Q&A
マルポール条約の改正により、船で廃棄物を運搬した後に出る貨物残渣は、船会社が排出事業者になるって本当ですか?
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はい。2011 年7月にマルポール条約が改正され、船舶を使って廃棄物を運搬した後に出る貨物残渣と洗浄水中の洗剤・添加物の排出規制が追加されました(2013年1月1日発行)。廃掃法では「事業活動に伴って生じた廃棄物の処理責任は事業者」、すなわち船舶運航事業者にあるとされているため、船舶輸送後 に出る貨物残渣は、船舶運航事業者が排出事業者 になります。
そもそもマルポール条約とは
マルポール条約は、国際海事機関(International Maritime Organization 以下「IMO」)において1978年に採択され、1983年に発効されました。この条約は船舶の航行や事故による海洋汚染の防止を目的として、規制物質の投棄・排出の禁止、通報義務、その手続き等について規定しています。本条約の内容は、日本においては海洋汚染等及び海上災害の防止に関する法律(海洋汚染防止法)により国内法上の担保がなされています。
海洋汚染等及び海上災害の防止に関する法律
法律の一部改正について
マルポール条約は6つの附属書から成っており「船舶からの廃物による汚染の防止のための規則」を定めた附属書Vが、2011年7月に改正されました。これにより、2013年1月1日より、海洋環境に有害でないと認められる一部の廃棄物を除き、船舶から発生する廃棄物の海洋投棄が原則禁止となりました。
これを受け、2012年9月に海洋汚染防止法の一部が改正されました。船舶及び海洋施設からの排出については、原則海洋への排出が禁止され、従前は海洋に排出できないものを政令で規定していたところ、排出できるもののみを政令に規定することになったのです。
有害性の判断基準について
貨物残渣の海洋環境有害性のうち、短期有害性については、平成 25 年 1月 1日から規制が適用されました。一方で、長期有害性については平成 27 年 1月 1日 まで判定のための猶予期間が設けられています。 ※判断基準の詳細は下記の出典をご覧ください。
出典:「港湾における船内廃棄物の受入に関するガイドライン(案)Ver.1.1」国土交通省港湾局 2012年12月(P.7、表4) ※基準については「化学品の分類および表示に関する世界調和システム(GHS)第4版(2011)」に基づいています。
GHS(2011)
規制される廃棄物
附属書Vにおいて規制される廃棄物は、貨物残渣、洗浄水中の洗剤・添加物、ダンネージ・ライニング、動物の死体、すべてのプラスチック、食べ物くず、料理油、漁具、日常生活廃棄物、その他の通常廃棄物です。 上記の廃棄物うち、今回の改正で規制が追加されたのが貨物残渣と洗浄水中の洗剤・添加物です。下の表に改正前と改正後の注意ポイントを記載しました。
廃棄物の種類 | 改正前 | 改正後 |
---|---|---|
貨物残渣 | 規制なし | 海洋環境に有害でないもののみ12海里以遠で排出可 |
洗浄水中の洗剤・添加物 | 規制なし | 海洋環境に有害でないもののみ排出可 |
※出典:
「港湾における船内廃棄物の受入に関するガイドライン(案)Ver.1.1」国土交通省港湾局 2012年12月
船内廃棄物は、陸揚げされるまでの間は海洋汚染防止法の規定が優先的に適用されるため、その運搬や排出方法等について廃棄物処理法は適用されません。しかし、いったん陸揚げされたものは廃棄物処理法が適用されます。この場合の排出事業者は通常船舶運航事業者となります。廃棄物の分類については、各自治体において判断されます。一般的に想定される船舶からの排出物の分類は「港湾における船内廃棄物の受入に関するガイドライン(案)Ver.1.1国土交通省P.11表6をご覧ください。
船舶運航事業者が取るべき対応について
海洋汚染防止法では、有害液体物質または未査定液体物質を排出した者には1千万円以下の罰金が課せられています。 船舶運航事業者は違反行為を知らない、あるいは違反行為が会社方針や指示に反して行われた場合でも、従業員の行為に対して責任を負担しなければならなりません。違法行為を防ぐためには、日々の管理体制を強化することが重要です。
例えば、管理システムの導入や、適切な教育を受けた担当者を配置する等の体制づくりが挙げられます。また、船舶内に業務内容に沿ったマニュアルを積んでおくことも、法律違反のリスクを低減するうえで有効な手法であるといえます。
今後の動きについて
2014年7月14日現在は、2012年12月発表の港湾局のガイドライン(案)が最新の情報ですが、今後新たな知見の蓄積状況等を踏まえ、記載内容が随時見直される可能性があります。
こちらのガイドライン(案)は港湾管理局を対象として作成されたものであり、船舶運航事業者や荷送事業者が参照する場合には、事業者が取るべき対応について網羅したものではないことに留意しましょう。また、船内廃棄物の処理に係る実態調査結果では、港湾における受入体制・設備の整備、新たな費用負担の発生、自治体による回収ルールや受入判断の不統一など、各種の課題が挙げられており、実態に併せた運用整備が求められています。
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【執筆者プロフィール】
中村 こずえ (なかむら こずえ)
アミタ株式会社
環境戦略支援グループ カスタマーリレーションチーム
鳥取大学大学院農学研究科を修了後、アミタ株式会社へ入社。 環境問題に関心があり、アミタの「無駄なものなどこの世にない」という理念に共感して2014年入社。現在は非対面の営業チームであるカスタマーリレーションチームにて、アミタの各種サービス提供を担当。
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