への悪影響は発生していない
  2. 契約書作成などの委託基準マニフェストに関する違反はない
  3. 委託した排出事業者は処理会社のWebサイトも確認せず、現地確認もやっていない
  4. 委託先の処理費はとても安い

この場合に排出事業者にはどのような責任が問われる可能性があるでしょうか?

措置命令の対象になるか?

措置命令とは行政処分の一つで、生活環境保全上の支障が発生している(おそれを含む)場合に、その生活環境保全上の支障を除去せよという命令です。処理業者が行った不適正処理についても、排出事業者がこの措置命令を受ける可能性があります。具体的には「違反+生活環境への支障」がセットになると措置命令は発出されます。

ここでいう違反とは「委託基準違反」(法第19条の5) 「マニフェスト違反」(法第19条の5) 「注意義務違反」(法第19条の6)のどれかに該当していることです。上記条件の2.から「委託基準違反」や「マニフェスト違反」を根拠とした措置命令(法第19条の5)を受ける可能性はありません。

しかし、3.と4.から注意義務違反を問われて措置命令を受ける可能性があります。
参照:「行政処分の指針について」のp.29の「第9」

ポイントは不正転売や横流しが「生活環境への支障」になるかどうかです。
単なる不正転売や横流しでは、通常生活環境に支障は発生しません。(食品の安全や衛生は生活環境とは違います。)従って措置命令(行政処分)を受ける可能性はないでしょう。

つまり、今回の想定したケースでは排出事業者は廃棄物処理法上の罰則や行政処分も受けることはありません。しかし、これが不適正処理(違反が伴う)なら支障が生じます。その場合、3.や4.のような状況では「注意義務違反」を問われて措置命令を受ける可能性があります。もちろん、委託した廃棄物が横流しされたこと自体により、排出事業者が罰則の対象となることはありません。

「処理困難通知」による排出事業者の義務は?

ところが、今回は横流しされなかった廃棄食品が大量保管されており、悪臭の発生などの「生活環境への支障」が生じるおそれがあるため、処理会社に対して改善命令がだされました。しかし、処理会社は経営困難に陥っているためその命令の履行が難しく(おそらくは施行規則第10条の6の2第8号に該当したために)、排出事業者に対して「処理困難通知」が出されました。これによって排出業者は法第12条の3第8項により「生活環境への支障」を除去するなどの措置を取る義務が発生しました。

具体的には、廃棄食品の回収をすることになるでしょう。なおこの場合、排出事業者はその処理会社から返送されていないマニフェストがあれば、施行規則第8条の29に基づき、措置内容等報告書を排出場所を管轄する都道府県知事などに提出しなければなりません。

今回の事件は廃棄物処理の問題というより、リスクマネジメントの問題です。普通の廃棄物ではないのですから、普段の処理委託と同等の管理ではダメなのです。このような事件を回避するための対策や各社の動向については関連記事をご覧ください。また個人的な本事件の考察については、個人ブログ「議論de廃棄物」にて取り上げています。

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筆者プロフィール(執筆時点)

Horiguchi.jpg堀口 昌澄 (ほりぐち まさずみ)
アミタ株式会社 
環境戦略デザイングループ 環境戦略機能チーム

主席コンサルタント(行政書士)
産業廃棄物のリサイクル提案営業などを経て、現在は廃棄物リスク診断・廃棄物マネジメントシステム構築支援、廃棄物関連のコンサルタント、研修講師として活躍中。セミナーは年間70回以上実施し、参加者は延べ2万人を超える。 環境専門誌「日経エコロジー」にも連載中。環境新聞その他記事を多数執筆。個人ブログ・メルマガ「議論de廃棄物」も好評を博している。大気関係第一種公害防止管理者、法政大学大学院特別講師、日本能率協会登録講師。

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