コラム
今日からできる!社員を巻き込むCSR活動(その5)
CSR活動の指標を社内に開示する 今日からできる!社員を巻き込むCSR活動
前回は、活動を社内に広めることに関してお伝えしました。今回はCSR活動の成果指標を設けて社内に開示することの効果についてお伝えいたします。
一般的に、経営等に関わる重要な指標をKPI(Key Performance Indicators=重要業績評価指標)と言います。CSRに関するKPIは、世界的にもまだまだ発展途上で確立されていません。よって、関連ガイドラインに挙げられている指標から何をKPIとするかも、まだ試行錯誤の段階の組織が多いです。そこで、今回はCSRに関するKPIが社内の活動にどう影響するかをお伝えします。
指標は状況把握の重要なツール
もともとCSRのKPIは、ステークホルダー(投資家、消費者、経営者等)の判断基準として、財務諸表以外の「経済・社会・環境」に関する情報を開示すべきというトリプルボトムラインの議論から始まっています。これらを非財務情報と言います。ですので、議論の中心は対外的発信でした。しかし、非財務情報を開示することは、従業員という社内の利害関係者に対しても重要な効果を促します。KPIには様々な効果がありますが、今回は「他部門、他者との差(自らの取り組みは相対的にどうなのか?)が明確になる」という点についてご説明します。
指標が公表されない場合、CSR活動に協力的な社員がいても、自分の取り組みがどれだけ全体に寄与しているかがわかりません。それでは、なかなかモチベーションが継続しません。目標設定があり、進捗状況、達成度合いが分かれば、日々の活動を改善したり、他部署のノウハウを自発的に真似たりすることもできるでしょう。簡単に言えばPDCAが機能します。
例えば、省資源の取り組みの一つに紙の使用量削減を行う場合、最終的な削減結果(枚数や費用削減)は集計されるはずです。そのようなデータを、部署単位、個人単位で随時社内に公表している企業は、うまく進んでいる部署とそうでない部署が一目瞭然となります。
そのため取り組みが活発化され、自発的に切磋琢磨する傾向が見られます。さらに取り組みを盛り上げている企業は、優秀者に表彰制度を設けているところもあります。 この際に、トップランナーを賞賛するのか、ボトムを指導するのかの手法選択は、その活動に何を期待するかですので、第3回の記事を参考にしてください。
試行錯誤でも良いのでまず指標化してみる
あるCSRの成果指標の変化が、企業経営にどのような影響があるかという因果関係を明確にすることは重要です。しかし、最初はそのロジックが不明確なケースは多いです。その場合は、目的達成に関連すると思われる事象を列挙し、複数の因果関係を仮説だてて、課題を設定し、しばらく数字を取り続けてみることも必要です。
例えば、目的が「社員が自らの長所を活かし、いきいきと働ける組織作り」だった場合、ある社員が「いきいきしている」かどうかの判断指標の設定は難しいと思います。その場合でも、上司にほめられている数が多いと良いのでは?体調不良による遅刻、欠席の数が多いといきいきと働けていないのでは?といった仮説から数字をとってみることは重要です。「ありがとうと言った数」や「お客様にありがとうと言われた数」等を指標にしている会社もあります。
こういったプロセスを指標化するノウハウは、明確な成果指標を持ちづらい部門が蓄積していることが多く、総務、人事等管理部門や販売促進、研究開発部門等に相談してみるのも良いでしょう。 大事なことは、仮説が正しかったかどうかを結果から振り返り、翌年の指標を改善したり、課題の抽出を明確にしたりしていくことです。
指標と対話は共に必要である
当然のことながら、CSR活動は数字の上下だけでは良し悪しを語ることはできません。 例えば、従業員の女性比率が低いという事象を考えてみます。図で示しているとおり、この事象の原因がそもそも採用時の比率の偏りにあるのか、女性社員が多く離職するからなのかによって、全く課題が異なります。その場合は当然重視するべき指標も異なってきます。採用後に女性社員が減っていくことが課題なら、女性社員の離職率減少を追及していくべきですし、採用時から女性社員が少ないのでしたら、女性の採用率向上を追及していくべきです。
ただし、そもそも従業員の女性比率が低いことが経営やステークホルダーにどのくらいの影響があるかを明示することが最初に行われているという前提でのお話です。 現状はもう少し因果関係が複雑でしょうが、お伝えしたいことは、定量的な指標の背景にある事象(課題)が違えば、関連させる指標や、課題解決の方法も全く異なるということです。課題抽出のためにも対話は重要な手法ですし、指標の因果関係が正しいかどうかもまた、対話によって詳細に調べていくことが重要です。 また、従業員女性比率が少ないことを当事者の女性従業員自体が不満に思わず、満足している状況もあり得ます。その際は対話等の定性的情報をとるのが良いでしょう。社内だけでなく、その会社を志望している女性(女性の学生や転職希望者)もステークホルダーといえますので、そこにマイナスの影響が出ていないかどうか、配慮が必要な場合もありえます。
想定される今後の報告の流れ
企業の情報開示は、指標が乱立し、情報の関連性が欠如しているという指摘や、情報の取捨選択の必要性があるという意見も増えてきており、今後は簡潔な報告と因果関係の説明が重要となります。その流れから様々な情報開示(IR,環境,CSR等)を統合した統合報告の流れも進んでいます。
同時に、担当者には経営への因果関係の明示を行う力が必要とされます。 今までは情報開示責任に重きをおいて網羅的に開示する流れもありましたが、今後はより利害関係者に理解してもらう説明責任が重視されていくでしょう。そのような観点で各社がどのような指標を開示しているのかを一度ご覧になってはいかがでしょうか?
執筆者プロフィール
蝦名 裕一郎
アミタホールディングス株式会社
経営統括グループ 共感資本チーム
アミタ株式会社に入社後、コンサルティング部門を経て、企業の環境教育活動のプロデュース、省庁との地域活性化支援事業の運営等に携わる。 ソーシャルビジネスに関する新規事業部門を経て、現在はCSRレポートの横断検索サイト「CSR JAPAN」の運営とCSRコミュニケーションの分析、コンサルティング業務に従事。
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