コラム
ネスレ|地域社会やバリューチェーンと展開する"共通価値の創造" 【後編】おしえて!きかせて!環境戦略
前編のインタビューでは、ネスレの歴史や経営原則である"共通価値の創造"についてお話いただきました。後編では、具体的な事例として「ミルク工場プロジェクト」と「ネスレ カカオプラン(以下、カカオプラン)」についておうかがいします。
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多面的な取り組みで原料の安定供給と地域経済の発展を同時に実現
成田:ネスレと社会、双方にメリットをもたらした事例を教えてください。
冨田氏:ネスレは全世界で現在436の工場を稼働させていますが、その約7割が農村部、半数が新興国に存在します。ネスレが工場を建設し、地域の雇用を創出しただけでなく、今回は地域開発にも貢献した一例として「ミルク工場プロジェクト」について紹介します。
ネスレは1962年にインド北部にあるパンジャブ州モガという地域でミルク工場を建設しました。当時のモガは、紛争地域も近く、インフラは全く整っていない地域でした。このような地に酪農開発プロジェクトとして10億円を投資しました。具体的には、冷蔵ミルク集荷場を設置したことにはじまり、原乳を集荷するトラックの手配や、獣医や栄養士、農地管理の専門家による技術指導、資金援助など多面的な投資を行いました。
成田:ミルクを安定的に生産できるように、環境を整備されたわけですね。
冨田氏:そうです。しかし「ミルク工場プロジェクト」では、農家向けの直接的な支援だけではなく、自治体と一緒に、電気・水道・電話・交通手段など、未整備であったインフラも充実させ、医療の充実、小中高校の整備を並行して進めていきました。単に、病院や学校を建設したということではなく、医療機器や教科書などの備品、医師や教師の派遣といったところまで踏み込んで整備しています。
酪農開発プロジェクトが進み、ミルクの生産が拡大するにつれて、地域経済が発展し、農家の生活水準も向上しました。モガと同様のアプローチは、ブラジル、タイ、中国など10数か国でも行い、どのケースを見ても、ネスレも地域社会も繁栄しています。
成田:インフラも含めた投資を行ったことで、どんな効果があったのでしょうか。
冨田氏:「ミルク工場プロジェクト」を通じて、ネスレにとっては良質な牛乳を安定的に調達できるようになったのと同時にネスレ製品の市場も創りだすことにも繋がりました。一方、地域社会にとっては農家だけではなく直接・間接雇用を生み出し、インフラが整備されることで、地域全体の生活の質が向上しています。長期的な視野で農業開発や地域社会の課題の解決に取り組むことで、結果的にネスレの成長にも繋がっています。
農家の所得向上、地域社会の課題解決、持続可能な原料調達の3本柱
成田:なるほど。長期的な視野で共通価値の創造に取り組まれている事例がよく分かりました。ネスレといえばコーヒーやチョコレートが主力製品ですが、バリューチェーンに対しても共通価値の創造は展開されているのでしょうか。
冨田氏:もちろんです。その事例として「カカオプラン」を紹介させていただきます。ネスレは全世界の約10%のカカオを調達しています。2009年にカカオ農家の収益性、カカオの品質、カカオのトレーサビリティーなどの改善を目指した幅広い取組みを「カカオプラン」という1つのプログラムに統合しました。「カカオプラン」では、1.農家に収益をもたらす農業の実現、2.社会的課題の改善、3.高品質で持続可能なカカオの調達という3つの項目を実現するために取り組んでいます。
カカオ農家のほとんどは零細で低収入であるため、子どもも働き手としてなってしまうという現実があります。ネスレは「カカオプラン」を通じて、品質に見合った価格での買い取りを行い、農家の収入増加を支援することで、子どもが働かなくても安定的な生活を送れるよう生活水準の向上を目指しています。また、地域に対しては、道路や水環境の整備、学校を建設するなど子どもたちが就学しやすい環境を整備し、現地に詳しいNPO、NGO、国際的機関などとパートナーシップを結ぶことで社会課題の改善に向けて取り組んでいます。
高品質で持続可能なカカオの調達といった面では、高品質の苗木や有機肥料の配布・技術支援の提供・病気の拡散を防ぐ剪定方法などの効果的な農作業法についての研修を実施することで、品質も向上し、収穫量も確実に増加させています。このような地域に密着型の支援を行うことで長期的な収益性とサステナビリティの向上に寄与しています。
成田:カカオの持続可能な調達を目指す理由は何かあるのでしょうか。
冨田氏:カカオの木の生産寿命期は25年だといわれています。しかし、世界最大の生産国であるコートジボワールのカカオの木はこの寿命に近づいてきていると言われており、カカオ豆の収穫量が落ちることが危惧されています。安定した収穫ができなくなるということは、生産者の生活に直結するため、別の作物に転換するか農業自体から離れてしまうかもしれません。
その一方で、今後起こりうる人口の増加・新興国の発展などにより、嗜好品であるチョコレートの消費が拡大し、カカオが現在よりも大量に必要となる状況が考えられます。今後も、よりおいしいチョコレートをお客様にお届けし続けるために、いろんな観点から「カカオプラン」に取り組んでいます。
成田:なるほど。今後の人口増加や新興国の発展といった将来を見据えて持続可能な原料調達に取り組まれていらっしゃるのですね。
冨田氏:ネスレ日本では「カカオプラン」の活動の一環として、2015年9月よりキットカットの全製品で国際認証ラベルである「UTZ認証」を導入しました。「UTZ認証」とは、持続可能な農業の普及を推進する認証プログラムで、適正な農業の実践と農園の管理、安全で健全な労働条件、環境保護、児童労働の撤廃への取り組みについて基準を設け、すべての基準が満たされて初めて認証されるものです。
引用:UTZ認証ラベル
日本企業がCSVに取り組むためには
成田:共通価値の創造は、バリューチェーンにおいても実践できるのですね。このような共通価値の創造(CSV)を他社が行うためには何が必要なのでしょうか。
冨田氏:共通価値の創造を行うためにはどのような市場を作るのか、その市場を作るためにどのような社会課題を解決するのかというように、地域の課題と企業の求めるものをうまく結びつけることが重要です。企業のニーズとしては、安定的かつ高品質な原料を持続的に調達したい。しかし、企業の都合だけを優先して推し進めようとしても、多くの場合上手くいきません。その地域の社会課題、社会の求めているものをきちんと汲み取り、企業活動に反映させることが重要になってきていると言ってもいいかもしれません。そのことで、地域社会との信頼関係も築かれ、企業も成長することになるのではないでしょうか。
成田:地域社会との信頼関係を築くことが、成長の土台となるということですね。
冨田氏:ネスレは、創業時から社会課題を事業の機会と捉え、長期的な視野で取り組むことで成長してきました。日本にも社会課題を解決することを目指して創業された企業は多いと思います。創業期の思いに立ちもどり、当時の企業理念や経営原則について改めて、今の時代に合わせて見返すのもいいかもしれません。
成田:いわゆる「社会の公器」としての企業の原点に戻る事で、今の時代に求められることが分かるかもしれない、ということですね。本日はありがとうございました。
関連情報
話し手プロフィール
冨田 英樹 (とみた ひでき) 氏
ネスレ日本株式会社
ステークホルダーリレーションズ室長
1982年4月関西学院大学経済学部卒業後、ネスレ日本(株)に入社。数年間の営業経験後、市場調査、製品企画などで主にマーケティング関係のマネジャーを経験。その後、パブリックアフェアーズ部(当時)に異動し、コーポレートイベント、CSR担当、CSVコミュニケーション担当マネジャーを経験後、2013年より現職ステークホルダーリレーションズ室長。
聞き手プロフィール
成田 晴香(なりた はるか)
アミタホールディングス株式会社
経営戦略グループマーケティングチーム
神奈川出身。事業を通じ、あらゆる社会課題の解決を目指すアミタに魅力を感じ、入社。現在は、非対面の営業チームであるマーケティングチームにて、電話やウェブ、メールマガジンを通じて廃棄物および環境管理担当者に業務支援や教育ツールの案内業務を行っている。
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