コラム
NPOと協働でCSVに取り組むメリット -バリューチェーンの競争力強化と社会への貢献の両立-リレーコラム
前回は、企業がNPOと協働してCSVに取り組むメリットをBOPビジネスの事例をもとに説明しました。今回は、企業のバリューチェーンの競争力強化と社会貢献の両立をCSVで取り組む際にNPOと協働するメリットについて説明します。
バリューチェーンについて
バリューチェーンとは「調達→生産→物流→販売」といったそれぞれの業務が、一連の流れの中で相互依存しながら、活動ごとに付加価値(バリュー)を生み出していくシステムです。
企業のバリューチェーンは、天然資源やエネルギー、労働環境など、さまざまな社会的課題に影響を及ぼす一方で、逆にそれらの影響を受けます。
例えば、バリューチェーンの一部である取引先の従業員が劣悪な環境や不当な条件で働いていれば、生産性や品質が低下し、企業の評価や企業価値が下がる可能性があります。 また、バリューチェーン全体にわたって、エネルギーや資源が非効率に使用され、環境負荷を生み出していれば、企業は無駄なコストを払うことになり、さらに、資源、エネルギーの高騰などによりマイナスの影響を受けやすくなります。
このように、社会的課題は、企業のバリューチェーンに経済的コストを発生させ、マイナスの影響を与えます。しかし裏返せば、企業が、CSVとしてこれら社会的課題に取り組み、解決できれば、自社のバリューチェーンの最適化・効率化によって、企業の競争力強化と社会貢献を両立させることが可能となります。
NGO/NPOと企業の協働事例
バリューチェーンの観点からCSVに取り組む場合、企業が単独で行うのではなく、NPOと協働することでより効果的な成果を得られるメリットがあります。
例えば、ネスレは、プレミアム・コーヒー用の豆の調達に関して、サプライヤーのコーヒー農家をNGO/NPOと協働で支援することでCSVを実践しています。
プレミアム・コーヒー用の豆は、アフリカや中南米の貧困地域の零細農家が栽培しているのですが、これらの農家は、生産性が低く、作業環境も劣悪な中で、ネスレが求める品質のコーヒー豆を安定供給することが極めて難しい状況でした。そこでネスレは、こうした問題を解決するため「環境保護」「社会的公正」「経済的競争力」3つの側面で持続可能な農業の支援に関する知見の豊富なNGOレインフォレスト・アライアンスと共同で、農家に対する農業指導プログラムを実施しました。
プログラムでは、農家に対して環境を考慮し、水資源を守り、土地の土壌侵食を防ぐための持続可能な農法を指導するのと同時に、こうして作られた高い品質の豆には買い取り価格を上乗せし、農家のやる気を高める仕組み作りも行いました。
このプログラムを実施した結果、コーヒー豆の収穫高が増加し、高い品質のコーヒーが生産されるようになったことで、栽培農家の所得は増え、農地への環境負荷が減りました。そしてネスレは、品質の高いコーヒー豆を安定的に入手できるようになったわけです。
まさにこれは、企業がNGO/NPOと協働してバリューチェーンの観点からCSVに取り組んだ結果、自社のバリューチェーンが最適化・効率化し、企業の競争力強化と社会貢献を両立することができた良い事例といえます。
次回は、企業がNGO/NPOと協働してクラスター形成を行い、イノベーション創出の仕組みづくりを行う方法についてお伝えします。
▼「NPOと協働でCSVに取り組むメリット」連載コラム一覧
第1回:製品・サービスの提供
第2回:バリューチェーンの競争力強化と社会への貢献の両立
第3回:地域クラスター形成とイノベーション創出の仕組みづくり
執筆者プロフィール
鴨崎 貴泰 (かもざき よしひろ)
公益財団法人信頼資本財団
事務局長
1978年生まれ。千葉大学園芸学部緑地環境学科卒業。グロービス経営大学院卒業(MBA)。環境コンサルティング会社を経て、2009年信頼資本一般財団法人(現:公益財団法人信頼資本財団)に入職し、現在に至る。社会起業家に対する無利子・無担保融資事業や、共感する社会的事業に、多くの方が寄付を通じて参加・参画することができる助成プログラム「共感助成」事業の立ち上げ・運営の統括を行っている。また、社会起業家に対する経営相談会では年間50団体の経営相談に応じている。
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