インタビュー
学生インタビューこれから社会を担う学生は環境問題やCSR活動をどう見る?後編
これから社会を支えていく学生は、企業の環境・CSR活動をどのように見ているのか。また社会の環境問題への意識を高めるためどのような施策を考えるのか。コラムニストでお馴染み、東大院生長濱さんと、同じ自然環境学専攻で環境問題について関心を持つ学生の皆様にお話しを伺うため、東大柏の葉キャンパスを訪問しました。インタビューは、若い世代の声を社会へ発信するUnited Youth福島氏、編集長 猪又の2名で進めました。前編に続き、後編をお届けします。(CSRJAPAN(※1)副編集長=高橋泰美)
写真1:社会の環境問題への意識をいかに高められるのか?福島氏(左)と意見を述べる辻さん(右)
前編はこちら
(※1)CSRJAPAN・・・2010年11月4日~2017年6月29日までアミタ(株)が運営していたWebサイト。2017年6月29日以降は「おしえて!アミタさん」サイトに統合。
環境・CSRへの興味・関心を高めるためには?
福島氏:皆様からみて、企業の取組みはどのように映っていますか?
辻さん:僕は就職活動をしていますが、企業に入社してからやりたいことを中心に企業を見ているので、正直なところ、あまり環境やCSRの取組みについては見ていません。
陳さん:私は企業が社会問題に対してどのように取組んでいるかを見ています。事業活動が社会問題への解決につながる企業に就職できたらと思います。
大西さん:私も企業の環境やCSRの取組みはチェックしています。色々な取組みをやっているなと思いますが、やらなくてはいけないからやっているという印象もあります。
写真2:企業のCSRはやらなくてはいけないからやっているという印象を受けると語る大西さん
福島氏:確かに環境やCSRに関するWEBサイトを直接見る人は少ないですよね。それなら陳さんの言うように、事業に結びつくCSR活動をやることにより、環境やCSRに関心を持つ人も増えるかもしれませんね。
辻さん:事業活動として環境問題に取組んでいることもCSRなんですね!今まで事業活動で環境問題に取組んでいる企業、という観点で就職活動をしていて、それもCSRということに今気づきました。
猪又:ご存じのように企業は環境やCSRの取組みを進めています。一方で、先ほどの話にもあったように社会全体でみると一部の人を除き環境・CSRへの関心が少ないというギャップがあるのが現状です。社会を良くするにはもっと広く環境問題やCSRへの意識を持ってもらう必要があると思いますが、どうしたら関心を持ってもらえる人が増えると思いますか?
辻さん:環境・CSRに関する情報が日常に少ないと感じますね。例えば採用ページにCSRへのリンクを張るなど、見てもらえそうなところにもっとPRするといいのではないでしょうか。
長濱さん:国が環境税などの仕組みを導入していかないといけないのかもしれないませんね。とはいえ、国自体も、環境やCSR以外の課題の方が優先順位が高く、全く 進んでいないというのが現状です。でも本来、生きていくということで考えると環境問題は最重要課題だと思うんですけどね。
福島氏:国としても今まで仕組み作りをやろうとしたことはあったんですが、どこかで止まってしまっていたんです。環境税もようやく導入を検討しているようですが、環境問題への取組みが大事だということをもっと発信し、そうした国の施策を応援し盛り上げていくことが必要ですね。
大西さん:国がやることは緊急で重要なものから予算がついていくと考えると、みんなが環境問題が大事だ、と訴えて課題の重大性を伝えることが重要になる。となると、みんなが重要だと思ってもらうにはどうしたらいいかを考える必要があると思います。また、環境問題への対応を直近にやるものと長期的にやるものと分けてもいいのでは。私がやっている里山の研究では農作放棄など既に起きている課題があり、その課題に対して取組むことは意味があります。今社会に関わっている人は今の問題を解決する、子どもたちはその子どもたちが社会に出た時の社会問題を解決する、ということを考えると、やはり環境教育が大切になるのかなと思います。
長濱さん:重要と認識されるかどうかは「体験」や「距離感」ということがキーワードではないでしょうか。研究でよく途上国に行きますが、行く度に環境破壊や人口増加の問題を実感します。まず体験が大事ですが、かといってみんながすべてのところに行くのは難しいので体験が聞ける場が大事ではないかな。体験を聞く機会がない場合は環境教育が必要かなと思います。私がボランティアスタッフをしているアースウォッチ ・ジャパンというNPOでは海外での体験談を聞けるサイエンスカフェやミニトーク等のイベントをして います。あちこちでこういう会をやれたらいいんじゃないかなと思います。企業がそういった場を提供することも一つの取組みですね。
大西さん:環境問題を身近に感じるには、身近な友達に何かの問題が発生することも一つです。例えばPM2.5の話も陳さんと友達になり中国が身近な存在になったことで、気になる問題の一つになりました。
陳さん:PM2.5の話題は命に係わるので、中国では真剣に取組まないといけない状況になっています。生命の危機にさらされると問題の重要性が一気に高まります。
写真4:中国の環境問題の深刻さについて語る陳さん
猪又:そういう意味でいうと日本では危機意識が薄い、ということなんですかね?豊かになり技術も進むとそういう意識が遠のいていく。かといって常に生命の危機にさらされている状況だと生活が不安定になってしまう。でも地球温暖化の問題は早急に対策を取る必要のある緊急課題である可能性もある。どうバランスを取るか、難しいですね。
長濱さん:科学の不確実性に対してどのように対応できるかというのを環境倫理で学びました。生物多様性の中での折り合いをつけて人間も生活すべきですが、どうしても自分中心、人間中心になっているのが現状だと思います。誰か自然によりそい、持続可能な暮らしを提案するカリスマ的な人が出てきて、みんながそれをかっこいいと倣うようになるといいのでは?数値的に知りたい場合は、OECDが出した指標(Green Growth Indicator)やリオ+20で発表された新しい経済指標(Inclusive Wealth Index)で今の生活を図ってみるのもいいかもしれません。
意見交換を終えて
猪又:今日は色々な意見をありがとうございました。最後に皆さんの感想を聞かせてください。
辻さん:環境問題は政策的にやっていけばいいと思っていましたが、それが難しいこと、実際には企業の環境・CSR活動で補っていることを知りました。またそれは今回こういった場があって知ることができたので、学生と企業人とが情報交換したり議論 したりできる場は必要だなと感じました。またSNSなどで議論が広がって行くといいなと思いました。
陳さん:今日は衝撃を受けました。日本では皆、環境問題には関心が高いと思っていたのですが、やはり命に係わる問題でないと真剣に取組まないのかもしれませんね。これからは改めて、いかに環境問題に関心をもってもらうかを考えていきたいです。
大西さん:国にできることと企業にできることは違うことが分かりました。国ができることはみんなに必要なことをトップダウンでやることだと思うのですが、環境問題は一人ひとりが取組むことが大切。企業が独自性をもって環境問題へ取組むことで個々の問題が解決していくのかなと。企業の独自性を生かして、実際に起こっている問題に対して取組みをすることで注目度も上がるし、問題も解決すると思います。
内田さん:地球規模の環境問題は原因と結果がつながっていないので、実感に繋がらないと思います。取組みの実感を持たせるということが大事だと思います。
佐藤さん:水害の研究をしていますが、どの地域が危険かを中心にみていて、人に対してどうしようという視点まで考えられていませんでした。今後の研究の参考になりました。
長濱さん:今日は普段の研究とは違う観点でみんなの意見が聞けて、お互いの理解にもつながって良かったです。また、市民と企業、研究者 が相互にコミュニケーションを取れる場があるといいなぁと思います。
猪又:私たちも学生の皆様の考えを聞けてよかったです。今後もこういった場をCSRJAPANで提供できたらと思います。今日はありがとうございました。
関連情報
学生の紹介
陳 俊琳(チン シュンリン JUNLIN CHEN)氏
中国出身。東京大学大学院 新領域創成科学研究科 自然環境学専攻の生物圏情報学分野に所属。学部時代は中国の大学で日本語を専攻していた。大学四年生から日本に留学。その頃から中国の大気汚染が悪化し、日本の環境のよさを実感していたことから、日本の環境保護に関するノウハウを知りたいと思い東大に入学。現在は中国少数民族の伝統的な森林文化を研究し、その伝統的な森林文化を活かして中国の自然保護区の管理問題をどのように解決かということを考えている。
大西 鮎美(おおにし あゆみ)氏
2014年4月から東京大学大学院 新領域創成科学研究科 修士課程に在籍中。
学部時代は、工学部でウェアラブルコンピューティングの研究を行っており,自然環境学の分野でも、行動認識の技術を用いて研究を行っている。実家は兵庫県揖保郡太子町に山と田畑を所有し、とくにローカルな視点から環境問題に関心を持っている。後継者問題など地域が抱える問題を解決するため、研究室の友人と共にITを駆使した地域活性化を目的とした起業を考えている。
内田 竜嗣(うちだ りゅうじ)氏
東京大学大学院 新領域創成科学研究科 自然環境学専攻 修士課程2年。今現在の研究テーマは「どのようにすれば環境問題について子供たちに伝えられるだろうか、考えさせられるだろうか」という点から、わかりやすく興味を持ってもらうために「マンガ」という媒体に着目し、環境教育においてマンガの教材化の検討について研究している。
辻 周真(つじ しゅうま)氏
神奈川県鎌倉市出身。2014年に慶應義塾大学理工学部機械工学科を卒業し、東京大学大学院新領域創成科学研究科自然環境学専攻に進学。大学院では森林計画について学習を進めながら、間伐材のエネルギー利用について研究中。
佐藤 李菜(さとう りな)氏
東京大学大学院新領域創成科学研究科博士課程に在学中。専門は地理学。研究では、災害の中でも特に水害を対象とし、被害を受ける危険性が高い地域を新しい方法で評価しようと試みている。地球温暖化による降水量の変化は水害の発生頻度・規模等にも影響するため、注目している環境問題である。
長濱 和代(ながはま かずよ)氏
東京都の小学校教員をしていた2006年に国際環境NGOアースウォッチによる途上国の森林プロジェクトに参加して、地球環境の劣化を目の当たりにして以来、環境教育の可能性を模索中。2013年3月に筑波大学大学院生命環境科学研究科で環境科学修士。同年4月から東京大学大学院・新領域創成科学研究科博士課程に在籍中。現在は北インド・ヒマラヤ山麓に位置するウッタラーカンド州で、住民参加による森林管理の事例として森林パンチャーヤトを研究している。インドは今後世界中で最も多い人口を抱え、経済的かつ地球環境的変化を遂げる国の一つとして注目している。
インタビュアー
福島 宏希(ふくしま ひろき)氏
早稲田大学理工学部卒業、フロリダ州立大学大学院(修士)修了。環境コンサルティング会社に勤務し、国内外の法人営業を担当した後、環境NPOの職員となる。洞爺湖G8サミットに向けた青年の分野横断プロジェクト「Japan Youth G8 Project」を主宰し、World Youth Summitを開催。2012年にブラジルで開催された「リオ+20(国連環境開発会議)」に政府代表団顧問として参加。現在は活動する若者の分野・地域横断のプラットフォームを築く「United Youth」(http://unitedyouth.blog96.fc2.com/)を主宰している。
猪又 陽一(いのまた よういち)
アミタ株式会社 CSRプロデューサー
早稲田大学理工学部卒業後、大手通信教育会社に入社。教材編集やダイレクトマーケティングを経験後、外資系ネット企業やベンチャーキャピタルを経て大手人材紹介会社で新規事業を軌道に乗せた後、アミタに合流。環境・CSR分野における仕事・雇用・教育に関する研究。環境省「優良さんぱいナビ」、企業ウェブ・グランプリ受賞サイト「おしえて!アミタさん」、「CSR JAPAN」等をプロデュース。現在、企業や大学、NPO・NGOなどで講演、研修、コンサルティングなど多数実践中。
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