コラム
「CSR」×「投資」―研究者の視点 大阪国際大学教授 宮﨑哲也氏(1/3)リレーコラム
今回の連載では、CSR、マーケティング、IR等の研究を行っておられる、大阪国際大学教授の宮﨑哲也氏に、研究者の視点から「CSR」と「投資」の関係についてお伺いいたしました。
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ISO26000を視野に入れたレポート、長期的な競争優位や企業価値向上に直結するCSRの台頭
承知の通り、2003年頃からCSRやSRIなどの考えがアメリカから入ってきたわけですが、当初は「とにかくそういう動きに自社も乗り遅れてはならない」という半ば義務感から、CSR活動に取り組んだため、自社業務との連動性があまり高くなく、形式的な活動が独り歩きしていた感もあったように思います。
また、2008年のリーマンショック以降は、不況の煽りを受けて、あるいは環境負荷低減を名目として、報告書を減頁する傾向すら見受けられました。ただし、報告書(実物の冊子)をダイジェスト版にして、不足分をコスト負担の低いWeb版で補足するという動きが浮上したことも併せて指摘しておくべきでしょう。
その一方で、2010年11月に発行したISO26000を視野に入れた報告書も現れました。当然のことながら、今年はISO26000をベースとした報告書が増えてくることは間違いありません。
ご承知の通り、最近、欧米先進国では、アニュアルレポートとCSRレポートを統合する動きがあります。 このことは、それによって内容が希釈化されることがなければ、仕事で忙しい一般の個人投資家にとってはありがたい傾向と言えるかもしれません。
また、マイケル・ポーターが標榜する「競争優位のCSR戦略」やフィリップ・コトラーが提唱する「マーケティング3.0」を意識した自社の長期的な競争優位や企業価値向上に直結するCSRの台頭も、最近の見逃せない動きとして注目すべきでしょう。
ほんとうにチェック機能が作動しているか?それをいかに効果的に伝えるかが投資家へのCSRアプローチのポイント
当然のことですが、投資家にとって企業の健全性は死活問題です。 企業が不祥事を起こせば、当然、株価の急落、ひいては上場廃止の憂き目にあうことも少なくなく、投資家は多大な損害を被ってしまうからです。そのため、企業がどの程度、CSR活動に注力しているかも投資家が注目すべき重要なポイントの1つではあります。
ただ、極端な例ですが、いかに立派なCSRレポートを作成していたとしても、そこに嘘があれば、いつかは破たんすることになります。あるいはコーポレート・ガバナンスを強化するために、社外取締役を数多く入れたとしても、チェック機能が働かなければ、結局は絵に描いた餅になってしまうというわけです。
したがって、CSR活動においては、誠実な姿勢とチェック機能をいかに作動させるか、またそれをいかに投資家サイドに効果的に伝えるか、といったことがポイントとなると思います。
2つめのご質問に関しては、機関投資家も個人投資家も、基本的に求めるものは、先ほど申し上げたようなことに集約されると思います。ただし、機関投資家は個人投資家よりも長期取引を重視する傾向があるので、SRIファンドに限らず、CSRと経営のリンケージをより重視する傾向があると言えるでしょう。換言すれば、機関投資家にはよりステークホルダー・エンゲージメントが求められるというわけです。
一方、個人投資家は独自の調査能力に乏しいうえ、ネットトレーディングを主体とする人が多いので、Webで発信する情報の充実や分かり易さ、あるいは後で触れたいと思いますが、ソーシャルメディアとのかかわりなどがより重視されることになるでしょう。
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執筆者プロフィール
宮﨑 哲也 氏
大阪国際大学
国際コミュニケーション学部教授
福岡大学大学院商学研究科博士課程終了。CSR、マーケティング、IR等の研究を行う傍ら、経済、経営、自己啓発関係の執筆および講演活動を行っている。 『フィリップ・コトラーの「マーケティング論」がわかる本』(秀和システム)、『コトラーのマーケティング理論が面白いほどわかる本』(中経出版)、『図解でわかるM&A』(日本実業出版社)、『新しい大衆「ロウアーミドル」は、こうしてつかめ!』(PHP)など著書多数。
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