コラム
「CSR」×「ソーシャルビジネス」 ISO26000がソーシャルビジネスの定義を変える~「社会的責任」がもたらすチャンスとリスク~(3/3)リレーコラム
※本記事は「CSR Magazine」Webサイトに掲載された記事の転載です。(前回の記事はこちら)
ソーシャルビジネスの再定義
蝦名:ソーシャルビジネスといえば、ビジネスで社会の課題に取り組むことを言います。メディアの注目度も高まり、就職先としても徐々に人気が高まってきています。大手企業がCSRの側面からソーシャルビジネスを支援する動きも出ています。ではなぜISO26000の発行がソーシャルビジネスの再定義につながるのでしょうか?
それは先ほど述べた、人権、労働慣行、公正な事業慣行という、現在のソーシャルビジネスの議論に入っていない要素がISO26000に入っているからです。現状のソーシャルビジネスの議論は、組織が行っている事業がいかに社会的課題を解決しているか、また事業性を確立し、持続可能な経済活動と両立しているかという2点で論じられるケースばかりです。ソーシャルビジネスを行う組織の社員や取引先に対しての社会的責任はあまり述べられていません。
つまり、ソーシャルビジネスの社会性は顧客だけでなく、社員と取引先に対しても求められる時代になっています。その結果、現在ソーシャルビジネスを担っているとされている組織がソーシャルビジネスといえない場合が出てきます。
一方、一般に知名度が高くない国内の中小企業にも、社会的責任を果たしながら、社会的課題に対して事業を継続している企業があるということが最近注目されてきました。これらの企業は特にソーシャルビジネスであるということを自称せずとも、ISO26000が掲げるテーマを十二分に満たしている組織があります。そのため、ISO26000を基に自らの組織の取り組みを整理して、発信することで大きな認知を得て、新しいソーシャルビジネスの流れを作る可能性を秘めています。
モチベーションの高い組織の業績は高い
従業員に対する社会的責任を果たすことは企業競争力を強めることにもなります。バブル崩壊後の成果主義の際に、業績を目的とし至上命題とする風潮がありましたが、最近では社員が高いモチベーションを保ち、顧客満足度を上げた結果が業績であるということが明らかになってきました。つまり、業績が高いから従業員のモチベーションが高いのではなく、従業員のモチベーションが高い組織の業績が高いというあるべき因果関係が再認識されています。
私の知る事例としても、事業型NPOが、公正な労働慣行を整備したことで、今までやめていた優秀な社員をひきとめ、サービスの質があがったというケースがあります。以上のように、現状ソーシャルビジネスと自称している組織も本当の意味でソーシャルビジネスなのかを問われると共に、現在ソーシャルビジネスとして認識されていない組織も、ソーシャルビジネスとして認識される可能性があります。
ビジネスは社会課題を解決する
蝦名: 再度述べますが、ISO26000は認証規格ではなく、ガイドラインです。だからこそ、組織の自主性が問われます。事業に必要不可欠な投資として、いち早く、かつ自主的な対応を行った企業にこそチャンスが訪れます。
一般消費者に知られていない組織であっても、ただそれを整理し、発信していないだけで、充分に社会的責任を果たしている企業がたくさんあり、そのような企業にとってISO26000は絶好のチャンスとなります。また、ISO26000を基に組織や事業の見直しを測ることで、企業の競争力をつけることも可能です。
ISO26000の発行は、バブル崩壊後、年功序列の仕組みと共に薄れてしまった、ビジネスにおける貢献の精神と「そもそもビジネスとは社会課題を解決するものである」という原点に回帰するきっかけとなるでしょう。
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執筆者プロフィール
蝦名 裕一郎
アミタエコブレーン株式会社
マーケティング事業部 マーケティングチーム
アミタ株式会社に入社後、人事部門でアミタへのエントリー者数を昨年対比3倍にする等成果を上げる。その後、コンサルティング部門で企業の環境教育活動のプロデュース、省庁との地域活性化支援事業の運営等に携わる。ソーシャルビジネスに関する新規事業部門を経て、現在はCSRレポートの横断検索サイト「CSR JAPAN」の運営とCSRコミュニケーションの分析、コンサルティング業務に従事。
個人ブログ「CSRが当たり前になる世の中に」
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