コラム
第二回:企業・経営者は報告書をどのように活用すべきか?~ステークホルダー・エンゲージメントの実践~統合報告書を経営に活かすには?
2014年4月2日にアミタの年次報告書が公開されました。この年次報告書は、国際統合報告評議会(IIRC)技術部会(TTF-Technical Task Force)メンバーである公認会計士の森洋一氏にアドバイスをいただき、統合報告の流れを意識して作成したものです。
そこで今回は、森様に一般的な統合報告の背景や、CSRレポートを含む企業報告の意味、企業としての活用方法、ステークホルダー・エンゲージメントの実効性等について、アミタホールディングス(株)の常務取締役の藤原と対談していただきました。
統合思考とは?
藤原:では当社含め企業や経営者は年次報告書をどのように使っていくべきだと思いますか?
森氏:情報開示した社会課題に対する認識・意識・行動をいかにステークホルダーに読んでもらい、理解してもらい、ダイアログ(対話)を元に改善していくかが最大のポイントです。
アミタさんの年次報告書を例に説明させていただくと、3つの事業(地上資源、情報資源、地域資源)ごとに、まず社会課題の認識が明示され、顧客である企業・自治体・地域の課題にリンクし、その後、アミタが理想とする社会像があり、行動(ソリューション、価値提供)が書かれている。
もしここに、社会課題という前提の記載がなければ、情報の受け手に統一した解決すべき課題認識が醸成されず、事業に対する共感は生まれません。
藤原:森さんがおっしゃった認識・意識・行動は非常に重要ですね。私どもも、年次報告書の使い方、作成意図等をまずは社員にしっかり伝えるよう、動いていますが、正直、十分とは言えません。
森氏:IIRCは2013年12月に統合報告の国際フレームワークを公表しましたが、その基礎には「統合思考」と「統合報告」ということが述べられ、この2つの両輪となって好循環を生み出していくことが金融の安定化と長期的価値創造につながるとしています。
「統合思考」とは、幅広い視点から経営の方向性と課題について全体像を認識し、組織の構成員1人1人がなんのために行動しているのかを理解し、それを基盤に経営が実施されていくことを意味します。
そして「統合報告」では「統合思考」に基づく経営の方向性や成果が投資家に示され、共有されます。それによって、企業と投資家との間で、経営課題や戦略についての対話を深め、改善に向けた行動を取ることができます。
それは、まさに企業の中でも統合思考を深めることにつながります。貴社では、今年、統合報告を意識した年次報告書を作成されましたが、今まさにこの最初のサイクルを始めた段階にあると言えると思います。
真のステークホルダーエンゲージメントとは?
藤原:業務分掌による縦割りの狭い思考で仕事をしていると、総論賛成・個別反対、という現象が生まれます。まずは従業員が自社の年次報告書を読み込み、全体的な社会課題認識を統一した上で、商談等日々のステークホルダーとの対話で、自らが説明し、その反応を組織内にフィードバックし、経営陣はその報告をもとに次なる対策をうたなければならないと考えています。今年そこまでの良い循環の仕組みができれば一番いいのですが・・・。
森氏:まさにそれこそがステークホルダー・エンゲージメントだと思います。CSR報告の広がりを通じて、多くの企業で「ステークホルダー・エンゲージメント」と称する活動が実施・報告されていますが、CSR報告書等で記載されているものの多くは、専門家を呼び、対話会で意見交換するという内容が多いのではないでしょうか。
もちろんそれも、エンゲージメント手法の1つですが、それに限定されるものではありません。本来、企業は様々な形でステークホルダーとの対話をされているはずです。それはCSR部だけが実施するものではなく、人事部が従業員と、営業やCS部が顧客と、工場等の事業所部門が地域社会といったように、組織の様々な部門で日々エンゲージメントがなされているはずです。
エンゲージメントとは「目的をもった対話」という意味合いなのですが、このような継続的なエンゲージメントを、経営全体の意思決定にどう反映させていくのかということも統合思考を実現するうえで大変重要なことです。統合報告の国際フレームワークは、投資家向けの枠組みとしていますが、ステークホルダーとの対話を通じた経営課題の特定が強調されており、それは、このような考え方に基づくものです。
森氏:貴社の年次報告書の2つ目のポイントはコンパクトにできていることです。多くの企業のアニュアルレポートはp100を超えます。もちろん企業規模も関係しているのでしょうが、1ページの文字数も抑えられています。読者を意識したつくりになっていて読みやすいです。
やはりステークホルダーも時間が無い中で読み、判断するということで、分量をコンパクトにすることは重要です。アニュアルレポートの課題の1つは、情報が多すぎて、読むのが大変ということです。今回アミタさんの年次報告書は意図的に図をたくさん使っていますよね?p17の事業が認識する社会課題と理想像等は非常にわかりやすくビジュアルで表現されています。現状認識から経営の方向性をコンパクトに示したものだと言えると思います。
藤原:そうですか?我々は、文字もページも多いと思っていましたが(笑)。それでもインフォグラフィックス(※)など、少しでも伝わりやすいビジュアルは意識して作り進めてきました。ただ、もっとできるのではないかという反省はあります。そこは次年度に活かしたいと思います。
インフォグラフィックス...情報やデータを視覚的に表現したもの
関連情報
プロフィール
森 洋一 (もり よういち) 氏
公認会計士、IIRC TTF
一橋大学経済学部卒業後、監査法人にて会計監査、内部統制、サステナビリティ関連の調査研究・アドバイザリー業務を経験。2007年に独立後、政策支援、個別プロジェクト開発への参加、企業情報開示に関する助言業務に従事。日本公認会計士協会非常勤研究員として、非財務情報開示を中心とした調査研究を行うとともに、国際枠組み議論に参加。現在、国際統合報告評議会(IIRC)技術部会(TTF-Technical Task Force)メンバー。
藤原 仁志 (ふじわら ひとし)
アミタホールディングス株式会社 常務取締役
大手都市銀行、教育出版事業会社を経て2002年にアミタグループに合流。 現在はグループの事業開発、営業戦略、コミュニケーション戦略等を担当。
※2015年3月24日を持ってアミタホールディングスの役員を退任
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