コラム
元行政マンが語る、廃棄物管理における行政指導、行政処分、刑事処分の違いとは? |後編:行政処分、刑事処分の流れと仕組みを理解しよう BUNさんの「元・行政担当者が語る 廃棄物管理のイロハ」
時々「その条例や法律を守らない時はどうなるのですか?」という質問を受けることがあります。このような質問をなされる方は「なんとかして法律の網をくぐり抜けて悪いことをしてやろう」と思っている人ではなく「万一、自分が知らないところで法令違反をしたらどうしたらいいだろう」という不安のために質問する時が多いようです。
そんなこともありまして、今回はルールを守らない時、守れない時を中心としたお役所の対応である行政指導、行政処分、刑事処分について前後編に分けて解説しようと思います。後編では、行政処分、刑事処分の流れと仕組みを理解しましょう。 前編はこちらから。
廃棄物に係る行政処分とは?
行政手続法の逐条解説に
という表現があります。
環境省が発出している行政処分の指針でも 「いたずらに行政指導を繰り返すことなく、速やかに行政処分に移行するべきである」旨の記載があります。
これは、不法大量保管が行われているにもかかわらず、何年にもわたり、行政指導ばかりを繰り返し、結果としては大規模な不法投棄事案に発展してしまったという苦い事案が過去にいくつかあったことにもよります。近年では数回・数週間程度の行政指導で、改善命令等の行政処分に移行する事案が非常に多くなってきています。
前述の行政処分指針が最初に発出されたのは平成13年だったのですが、これ以前の行政処分件数は年間全国でも数十件程度でした。それが平成16年には1000件を超え、それ以降も年間1000件近くの行政処分が行われています。
▼関連リンク
環境省:産業廃棄物処理施設の設置、産業廃棄物処理業の許認可に関する状況について
廃棄物に係る行政処分のタイプ
それでは、廃棄物処理法に規定している行政処分について詳しく解説していきます。
- 改善命令
例えば、排出事業者Aから排出された廃棄物が、処理業者Bのストックヤードで基準に合わない保管がなされていたとしましょう。この場合、ストックヤードの管理責任は処理業者Bにあり、排出事業者Aにはありません。従って保管基準に合わせなさいという改善命令は処理業者Bは対象になりますが、排出事業者Aは改善命令の対象にはなりません。
- 措置命令
措置命令は生活環境保全上の支障が発生している(おそれを含む)場合に、その生活環境保全上の支障を除去せよという命令です。典型的な事例としては、水道水源地の近くに廃油が不法投棄されたような場合です。
ここでの改善命令と措置命令の違いについて、説明してみましょう。先ほど例にした、排出者事業者Aから排出された廃棄物が、処理業者Bのストックヤードで基準に合わない保管がなされていたという話を再度取り上げます。
この場合、生活環境保全上の支障が発生していなくとも、基準に合っていない状態ならば、改善命令は発せられます。しかし、生活環境保全上の支障(おそれを含む)がないのであれば、措置命令の対象にはなりません。改善命令は、ストックヤードの管理責任のあるBは命令の対象となり、排出者Aは(原則的には)対象になりません。
一方、この保管状況が極めて悪く、汚水や悪臭、火災の危険性等が高く生活環境保全上の支障が発生しているとすれば、措置命令の対象となります。
この措置命令は排出事業者も命令の対象となり、委託基準違反がある場合などは、実行行為者(不法投棄ならば投棄者)と同様の命令を受ける場合が出てきます。(廃掃法 第19条の5 )
さらに、委託基準を遵守していたとしても、実行行為者が原状回復(生活環境保全上の支障の除去)する資力がない場合は、異常に安い料金で委託していた、処理状況を確認していなかった場合などは、限定的ではありますが措置命令の対象となってきます。(廃掃法第19条の6 )
- 代執行
代執行は、行政処分ではないのですが、ここで紹介します。 代執行とは、その言葉のとおり「代わりに」「執行」するということで、命令をかけたが被命令者が命令に従わないために、被命令者に代わって、行政が原状回復(生活環境保全上の支障の除去)を行う行為です。
例えば、前述の「水道水源地の近くに廃油が不法投棄された」場合、行政は行為者に措置命令(原状回復命令)をしたとしましょう。しかし、被命令者には資金が無く、投棄した廃油を回収できないとしましょう。
そうなると「生活環境保全上の支障」は継続することになってしまいます。つまり、いつ水源地に廃油が流れ込むかわからない状態が続いてしまいます。そんな状態を容認するわけにはいかないので、行政は、被命令者に代わって投棄された廃油を片付ける、ということになります。これが代執行です。
代執行は行政、すなわち、一旦税金で行われます。かかった経費は債権として行政が持ち、建前としては、これを取り立てることになります。でも、皆さん改めて考えてみてください。
資金がなく、措置命令に従うことができなかった人物から、債権を回収できるでしょうか。お見込の通り、代執行に係った税金の多くは不良債権として、結局は税金の使い切りになってしまうのです。税金とは、広く国民から集めているお金で、無関係な人のお金を使う前に、もっと先にお金を出すべき人が存在しているとは思いませんか?それが排出事業者になります。
・あなたが、不法投棄するような人物に委託しなかったらこんな状態にはならなかった」
・あなたが、廃棄物をださなければ、不法投棄は起きなかった
となる訳ですね。だからこそ、措置命令は排出事業者も命令の対象になると覚えておきましょう。
その他の行政処分として、事業停止命令、処理施設設置許可取消等もありますが、これらについては、また別の機会としたいと思います。
廃棄物管理に係る刑事処分とは
次は、廃棄物管理に係る刑事処分について説明しましょう。
不法投棄して措置命令をかけられたのに、資金が無く命令に従わなかった。結果として、代執行となり、自分は資金を持っていないので費用を払わなかった。これでは、命令に従わず不法投棄をした方が得になってしまいます。
そこで最終的に出てくるのが刑事処分です。措置命令に従わなかった場合は、廃棄物処理法第25条の罰則が該当しますから5年以下の懲役になります。これが、このシリーズ最初に出てきた言葉「強制力」なんです。
人はなぜ、命令に従うか?従わなければ制裁、具体的には投獄されるからこそ、命令に従う訳です。不法投棄をして税金を使わせて原状回復させて、それでもなんのお咎めもなく、社会生活を送っているのであれば許されません。
なお、刑事処分(刑事罰)は、命令違反の時だけ適用されるものではなく、直罰の規定がある行為については、全て可能性があります。不法投棄や不法焼却等は、世間一般に広く知られる法律違反ですが、無許可処理・無届け、そして産業廃棄物排出者にとってはもっとも注意が必要な委託基準違反となる無許可業者への委託・無契約等も直罰が規定されています。直罰とは、あまり適切な表現ではないですが、わかりやすく言えば「警察が見つければ一発で捕まる行為」と言えます。
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もし廃棄物処理法違反が発生した場合、どのような罰則を受ける可能性がありますか?
行政指導、行政処分、刑事処分の一連の流れ
さて、いかがでしたでしょうか。今シリーズは「行政指導、行政処分、刑事処分」について、初歩的な形で書いてみました。厳密性に欠ける表現もありますが、それぞれのどんな対応がされているのかわかっていただけたかと思います。
さらに勉強なさりたい方は、環境省から発行されている行政処分の指針 (PDF)をご一読ください。なお、リクエストがあれば「詳細編」「マニアック編」「具体事例編」等をお届けしたいと思います。
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執筆者プロフィール
長岡 文明 (ながおか ふみあき)
アミタ株式会社 特別顧問
山形県にて廃棄物処理法、廃棄物行政、処理業者への指導に長年携わり、行政内での研修講師も務める。2009年3月末で山形県を早期退職し、廃棄物処理法の啓蒙活動を行う。廃棄物行政の世界ではBUNさんの愛称で親しまれ、著書多数。元・文化環境部循環型社会推進課課長補佐(廃棄物対策担当)。
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