コラム
第10回:アウトプットに関する環境戦略~リサイクルと持続可能社会~【後編】商品価値から企業価値へ~2030年の環境戦略の姿~
2030年の社会状況や環境制約を見据えたときに、企業はどのような環境戦略・価値創出を行っていくべきかをお伝えする、本コラム。前回は、企業活動のアウトプットに関わる「リサイクルと持続可能社会」を説明しました。第10回は、資源の廃棄に関するリスクについてご説明します。
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排出後に潜むリスク~適正処理に関する実態把握の重要性~
リサイクルあるいは廃棄する場合、資源加工や適正処理に費用が掛かるものは、排出した側がお金を払って処理委託先に物を渡します。ものとお金が両方相手に渡るため、委託先のサービス品質を確認することは物を購入する取引と比べて信頼性など適正な取引かどうかの判断が非常に難しくなってきます。
ゴム業界からは、タイヤ以外にも多種多様な廃棄物が発生しています。統計上リサイクル率が高いからといって全てが適正にリサイクルされているとは限りません。統計は「リサイクルする契約を結んだ事業者」に処理委託した数量です。しかし、契約を結んでもその通りにリサイクルされるとは限らないのです。(※ここではリサイクル原料として売却するのではなく、費用を払ってリサイクルしてもらうケースを考えます。)
実際、廃棄物処理法の手続きにのっとって契約締結され、マニフェスト伝票(産業廃棄物の処理状況を管理する伝票)が「最終処分まで完了した」として処理業者から返送されたにも関わらず、不法投棄された例は数多くあります。
例えば、ボイラーの排ガスの脱硫工程から排出される汚泥が不法投棄された事例があります。当該汚泥を中間処理した事業者が、中間処理後のモノを契約に記載されていないリサイクル会社に改めて委託し、その会社が不法投棄をしたのです。マニフェスト伝票は全て適切に記載されて返送されています。この状態では、委託した会社は不法投棄されたことに全く気づきません。不法投棄が行政や警察に察知されて、そこからさかのぼって調査が来た場合に初めて気づくことができます。
委託者(排出事業者)としては、不法投棄される前にその兆候を察知して、早めに対策を打つ必要があります。具体的な方法の1つは処理現場(リサイクル加工場)の確認(現地確認)です。廃棄物が大量に滞留していないか、現場の仕事はどうか、法手続きに則って処理が行われているかなどを確認します。もちろん、確認した現場とは違うところに不法投棄されてしまうと、見抜くのは至難の業です。しかし、現場の確認をしたということは、委託者として努力をしたということであり、法的にも一定の評価がされます。
不法投棄の責任の所在
不法投棄は持続可能な資源循環から最も遠い廃棄方法です。環境中に汚染物質が飛散することになり、不法投棄された土地の利用も長期間できなくなります。そこで廃棄物処理法は不法投棄を防止することと、必要に応じて撤去などの措置を取ることができるように設計されています。撤去などの義務を負うのは、第一に不法投棄実行者、第二にもともとの委託者(排出事業者)、第三に行政です。ここでは第二の委託者の義務について解説しましょう。
委託者は前述のように契約書を締結し、マニフェスト伝票を運用しなければなりませんが、これらを適切に行っていない廃棄物が不法投棄されると、撤去などの義務を負います。具体的には、措置命令、(撤去にかかる費用の)納付命令といった行政処分の対象となり、会社名が公表されることになります。適切な運用をしていたとしても、処理委託先の現場を確認していない場合はこの行政処分の対象となり得ます。前項で「法的にも一定の評価がされる」と言ったのはこのことです。
製品以外の副産物を処理・リサイクル委託する際は、どうしてもコスト削減メリットが優先されてしまいます。しかし、委託後のリスク管理が非常に難しいため、法律や環境に対する配慮がきちんとされている信頼できる企業パートナーを選定することが重要です。原材料の調達と違い、委託者がリサイクル製品や適正処理の状況を直接確認することがほぼないため、不法投棄は構造上起こりやすいのです。
最終的には、外部委託しても内部加工しても自社廃棄物を再加工して自社の原材料とすることが最もリスクを減らす方法の1つと言えそうです。そのため、現在も自社の廃棄物を原材料に利用する通称「リサイクルループ」の構築を検討する企業も少しずつ増えてきています。
さいごに
企業は、排出する廃棄物(副産物)をリサイクルすることで「資源の採取」と「資源の廃棄」を減らし、その結果社会全体の環境制約の進行を緩やかにします。そしてこうした取り組みを企業方針として打ち出すことで、より一層の技術開発が進み、リスク低減と企業価値の向上につながります。やむを得ず埋立処分・焼却などで廃棄する場合でも、現地確認などを通じて適切に廃棄されるような処理委託先を見つけることで、事業リスク低減につながり経営の持続可能性が高まると考えられます。
次回は海外における廃棄物リスクについてお伝えします。
※本コラムは(株)ポスティコーポレーションの専門誌「ラバーインダストリー 2015年12月号掲載」記事を一部改編して掲載しています。
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執筆者プロフィール
堀口昌澄 (ほりぐち まさずみ)
アミタ株式会社 CSRチーム主席
コンサルタント
1998年4月現アミタ株式会社に入社後、産業廃棄物のリサイクルの提案営業などを経て、現在は廃棄物リスク診断・廃棄物マネジメントシステム構築支援、廃棄物関連のコンサルタント、研修講師として活躍中。2013年より現職。セミナーは年間70回以上実施し、延べ参加者は2万人を超える。環境専門誌「日経エコロジー」に2007年より記事を連載、その他記事を多数執筆。個人ブログ・メルマガ「議論de廃棄物」も好評を博している。法政大学大学院 特別講師 日本能率協会登録講師 行政書士。
著書:「改訂版 かゆいところに手が届く 廃棄物処理法 虎の巻」 日経BP社 他
「廃棄物処理法のあるべき姿を考える」 環境新聞社
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