コラム
第8回:適切な資源管理を支える調達と環境認証【後編】商品価値から企業価値へ~2030年の環境戦略の姿~
2030年の社会状況や環境制約を見据えたときに、企業はどのような環境戦略・価値創出を行っていくべきかをお伝えする、本コラム。
前回は、企業の持続可能な調達についてご説明しました。第8回は、世界的な環境認証制度FSC®森林認証とMSC/ASC認証の現状紹介、またゴム業界にも関わりのある天然ゴムによるFSC森林認証を例にご紹介します。(FSC® N001887)
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生産者と利用者をつなぐ環境認証
環境認証は第三者認証と言われるしくみの1つです。第三者認証とは、規格を決め、それに適っているか(適合)を、第三者が確認(審査、認証)することです。第三者が審査し認証することで、客観的な評価がなされることから信頼性を保てます。皆さんよくご存知の環境マネジメントシステムISO14001などの認証も第三者認証の1つです。適切に調達された材を購買、利用することで、サプライチェーンを安定させ、知らないうちに森林の乱伐などに加担するリスクも回避できます。
認証する対象 | |
FSC | 森林管理とその適切な加工・流通 |
MSC | 天然の水産物とその適切な加工・流通 |
ASC | 養殖水産物とその適切な加工・流通 |
数ある環境認証制度の中に、FSC®森林認証(Forest Stewardship Council®、森林管理協議会)と、水産物の環境認証制度MSC認証(Marine Stewardship Council、海洋管理協議会)、ASC認証(Aquaculture Stewardship Council、水産養殖管理協議会)があります。いずれも資源管理とその適切な加工・流通に対する認証制度です。このFSC森林認証とMSC/ASC認証は現在、世界的にも拡大傾向にあります。
FSC森林認証とは、ラベリングによって消費者が環境的、社会的、経済的に適切に管理された森林から生産された製品を識別できる仕組みです。FSCには森林管理を認証する「FM(Forest Management:森林管理)認証」と、認証された森林から産出された林産物の適切な加工・流通を認証する「COC(Chain of Custody:加工流通過程の管理)認証」があります。
認証された製品には、ロゴマークがつけられます。またFSCには新規で建設・製造されるプロジェクト(建築物・土木構造物・イベントステージなど)そのものを認証する「プロジェクト認証」もあります。(写真はロゴマークがついたFSC認証製品)
2012年ロンドンオリンピック・パラリンピックの競技場でも、FSCプロジェクト認証が取得されています。また、2020年に開催予定の東京オリンピック・パラリンピックでも意欲的な環境配慮の目標が設定されているため、今後建設される関連建造物への適応が期待されています。
図 FSC ®森林認証のしくみ
潜在的リスクが大きい日本の木材製品調達
FAO『世界森林資源評価2010』によると、現在世界では1年間に四国と九州を合わせた面積に相当する森林が消失しています。日本は違法伐採由来の木材製品輸入推定量の日米英仏蘭5カ国比較中2位という不名誉な状況です。一方で日本は国土の約7割が森林であり、世界有数の森林大国であるにも関わらず、2013年木材自給率は28.6%(1955年は94.5%)です。大量の国内森林資源を放置して、違法伐採木材を購入しているとも言えるのです。
日本では未だ大きな流れにはなっていませんが、海外ではすでに大手メーカーが調達において環境破壊や人権侵害に加担したとして環境NGOのバッシングや不買運動で大きな損害を受けています。環境認証材を調達することはこれらの潜在リスクを下げることにも貢献します。
天然ゴムを使った森林認証ゴム製品
国際ゴム研究会(IRSG=International Rubber Study Group)発表データによると、2013年現在世界の天然ゴムと合成ゴムの生産比率は44:56です。生産比率の44%を占める天然ゴムはゴム樹から原料調達されます。この天然ゴムを使った製品にFSC森林認証のロゴマークが増えてきています。ゴム底の靴や炊事用のゴム手袋などです。
現在の合成ゴムは石油や石炭などの炭化水素を含む鉱物を原料としています。しかし、石油や石炭は再生不可能な資源であり、今後長期的には枯渇するリスクが高いため、長期的には天然ゴムの利用率は高まることが予測されます。また一部のゴム園は天然林を切り開いて作られたり、労働問題が発生したりと、天然ゴムであっても利用すべきでないものもあります。より安心できる天然ゴムを見分けるためのマークの1つがFSCです。日本のゴム製品のいたるところにも、FSC森林認証のマークがつけられる日が来るのではないでしょうか?
企業にとって今後はより一層確実な原料調達先の確保やリスク分散などを含めたサプライチェーン・マネジメントが重要になります。更にサプライチェーンに関わる取引先の社会的責任もマネジメントすることが世界的に重要視されています。そのために環境認証は非常に有効な手段の1つです。
次回は、企業の副産物(廃棄)に関する環境、経営との関係についてお伝えします。
※本コラムは(株)ポスティコーポレーションの専門誌「ラバーインダストリー 2015年10月号掲載」記事を一部改編して掲載しています。
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執筆者プロフィール
小川 直也 (おがわ なおや)
アミタ株式会社 環境認証チーム
タスクリーダー
2002年アミタ株式会社に合流。以来一貫してFSC 森林認証(森林管理認証、COC 認証)やMSC/ASC COC認証を始めとする環境認証審査を行っている。 また、環境認証のセミナー講師なども行っている。
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