コラム
なぜ、土壌汚染の措置は掘削除去に偏るのか?(2)土壌汚染とのオトナな付き合い方
前回 「なぜ、土壌汚染の措置は掘削除去に偏るのか?(1)」 からの続き
3. 「基準超過がない土地」を求めることによる代償と影響
図2に土壌汚染地が売買が成立し浄化されるか、それとも売買が成立せずに未利用地になるかを、措置コストと措置コストの支払意思額からみた概念図を示します。
図2 土壌汚染地の措置コストと支払意思額からみた分類
これまでは、土地取引において土壌汚染調査が実施されるサイトは、東京はじめ地価が高い3大都市圏の土地、もしくは資力がある大企業の所有地が多かったため、所有者の措置費用の支払意思額(支払可能額:所有者の資力+土地の価値)が十分にあり、結果として「掘削除去費用」を支払うことができるケース(図2のA)が多い状況でした。つまり、
「所有者の土壌汚染措置費用の支払意思額(土地の価値)」 > 「掘削除去費用」
という式が成り立つケースが多く 、土地取引がストップするケース、その結果として企業の経営が悪化するケースは多くありませんでした。ここで、「所有者の支払意思額」は、当該サイトの地価、所有者の資力、環境に対するスタンス、汚染原因者かどうか等に影響を受けると考えられます。
しかしながら、最近、土壌汚染調査が、地価の低い地方都市や資力が乏しい中小企業に拡大しはじめたことから、「掘削除去費用」が支払えないケース、支払うと売却益が赤字になるため売却をしようとしないケースが増えてきました。つまり、
「所有者の土壌汚染措置費用の支払意思額(土地の価値)」 < 「掘削除去費用」
となるケース(図2のB、C)が目立つようになってきたのです。
これらの土地では掘削除去を採用する経済合理性が低くなり、掘削除去を採用すれば赤字になるケースもあります。一方、対象地には、汚染を残して管理すれば「不動産の価値」が低減するため、土地売買が成立しない、銀行からの融資が受けられない、という状況が生じます。
このような土地はどうなるか?
企業は売却もできないので、塩漬けの土地として持ち続けます。また、資力が乏しい企業が当該地を売却できず倒産した場合には、環境負債を抱えたまま管財物件となることもあります。このようにして、土壌汚染の存在やその懸念が原因となり低・未利用となる土地、所謂ブラウンフィールドが発生していくのです。
このように汚染がない土地を求めることによる生じる社会・経済影響としては、(1)資力が乏しい企業経営への影響、(2)土壌汚染に起因する塩漬け地(ブラウンフィールド)の拡大による地域社会への影響の二つの影響が懸念されています。ここで、地域社会への影響とは、自治体の税収・雇用の減少、治安・景観の悪化、さらに汚染土壌のリスク管理がされないことによる環境リスクの増大などを指します。
少し古いですが、環境省による「土壌汚染をめぐるブラウンフィールド問題の実態等について中間とりまとめ」 において、図-3のB,Cといった範囲に入る土地(潜在的なブラウンフィールド)の面積は日本で約2.8 万haと推定しています。また、この取りまとめの試算のベースとなった我々の研究によると、このような潜在的なブラウンフィールドは平成17年度の地価を用いた推定では全国に約8万サイト程度あり、地方都市ではその発生確率は20%を超える、と推定されています。
図3 不動産価値の保全のため、措置方法が掘削除去へ偏りにより生じる問題点のまとめ
注)
例えば、1000m2の土地のうち、全体の3割で深度2mまでの汚染(約600m3)があったとします。地価を、東京都の平均地価である25万円/m2、掘削除去単価を5万円/m3とすると、2.5億円の土地に対して、除去費用は0.3億円となり、土地の価値に対して措置費用が占める割合は12%となります。
■次回 「なぜ、土壌汚染の措置は掘削除去に偏るのか?(3)」 へ続く
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執筆者プロフィール
保高 徹生 (やすたか てつお)
京都大学大学院農学研究科 博士前期過程修了、横浜国立大学大学院 博士後期過程修了、 博士(環境学)。環境コンサルタント会社勤務、土壌汚染の調査・対策等のコンサルティング、研究を行う。平成19年度 東京都土壌汚染に係る総合支援対策検討委員会 委員。
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