なぜ、土壌汚染の措置は掘削除去に偏るのか?(1) | 企業のサステナビリティ経営・自治体の町づくりに役立つ情報が満載

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コラム

なぜ、土壌汚染の措置は掘削除去に偏るのか?(1)土壌汚染とのオトナな付き合い方

その原因と偏りによる社会・経済影響を考える

  1. 土壌汚染対策の理想と現実 -掘削除去がお好き?-
  2. 掘削除去が選択されるわけ -「不動産価値」と「環境リスク」のジレンマ-
  3. 「掘削除去」の選択による代償と影響
  4. 掘削除去と外部環境負荷への懸念
  5. 解決策への糸口
1. 土壌汚染対策の理想と現実 -掘削除去がお好き?-

土壌汚染への対応としてまず求められることはなんでしょうか。

それは人の健康被害を防止することです。

日本では、人の健康被害を防止するための基準として、1991年に土壌環境基準が、2003年には土壌汚染対策法(以下、土対法)が施行され指定基準が定められました。土対法では指定基準を超過した土壌は人の健康リスクがあると判断され、何らかの措置が必要となります。

土対法では、指定基準を超えた土壌への措置は、掘削除去や原位置浄化といった汚染を無くしてしまう措置だけでなく、覆土や封じ込め、モニタリング等といった汚染を対象地に残した状態でそのリスクを管理する措置(以下、残置型リスク管理措置、といいいます)も認められています。

これは、汚染土壌の人への摂取経路は、主に汚染土壌の直接摂取と汚染地下水の飲用摂取であることから、被覆や封じ込め等の残置型リスク管理措置でも人の健康リスクを防止が可能なことが主な理由です。

土壌汚染措置費用は、一般に汚染の掘削除去が最も高く、残地型リスク管理措置は掘削除去と比較して安価です。しかしながら、実際に土壌汚染が確認された場合、措置方法として80%を超えるサイトで汚染の除去、特に掘削除去が採用される結果になっています。

なぜ、土壌汚染の措置は掘削除去に偏るのか?(1)

図1土対法のサイトでの土壌汚染措置の選択(平成19年度までの累計:環境省の資料より作成)

2. 掘削除去が選択されるわけ -「不動産価値」と「環境リスク」のジレンマ-

なぜ、高額な掘削除去が多くのサイトで採用されるのでしょうか?

これは土壌調査の契機でその大部分を占める不動産取引において、残置型リスク管理措置により土壌汚染が管理されている土地の価値は、汚染がない土地の価値から汚染を完全に除去した費用を減額したあとの価値、とされることが多いためです。

ここで重要なことは、現在の不動産価値の評価の多くの場合において、不動産価値に影響を与えるのは、土壌汚染による人の健康リスクや周辺環境への影響の有無ではなく、土壌汚染、いいかえれば基準を超過した土壌がそこにあるか否か、ということなのです 。

つまり、10億円の土地で5億円分の対策費用が必要な土地の価値は、人の健康リスクや周辺環境への影響がなくても土壌汚染が残っている状態では、5億円の価値と評価される、ことが多いのです(さらにスティグマといわれる嫌悪感の分もマイナスすることもあるようです)。

環境リスクの低減不動産価値の保全一般的な措置費用
汚染の除去
汚染の管理 △~×

では、なぜ「リスク管理措置を採用し汚染を残している土地」の不動産価値は下がるのでしょうか?この原因は以下のようなことが考えられます。

  1. 汚染がない土地と比較して土地利用が制限されること
  2. 建設等に伴い外部に基準超過土壌を搬出する場合には追加で処理費用が必要なこと
  3. 取引関係者によって、土壌汚染リスクが過大評価される傾向にあること(安心の問題)
  4. 敷地外へ汚染が流出するなどして、追加措置費用が必要な可能性があること

実際にこれらの要因でどのくらい価値が下がるか、という議論はされていませんが、先に述べたとおり、実際に80%以上のサイトで汚染の除去が採用されていることからも、土地売買では土壌汚染は掘削除去をして売買をする、という流れが一般的になっていることがわかると思います。ここには前述の経済的な要因以外に買主の漠然とした"きれいな土地を買いたい"という気持ちも大きく作用していると思われます。

もちろん、土壌汚染が無くなること、"基準を超過する土壌"がなくなることは、当該サイトおよび周辺の環境面から見ると、"よいこと"のようにみえます。しかしながら、このよう汚染がない土地、基準超過土壌がない土地を求める動きが、地域の社会経済的な影響の引き金となる場合もあります。

■次回 「なぜ、土壌汚染の措置は掘削除去に偏るのか?(2)」 へ続く

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執筆者プロフィール

保高 徹生 (やすたか てつお)

京都大学大学院農学研究科 博士前期過程修了、横浜国立大学大学院 博士後期過程修了、 博士(環境学)。環境コンサルタント会社勤務、土壌汚染の調査・対策等のコンサルティング、研究を行う。平成19年度 東京都土壌汚染に係る総合支援対策検討委員会 委員。

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