組織に還流を促す役割:第1回対談 グリーンフューチャーズ代表 吉田敬史氏(3/7) | 企業のサステナビリティ経営・自治体の町づくりに役立つ情報が満載

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組織に還流を促す役割:第1回対談 グリーンフューチャーズ代表 吉田敬史氏(3/7)藤原仁志の「対談:攻める!環境部」

前回までの話はこちら 「第1回対談 グリーンフューチャーズ代表 吉田 敬史氏(2/7)」

「現在地を知るのは、大切なことですね。」

藤原:現在地を知るというのは、やっぱり大事なんでしょうね。どうしても普段の業務がありますので、なかなか現在地を知るために立ち止まって調べてみるということに行き付けなかったりしますよね。今、排出権のことがよく言われますね。そもそもCO2削減っていっているけれども、じゃあ、自分たちはどれぐらい出しているのかを正確に分っているところってほとんどないでしょう?排出権取引をするにしても、どれぐらい出しているのというようなことを知るためには、それらが正確に測れないと駄目ですね。そういうことが、今になってやっと分ってきているところかなという感じがするんですね。

第1回対談 グリーンフューチャーズ代表 吉田敬史氏(3/7)

吉田: エネルギーだけでなく、廃棄物もそうだろうけど、意外と工場長や、本当の生のデータを事務方なり現場の人が、実体をうまく加工して見せてあげると、あらためてわかることがたくさんあるんですね。マネジメントや経営者が飛び付くような情報というのも、現場の情報の中に実はたくさん埋もれているはずなんですよ。それをどういう切り口で見えるようにしていくか。なにもかも見える化していっても、だめだから。

藤原: なるほど。それを半年ぐらいかけておやりになって、責任者の方にこんなんですよと?

吉田: そうですね。そういう意図があったし、いろんな工場を自分自身で回ってみたいということもあったので。先に話した公害査察を、K さん以外のメンバーもやろうという話もあって、査察ではなく環境監査という言葉がようやく出始めてきたので、これを使えないかなという話になりました。

今どこの会社にもありますけども、監査部が、経理と一緒に業務監査として会計監査とか品質監査とか、1週間くらい徹底してやる社内監査があったんですね。この中に環境監査を入れてもらえないかという話を提案して。当時は、だれもやったことがなかったからみんな行きたがらなかったけど、わたしが行きますからと言って、92年の後半ぐらいから監査部にお願いして、監査部実施の全体監査の中に環境監査というものを一つ、入れ込んだんですね。監査官と一緒にやりますというかたちです。結局、環境部立ち上げの1年間ぐらいは私はこれしか行かなかったと。毎月毎月......。

藤原: 吉田さんしか。

吉田: まず、寄せ集めで環境部に来た人は、行きたがらなかったし。例えば、公害にしても、廃棄物にしても、わたしもそうだけどKさん以外は、だれも何も知らないんですよ。そうしたら、何が、どう規則化されているかっていうことが頭に入っていない。誰も知らない。

藤原: チェックしようがない。

吉田: 何も知らないのに無理だよ、行けないよっていう人ばかりで。当時フロン対応などで忙しかったこともあったんですが。自分で公害防止法規のハンドブックを買ってきて、分らなかったら、K さんに聞きながら勉強していた。あとは、現場で聞いたほうがもちろん早いということもある。教わりにいくというか、コミュニケーションが取れればいいというか。こっちは工場へ行ってみたいという興味があったんです。

藤原: それにかこつけて行ければ、まずはいいじゃないかと。

吉田: 監査部の監査にくっついていくと、アポとるにしても何にしても、私は何もしなくていいんですよ。監査部のスケジュールにあわせて現場に一緒に行きますって。環境部も入れてくださいと。一応部ができたからということで、環境部としても現場を見るべきだという大義名分があったので、それをノーって言う人はいなかったから、行けばいいじゃないかという話で。

藤原: 92年から95年になるぐらいまでは、そんな感じで?

吉田:段々とほかの部員も行くようになりましたね。最初の半年ぐらいの間は、僕だけが行っていたんです。92年の前半ぐらいにそういうデータを集めたり、全体図を把握したりして、後半ぐらいから監査に参加するようになって、93年の前半ぐらいまではほとんど私1人でやっていました。それだけでも、かなりの工場に行きましたね。当時環境だけだったら、1週間なんていらないですよ。経理監査とかは時間がかかるし、生産技術から来た人は、いろんな資材とか棚卸しとかというのを1人でできるけど。僕らは環境だけだから。環境と言っても、公害と廃棄物と振動とか騒音、省エネぐらい。あとフロンの削減などでしたね。

第1回対談 グリーンフューチャーズ代表 吉田敬史氏(3/7)

面白いのは工場現場の人にしてみれば、最初は監査ってなにやるんだろうって緊張しているけど、別に自分たちをいじめに来たんじゃないと分ると、すごくウエルカムになってきて、廃棄物処理場に行きましょう、って向こうから案内してくれたりするんですよ。当時からブラウン管製造に関しては、ブラウン管の再生工場があったんですよ。今みたいにリサイクルとはいえないけどサルベージと言っていたのかな、つくり損なったブラウン管をまた解体して、駄目なところだけ取り替えるという事業を行う子会社もありました。

そういったやり方で廃棄物の処理を委託している業者さんとか、中間リサイクルの協力工場など。そういうところもいろいろ連れていってもらうようになって、わたしとしては何もかもがすごく面白かったですね。現場を初めて見ることばっかりだから、何もかも面白かった。本当にあのころは、学ぶ、知ることが楽しくてしょうがない。今から思えば、どうという仕事もしていないんですが、どんな仕事でも興味さえ持ったら面白く感じるはずで、目的意識を持てるはずなんですね。

藤原: そうですね。逆に大学でそういう技術を専攻して、自分の専攻はこれなんだということで電機メーカーに入って、そのままずっと同じことをやるのは、キャリアとしては普通なのかもしれないけど、別の見方からすれば異常ですよね。例えばただ、回路の設計だけを一生ずっとやっているというのは。

吉田:電気工学とか電気系を出たら、回路の設計とか、ソフトを開発したりとか。でも、それを20代、30代で身につけて、40代になると今度は完璧な係長とかプロジェクトのリーダーとかマネジャーを目指す。ソフトだったら、何十人も人を使ったプロジェクトマネジメントとかを目指していくと、自分が段々、技術者じゃなくなってくるでしょ。それはそれでいいんだけど、自分にとってはそれもあまり面白くなかった。エキサイトしなかった。だから、そういう意味では環境部門でのスタートは、今みたいな格好いい環境整備じゃなくて、最初は監査から始めました。それはわたしにとってものすごく新鮮なことでした。

「環境部門だからこそ、全体が見える。」

藤原: 環境部門に異動されたときは、入社何年目ぐらいだったんですか。20年目ぐらいですか。

吉田: 19年でしたか。

藤原:ほぼ20年ぐらいずっと技術者でいらっしゃってたけど、異動がなかったら、大事な部門なんだろうけれども、組織がもつ技術の一部分だけになっていたら、本当に電機メーカーの全体像っていうのは見えなかったでしょうね。

第1回対談 グリーンフューチャーズ代表 吉田敬史氏(3/7)

吉田: わたしは神戸の製作所の中で、十何年過ごしていましたけど設計部門や、もちろん物をつくっている現場とか、開発をやっている開発室は大体わかりましたが、本社に移っていろんなところの環境監査を通じて始めて現場の裏をみることができましたね。しばらくしてから監査のチャンスがあったときに、自分がもといた神戸製作所で、監査の中でいろんな場所を案内してもらって「こうだったんだ、じゃあ、これ、こんな商品だった」というふうに、自分の工場からこんな廃棄物が出ていて、どれだけエネルギーを使っているか、それまでバックヤードの設備に、全然興味がなかったから目に入ってないですよね。

藤原: 関係ないと言えば関係ない。

吉田: 環境をやるようになって、昔の職場としての現場を案内してもらうと、いろんなところにいろんな建物があって「これが危険物倉庫です」といわれてはじめて「ああ、あれがそうだったんだ」と、驚きばっかりだったんです。今はもうあちこち見ましたから飽きましたけど、そのころはそういうものがものすごく新鮮でした。誰も知らないことを知っているみたいなね。

藤原: 私の会社でも若手にリサイクルの営業をさせるのですが、新卒で入ってきた連中は、必ずしもそういう生産現場を体験してはいないんです。ただ、逆に言うと生産現場は知らないけど、いろんなお客さんの工場にいって、バックヤードから入っていくのがリサイクルの営業なんです。いろんな業会、流通さんも含めて、電機メーカーから自動車メーカー、製紙メーカー、その他生産材から、消費材まで、幅広くあらゆる業種の生産バックヤード見ていくと、みんな面白いって言いますね。みんなリサイクルの仕事はものすごく好きですよ。ただ、あまりにモノにばかり気をとられるのは良くないと言うんですけども。

吉田: そう、面白いと思うんだよね。

藤原: 逆に言うと、それがつくるほうに反映できないという思いもあるんですよ。それはやっぱり現場の方の意思と同じで、今おっしゃったKさんもそうでしょうし。最近だいぶ生産現場と管理部門との交流ができてきていると思うんですけど。それでもまだ、上流のほうから、今おっしゃったようなよほど配置が入れ替わって、エンドオブパイプ(下流)から見たときには、違う見え方があるという体験を皆さんができるとは限らないんですね。

吉田: 今、藤原さんが言われたとおりだと思うんです。結局現場というのは昔から実は、環境関係部門からは見えないものがいっぱいあるし、オペレーションの中でいろんなことがやられていて、いろんな化学物質管理とかもしなくてはならないですが、実はそれは多少複雑になっているだけで、基本はそんなに変わっていないと思うんです。

本社の環境部門の役割っていうのは、現場のそういうものをマネジメントに向けてフィードバックするためのお手伝いをいかにするかだと思います。現場だけにそれをしろと言ったって、できないんですね。ただ、監査するだけだったら駄目なんですよね。やっぱりその中から興味を持って見て、面白いものをマネジメントに持ち上げてあげるというか、うまく加工して、見せてあげる、フィードバックしてあげる。

マネジメントが興味持って動くと、また現場にいろんな力が働いていくんですよね。そういう「還流を起す」というのは、本社の環境部門の最大のミッションなんですよね。 やっぱり現場をよく知り、自分が興味を持ち、なぜこうなっているのか、徹底的に学んで、自分の目でこうやれば面白いなというものを経営者にぶつけていくということが大切です。あっち行ったり、こっちへ行ったりということを使い分けることができることがすごく大事だなと思います。

藤原: そういう動きができる部門って少ないと思うんですね。環境以外には、なかなかできない。

吉田: やれば面白い。

■次回「第1回対談 グリーンフューチャーズ代表 吉田敬史氏(4/7)」へ続く

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