コラム
いまさら聞けない「企業と生物多様性」(その1)-世界の動きと企業の現状本多清のいまさら聞けない、「企業と生物多様性」
はじめまして。今回から「企業と生物多様性」というテーマで本連載コラムを担当させていただく本多です。どうぞよろしくお願いいたします。
政府や自治体への課題が、いよいよ企業にも
2010年に名古屋市で開かれた第10回生物多様性条約締約国会議(COP10)が終わってはや1年あまり。「あれは一体なんだったのかよく判らないけど、とりあえず嵐は通り過ぎたみたいだからしばらく放っておこう」と考えている方が少なくないと思います。
しかしCOP10は一過性のお祭りのようなものではなく、国際条約として日本政府が世界に約束した「宿題」をしっかり残して幕を閉じ、そして早くも次の舞台の幕開け、つまり「宿題の提出日」に向かっているのです。宿題は早めにとりかからないと、後でとても残念なことになるのはいつの世でも同じです。
「でも宿題をやるのは行政でしょ?」と思っている方、違いますよ。宿題は皆さん方、企業の経営者や環境・CSR部門の担当者にもしっかり出されているのです。
「え、どんな宿題だっけ?」と、心配になりますよね。では、その宿題の内容を確認してみましょう。
COP10では様々な決議がなされましたが、大きな流れとしては「愛知目標(愛知ターゲット)」という世界共通の中長期的な目標が採択されています。
具体的な内容は20の項目からなり、【目標4】では「遅くとも2020年までに、政府、ビジネス及びあらゆるレベルの関係者が、持続可能な生産及び消費のための計画を達成するための行動を行い、又はそのための計画を実施しており、また自然資源の利用の影響を生態学的限界の十分安全な範囲内に抑える。」と明記されています。
また、民間セクター、つまり企業向けに特定された「宿題」としての決議も2006年のCOP8以降相次いでおり、COP10では、企業の自主的な参画を促す「ビジネス参画決議」が採択されました。
愛知目標に基づき、生物多様性への負荷を低減したり、優良事例を調べて参考にしたり、行動目標を立てて実行したり、その活動を広く一般に報告するなどの具体的な事項が推奨されています。
「なんだ〝推奨〞か、義務とか罰則を伴うとかいうレベルの話じゃないんだね」と胸をなでおろしてしまった方、甘いですよ。国際条約の遵守内容(つまり宿題)が藪から棒に義務化されるわけがありません。これは「確実に進められるステップの初期段階」だと認識するべきでしょう。そもそも、多くの企業が懸命に取り組んでいるCO2削減という課題も、別に義務や罰則といったレベルの話ではないですよね?
社会貢献か本業か ~意外と近い「トップランナー企業」への道~
では、どんな対策をどこからはじめればいいでしょうか。CO2削減と違い、成果目標を数値化できないのが生物多様性のややこしいところ、というのが多くの企業担当者の共通の悩みだと思います。
もっとも、調達ラインのグリーン化や、立地開発に伴う環境負荷の解消など、ビジネスや本業に直結する枠組みについては、ガイドラインを作成することはさほど困難ではありませんし、この点は早急に対処を進めておくことが大切です。ここは痛みをともなっても、短期的に利益につながらなくても取り組まなくてはなりません。
では、それさえやっておけば(つまり本業に関連した取組み課題をクリアしておけば)、もう生物多様性の課題はゴール達成、ということになるのでしょうか。
残念というか、それは企業が生存していくうえでの最低レベルでの課題達成ということにすぎません。いうなれば駅のホームで煙草が吸えなくなった程度のルール強化です。そんなものはあっという間に「常識」の範疇になってしまいます。そこから先の目標や課題こそが「人類共通の責務」として企業をターゲットに際限なく積み上げられていくもの、と認識しておくべきでしょう。
企業と生物多様性というと、社会貢献としての取組みはもう時代遅れで、本業での取組みこそが先端かつ重要事項、といった解釈をされている方もいると思いますが、それは誤解です。両者は互いに補完しあいながら進化と深化を重ねていくものであり、両者のバランス良い取組みを通じて、企業の社会的責任(CSR)を果たしていくと考えるべきです。
また、社会貢献活動での取り組みはハードルが低くて取組みやすいけれど、本業での取り組みはハードルが高くて実施困難、という風に考えているかともいらっしゃるかと思いますが、それも誤解だと思います。
本業における生物多様性への取り組みは、事業ガイドラインの作成など、業種を超えたある程度の共通手法が存在します。しかし社会貢献を含む、地域の課題に密着した活動は青天井です。やればやるほど、その上のテーマが広がっていくものです。
そんなものにどれだけコストをかけ続けられるか、ということで心配になる方も多いと思います。確かに、CSRを責務達成のための「コスト」と考えたら、生物多様性は企業にとってネガティブな課題にしかならないでしょう。そもそもそんな仕組みでは、生物多様性というテーマ自体が持続可能なものではなくなってしまいます。
しかし、企業の活力を強化する投資だと思えばどうなるでしょうか。企業が楽しみながら主体的に取組み、取組めば取組むほど企業が元気になり、皆から愛される存在になる。そういったものでなければ、生物多様性というテーマの目標を人類が達成することは不可能でしょう。
ずばり本質を突くと「生物多様性とは本業では少しだけ辛抱、しかしその他は楽しんだ者勝ち」なのです。もう少し突っ込んだ言い方をすれば「どちらにしても楽しみながら真剣に取り組む方法を見つけたり仕組みを作った者勝ち」ということです。生物多様性の分野でトップランナーとされる企業の取組みを見れば、その意味が自ずと分かってくるのではないでしょうか。
生物多様性、始めてみようか、と思ったら、仕方なく、ではなく、どうやれば楽しめるか、ということを念頭に取組み計画を立てるべきでしょう。それが、生物多様性でトップランナー企業になるための、一番の早道なのです。
※本コラムを執筆した本多主任研究員が生物多様性とビジネスチャンスについて寄稿した一般社団法人建設コンサルタンツ協会誌記事「生物多様性がひらく世界」も、ぜひご一読ください。
http://www.jcca.or.jp/kaishi/249/249_toku8.pdf
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執筆者プロフィール
本多 清 (ほんだ きよし)
株式会社アミタ持続可能経済研究所
主任研究員
環境ジャーナリスト(ペンネーム/多田実)を経て現職。自然再生事業、農林水産業の持続的展開、野生動物の保全等を専門とする。外来生物法の施行検討作業への参画や、CSR活動支援、生物多様性保全型農業、稀少生物の保全に関する調査・技術支援・コンサルティング等の実績を持つ。著書に『境界線上の動物たち』(小学館)
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